番外編 一方その頃の悪友たち(前編)

 ~Side:あや子~



 小絃ママの『緊急事態発生』の連絡を受け、嫁と共に心配して様子を見に来てやったら…………真っ昼間からバブバブと、倒錯的で頭の悪いプレイを堪能していた小絃バカとそれに付き合わされていた琴ちゃん。

 お楽しみの邪魔をしたくない(※と言うか下手に関わりたくない)からと二人の愛の巣から早々に離脱した私たちだったんだけど……


「あや子ちゃん……私も……その…………あ、あや子ちゃんと……あんなプレイ、してみたいなーって……」


 よりにもよって、うちの可愛い嫁があの二人に感化されてしまったからさあ大変。……いや、誤解が無いように言いたいんだけどね。私は別に紬希とそういうプレイをしたくないってわけじゃないのよ?嫁と愛を育む方法はいくつあっても困らないし。……私だってそーいうのに興味が無いわけじゃないんだし。

 ただ……ただね……


「わ、私も常々思ってたの……あや子ちゃんの事、思いっきり甘やかして……甘えられたいなーって……!」

「…………えっ!?ちょ、待って!?しかも私が赤ちゃん役なの!?」


 ……役割、違うくない?これは紬希が赤ちゃんをやるなら良いのよ。二十歳を過ぎてもロリロリしいゴスロリ服とかでも余裕で着こなせちゃう合法ロリなうちの自慢の嫁ならば、赤ちゃん役も絶対似合うって確信してる。紬希に甘えられるなら、私も喜んでいくらでも甘やかしていいと思ってる。

 けどね。赤ちゃん役をやってほしいってなると話は別。こんな大女が……男よりも男らしいデカ女ってあのバカにもバカにされるくらいの私が……赤ちゃんをやれと?私とは正反対にちっちゃくて華奢で可憐な紬希に……バブバブ♡しろと?

 む、無理……!琴ちゃんとイチャイチャするためなら、昼間だろうと私たちに見られようと余裕で醜態を晒せるあのバカみたいなメンタルなぞ、生憎私は持ち合わせていない。プライドとかその他諸々の理由で無理よそんなの……!?


「……だ、ダメ……かなぁ?」

「…………ぅ、ぐ……」


 …………とはいえ。私の愛おしい嫁必殺の上目遣いのおねだりを無碍にするのも……それ以上に無理なわけで……


「ね、お願い……あや子ちゃん……」

「ぐ、ぬぬ……ぐぬぬぬぬ……っ!」


 そして迷った末……私は——



 ◇ ◇ ◇



「よしよし。良い子ですねーあや子ちゃんは。お母さんがいっぱい良い子良い子してあげますからねー」

「は、ははは……わ、わーい……あや子嬉しいなー……」


 結局嫁のおねだりには敵わずに。プレイに合意してしまった私。し、仕方ないでしょ……あんな顔されて拒否れるわけないし……

 私の了承を得た紬希は。嬉々として家に帰るなり、ソファに座りポンポンと自分の膝を叩いて……手始めに私に膝枕を強要する。恥ずかしいけど……まあ、ままごとに付き合うって思えばそう難しいものでもないハズ。適当にやり過ごせば紬希も満足してくれるだろう。


「……むー。あや子ちゃんだめですよ」

「へ?だ、ダメって……何が?」

「今のあや子ちゃんは赤ちゃんです。ですからそんな流暢にお話できないでしょう?」

「え……」

「できないでしょう?」

「あっ、はい……ごめんなさい…………じゃ、なくて……ば、バブー……」

「うん、よろしい♪」


 ……なんて甘く考えていたけれど。紬希の方はかなりガチだった様子。私の言葉遣いを厳しく指摘して、即修正を求めてきた。

 生真面目で何事もやるからには全力がうちの嫁の良いところだものね……いけない、これは思った以上に気合い入れて赤ちゃん演じなきゃまずいかもしれないわね……


「さ、あや子ちゃん。いい子いい子を続けてあげますよー。……あ、力抜いて良いのよ。あや子ちゃん、頭浮かしてるでしょ。そんなに遠慮も緊張しないで。安心して私に委ねてね」


 気を取り直して良い子良い子再開。紬希の負担にならぬようにと肩に力を入れてから頭を少し浮かしていたんだけど。すぐに見抜かれて力を抜くように指示をされてしまう。

 観念して紬希の膝に頭を乗せさせてもらい。されるがままに褒められて、そして丁寧に優しく撫でられる。


「(…………あっ、でもこれ思ったよりも良いかも……)」


 いざ始まってみれば……恥ずかしさはあれども想像していた以上に良かった。嫁の膝枕は柔らかいし暖かいし、ほどよい高さでお日様みたいな良い匂いもする。膝枕されてるだけで気持ちよくなって、眠っちゃいそう……


「あや子ちゃん、きもちいい?」

「んー♪」

「ふふっ、いいみたいね。良かった。……今は日頃の辛いこととか、苦しいこととか。全部忘れていいからね。ぜんぶ、お母さんに委ねていいからね」


 優しい手付きで撫でられるのも、うっとりする声で名前を呼ばれるのも癒やされるし凄い落ち着く。まだプライドが邪魔をして心から素直に赤ちゃんにはなりきれてないけれど……でも、まあ。プレイが始まる前の抵抗はなくなってきた気がする。


「あ……そうだ。折角だしこのまま耳かきしちゃおっか。あや子ちゃん、良いかな?」

「あーい♪」

「よしよし。じゃあ、すぐに準備してくるね。……あや子ちゃん、良い子で待っててね」


 そう言って紬希はポンポンと私の頭を数回撫でて、パパッと準備に取りかかる。すぐに準備すると言った通り、ものの1分もかからずに電子レンジで温めたホカホカの温タオルと綿棒を持って戻ってきてくれる。


「お待たせ。それじゃああや子ちゃん。早速はじめようね。……耳かき怖いかも知れないけど。大丈夫だからね、安心して、お母さんに身を任せてくれれば大丈夫だから」

「バブー(わかったわ)」


 安心させるように私の耳元でそう囁く紬希。もとより不安になる要素なんて無い。紬希がこの私を傷つけることは絶対にないって信頼してるし……それに仮にミスって傷つけても、紬希に付けられた傷なら喜んで受け入れるし。


「それじゃあまずはお耳を温めてあげる。あや子ちゃん、熱かったらお母さんにすぐ教えてね」


 そんな優しい一言と共に、私の耳が温タオルに包まれる。熱すぎる事なく、絶妙な温度のタオルで耳を蒸らされ。そして程よく温まったところで耳たぶや耳の周りをこれまた絶妙な力加減で拭いてくれる紬希。ホント気持ちいいわ……まったく、こんなテク一体どこで覚えてきたのやら……


「……どうかなー?痛かったりしないかなー?」

「…………おぉぅ……」

「ふふふ。聞くまでもなかったね。いつかあや子ちゃんにやってあげたいって思って、こっそりやり方勉強しておいて正解だった。じゃあこの調子で……お耳の中もきれいきれいしますよー」


 ある程度温まったところでいよいよ本番。耳からタオルを取り、白い綿棒を取り出して私に見せつける紬希。


「……本当は竹ぐしの耳かきを使いたいところだけど。初めてだし、あや子ちゃんの大事なお耳を傷つけたりでもしたら大変だから。今日はお耳の入り口だけ、この綿棒で綺麗にしてあげる。……綿棒とはいえ、変に動いたりしたら危ないからね。ジッとしておいてね。あや子ちゃんは良い子だからできるよねー?」

「はぁい……」

「ふふ、いいお返事。じゃあ……いくよ」


 合図と同時に綿棒が私の耳に侵入する。耳の壁に綿棒を這わせ、くるりくるりと一回り二回りと耳の入り口をなぞってゆく。汚れを、耳垢を捕らえかき出し、慎重に丁寧に綿棒が動いてゆく。


「ほわ……はふぅ……」

「……あや子ちゃん、気持ちよさそう。良かったです♪それじゃあ続けるからねー」


 自分の手でやっているわけじゃないから、次にどう動かれるのか全くわからないのだけれど……紬希の安心させるその声と、耳を押さえるその手と太ももの心地よい柔らかさと温もりのお陰で恐れは全く抱かない。


「きれいきれいにしてあげますからねー……ほぉら、すっきりしてきましたよー」


 耳かきの合間にも、囁きながら私を良い子良い子と紬希は撫でる。撫でられるごとに、耳かきされるごとに。全身から力が抜けていって、意識が心地よい微睡みの世界へと向かおうとしているのがわかる。


「(……一時はどうなる事かと思ったけど。こういう感じのプレイなら大歓迎ね)」


 ……何というか。これじゃあどっちかというと紬希が当初望んでいた赤ちゃんプレイというよりも、ただの恋人同士のイチャイチャプレイみたいになってはいるけど……紬希本人はこれはこれで満足そうだし、私も気持ちいいから万事OKだわ。


「よし……っ!上手く出来た♪お疲れ様、あや子ちゃん。それじゃあ次は反対側のお耳だよー。ごろん、しようね。今度は頭を私の方に向けてねー」

「……ぁーい」


 若干夢うつつになっているところで紬希からそう指示される私。言われるがまま、頭の向きを入れ替えて。今度は反対の耳が紬希に見えるようにしてみたんだけど——


「(…………白)」


 ここで大きな誤算が一つ。今日の紬希は……つい先日私がプレゼントしてあげた、ミニスカートを履いていて。私がもぞもぞ紬希の膝枕の上で動いた拍子に、スカートは大きくめくれ上がってしまっていた。

 めくれた先は魅惑の三角地帯。清純で清楚な紬希にぴったりの……白の光景が私の目と鼻の先に広がっていて……


 ……魔が差した、としか言いようがない。


 紬希の耳かきや良い子良い子が気持ちよすぎて。一種の思考停止状態だったのかもしれない。最近は紬希にリードされる事が多かったし。原点回帰で私の方からも紬希を乱れさせてやりたい……そんな欲求不満な悪い心が私の中で渦巻いていたのも原因だったのかもしれない。

 とにかく後から考えると……この時の私は、正気じゃなかった。


「はーい、あや子ちゃん。それじゃあ反対のお耳も温めて——」


 半ば無意識にその白の世界へ、誘蛾灯に誘われる虫のごとくふらふら近づいて。いつもの調子で舌を伸ばし……そして。


「…………(ペロッ)」

「ひっ…………ひぁあああああああんッ!?」

「……あ、やべ」


 その舌で、布越しに……一舐めしてしまったのである……


「ご、ごめん紬希……な、なんて言うか……ムラムラしちゃってつい……」

「…………」


 紬希の甲高く、そして愛おしい嬌声が上がり正気に戻った私。い、いけないいけない。折角紬希がご機嫌だったってのに、何を邪魔してんのよ私ったら。

 あー、でも今の紬希のやらしくてエッチな声。良かったわぁ……一生懸命紬希が攻めてくれるのもいいんだけど、紬希のそういう愛らしい声を聞くのも私大好きなのよねー。


「ごめんごめん紬希。ささっ、今のは気にしないで思う存分満足するまでプレイを続けて頂戴——」

「…………」

「って紬希?どうかし……うわっ!?」


 なんて脳天気にそんな事を考えていた私に対し。紬希は無言で私を膝の上に乗せるように引っ張り上げる。

 華奢に見える身体だけど。結構過酷なお仕事をしているお陰で私以上に鍛えている紬希は、容易に私の身体を持ち上げた。


「いてて……つ、紬希?そんな急に押し倒さないでよ……ビックリしちゃうじゃない」

「…………(ぐいっ)」

「……ッ、きゃあ!?」


 さっきまで膝枕して貰っていた膝の上に腹ばいにされ。無理矢理紬希に尻を突き出すような体制にされる。そのまま紬希は大胆にも、問答無用に私のスカートに手を突っ込み……履いていた下着をズリ降ろしたではないか。


「ちょ、ちょっと紬希?聞いてる?一体どうしちゃったのよ……!?さ、流石の私も尻丸出しは恥ずかしいんだけど……!?」

「…………」


 空気に晒されスースーする。……そりゃ将来を誓い合ったパートナーなんだし、尻の一つや二つくらい紬希には何度も生で見られてはいるけれど……恥ずかしいものは恥ずかしいわけで。

 抵抗ついでに抗議してみる私なんだけど。紬希は聞いていないのか、私のその抗議には耳を貸さずに……


「も、もしかして紬希もムラムラしちゃった?愛の営みしたくなっちゃった?だ、だったらせめて寝室で……」

「…………(スッ)」


 ただ静かに、小さくて愛らしい手を振りかざし……そして。



 スパァァアアーン!!!



「……ひっ、ひぃああああぁん!!?」


 露わになった私の尻に、容赦なくその手を打ち据えた。い、痛い!?何事!?



 パン!パン!パァン!



「ひぅっ!?あ、ぐ……つ、つむぎ……ッ!?何、を……して……!?」

「一体どうしたの、ですって……?わからないのですかあや子ちゃん」

「な、なに……が……!?」



 スパァァアアーン!!!



「決まっていますでしょう……です。あや子ちゃん。私は今、大変怒っています」


 淡々と私の尻に強烈な平手打ちを与えながら。紬希は冷ややかに告げる。見上げた先で私が見たのは、付き合ってから今に至るまで見たことのなかった本気の紬希の怒った顔だった。お、怒ってる……?菩薩みたいなあの紬希が……?え、でもなんでよ……こ、これくらいの事ならいつでもしてたじゃない……怒るような事じゃないはずじゃ……?

 頭にハテナマークを浮かべつつ、スパンキングの痛みに耐える私に。紬希はハッキリと私に言い捨てる。


「……あや子ちゃん。私は……お母さんは、あや子ちゃんにさっきこのように言いましたよね」


『綿棒とはいえ、変に動いたりしたら危ないからね。ジッとしておいてね。あや子ちゃんは良い子だからできるよねー?』


「——と。ちゃーんと、言いましたよね?」

「…………あ」



 パンッ!パンッ!パァンッ!パァンッ!パァアアアンッ!



「……耳かき中に、あんなことをして…………あや子ちゃんの鼓膜が破れたら、どうするんですか!!!反省しなさい反省を……!!!」

「いた、いったぁ!?……ご、ごめんなさい……!?」


 乾いた音が家中に響く。さらに強く、リズミカルに。私の尻を本気で叩きながら紬希は本気でキレている。

 あ、ああうん……そうよね……忠告は予めしてくれていたのにあんな事されたら……そりゃ私を大事に思ってくれている紬希は怒るわよね……さっきのはホント……全面的に私が悪いわ……


「……と言うわけで。悪いことをしたあや子ちゃんにはオシオキです。今からあや子ちゃんは……お尻ペンペンの刑です」

「お、お尻ペンペンって……」


 冷酷に私に罪と罰を告げる紬希。その一言に私は青ざめる。


「待って……待って頂戴紬希。私が悪かったのは認めるわ。……で、でも……さ、流石にこの歳になって……しかも年下の、思い人にお尻ペンペンされるだなんてそんな……赤ちゃんじゃないんだし……」

「それともう一つ……あや子ちゃん。最初に言ったことを、もう忘れていますね」

「へ……?何の話を——」



 バチィイイインッ!



「痛、痛っ~~~~!!!???」

「今のあや子ちゃんは……。赤ちゃんが……そんな流暢に、喋ったりしますか!?」


 私が何か言い終わらないうちに、またしても紬希の手のひらが私の尻めがけて飛んできた。

 ……い、いけない……そうだった……!今の紬希は、完全に私のお母さんになりきってたんだった……!私もお母さん化した紬希に合わせて赤ちゃんになりきるの、すっかり忘れてた……!


「(パァン!)いけない子(スパァン!)本当にいけない子!これは(バシィ!)お母さんが……徹底的にあや子ちゃんを(パンッパンッパンッ!)教育してあげないと……!」

「ご、め……ごめんなさい紬希(スパァアアアン!)はぅあ!?……ご、ごめんなさい紬希お母さん!あんな危ないこともうしません!しませんからお願い許して(バチィ!)ひゃぅんん!!??」

「あや子ちゃんっ!(バシッ!)本当はお母さんもこんな事したくないの!(ピシッ!)でも……お母さんは覚悟を決めました!(バシーン!)あや子ちゃんが身も心も素直で可愛い赤ちゃんになるまで……(スッパァアアアン!!!)お母さんはお尻ペンペンしますからね……!」

「か、かんべんしておかあさぁあああああああん!!!??」


 ……この後、痛みを通り超して…………ちょっと気持ちよくなってくるまで……紬希お母さんのお尻ペンペンの刑は続いたのであった……

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