38話 責任取るねお姉ちゃん♡

『——素晴らしい演奏を本当にありがとう小絃さん。思った通り……ううん。それ以上だったわ。是非ともうちの学校に来てください。私たちは貴女を歓迎します』

『あんなに聞き入ったのは、生まれて初めてでした……!編入されたら、私たちと一緒に箏を弾きましょうね音瀬さん……!大会にもまだ間に合います。音瀬さんとなら……全国だって夢じゃないです……!』


 キャーキャーと珍獣みたいに扱われたり、ぶっつけ本番のソロ演奏をする羽目になったり。紆余曲折はあったけど……学校見学自体は、正直言うと結構楽しかった。大歓迎された学校見学。学校設備も授業の雰囲気も最上級だったし、生徒さんや先生たちは優しくて色んな意味で個性溢れる人たちだったし。通うならこんな素敵な学校に通ってみたいと思えた。

 ……けど。そう思うんだけど。見学自体は楽しかったんだけど。


「…………」

「……琴ちゃん」


 楽しい思いをさせて貰った私とは対照的に。琴ちゃんのご機嫌が、過去最悪と言ってもいいくらい……すこぶる良くないご様子。

 学校見学からの帰り道。私と母さんを乗せた車を走らせる琴ちゃんは、ただただ無言で何か思い詰めた表情を見せていた。私が何と声をかけても上の空のから返事。


「…………着いたよ。ごめん、小絃お姉ちゃん。お義母さん。車、ガレージに入れてくるから……先に戻ってて」

「あ……うん。わかった……」

「はーい!琴ちゃん、運転ありがとねー♡」


 お家に着いてからもそれは変わらなかった。コレが怒っているだけならまだ良いんだ。琴ちゃん……あんなに寂しそうな顔をして……


「……なんで?どうして、そんな顔してるの……?どうしてそんなに悲しそうなの琴ちゃん……」


 のろのろと車を車庫へ入れに行く琴ちゃんの後ろ姿を見ながら思う。……あんな顔をさせたかったわけじゃない。

 私……琴ちゃんが喜んでくれると思って学校見学に参加したのに。琴ちゃんの負担を減らしたいと思ったのに……それなのにどうして……


「やれやれねー小絃。あんた、ホントに察しが悪いわねぇ。まあ、察しどころか頭も悪いけど」

「……うるさい。母さんに何がわかるのさ」


 そんな私に呆れた顔で煽る母さん。人が真剣に悩んでいるのに茶化しやがってからに……


「仕方ないわねぇ。そんな察しも頭も悪い残念な娘の為に、あたしが母親として一肌脱いであげましょう。小絃、良いものをあげるわ。コレを使いなさい」

「……?何さこれ?」


 母さんの言動に若干イライラしている私に、母さんはいつもの調子でよくわからない機械を手渡してきた。母さんが良いものって言うと、碌なものじゃなさそうだけど……


「なにって決まってるじゃないの。——よ。これさえあれば、気になるあの子も寡黙なあの子もツンデレなあの子の本音も!どんな子だって隠している本音が一発で丸裸!これ使って琴ちゃんの本音を聞き出しなさい小絃!」

「やめんかマッドサイエンティスト」


 想像以上に碌なものじゃなかった。倫理観とか持ってないのかこの人は。プライバシーの侵害じゃないか。

 だいたい、こんなもので琴ちゃんの本音を知れたとしても……私にとっても琴ちゃんにとってもよくない事だ。信頼関係が揺らいでしまう恐れだって——


【——本当にそう思う?】

「……へ?」

【私は貴女の心の声。琴ちゃんの本音、聞きたいんじゃないの?どうしてあんなに悲しい顔をしてるのか、気になるんじゃないの?】

「そ、それは……気にならないと言えば……嘘になるけど……」

【貴女だって、本当はわかっているはず。今ここで琴ちゃんの本心を知らなければ取り返しのつかない事になりかねないって。愛する琴ちゃんの為ならば。琴ちゃんを想うなら。どんな手段を使ってでも……琴ちゃんの本音を聞き出さないといけないって】

「……ぐ、ぐぬぬ……そう言われたら……一理、あるかも……」

【そう、そうよ。だから今すぐにでも使いなさい小絃。ここは多少強引にでも、琴ちゃんの本音を聞き出すのよ。そうすればアンタもハッピー、琴ちゃんもハッピー。そしてあたしも。皆ハッピーになれるのよ】


 そうかもしれない。これさえあれば私も、琴ちゃんも。そして母さんもハッピーになれるのかも……

 …………って。待て、なんだ今の?装置の、モニタリング……?


「…………おい。何をしているそこのババァ」

「え?あ……しまったバレた。——いやぁ。うじうじぐだぐだ悩みながらも一歩踏み出せないヘタレな娘の後押しをしてあげようと思ってね♡」

「何が本音聞き出し機か。これただの本音ねつ造機じゃないの……!」


 私の偽りの心の声を発していた謎の装置を彼方へと投げ捨てて、母さんに掴みかかる私。だから、人が真剣に悩んでいるってのに何やってんだこのババァは……!


「まあまあ。琴ちゃんと上手くいかないからって、そうカリカリしないの。落ち着きなさい小絃」

「これが落ち着いていられるかっての……!私は、一刻も早く琴ちゃんがどうしてあんなに悩んでいるのか知らないといけないの……!母さんに構っている暇なんて私には——」

「琴ちゃんが、何を悩んでいるのかなら。あたしわかったわよー?」

「…………は?」


 母さんのそんな一言に、私は固まる。……このババァ、今なんつった?


「わ、わかったって……本当に?」

「とーぜん。薄々こういう事じゃないかなーって思ってたけど。あんたが体験授業受けてた時に確信したわ。琴ちゃんが不機嫌だった理由も。今何に落ち込んでいるのかも。ぜーんぶね」

「ま、マジか……」


 相変わらず……人の心がない筆頭のマッドサイエンティストのくせに、なんでこの人妙に察しが良いんだろうね……なんか悔しいわ……


「それでー?どうするの小絃。琴ちゃんの本音、聞きたくはないかしらー?」

「…………対価は?」

「そうねぇ。……来週、あたしの実験に付き合って貰おうかしら。丸一日ね♡」

「ぐ、ぬぬぬ……」


 母さんの実験に付き合う……自殺行為とも言っていい話だ。普通ならノンストップでお断りしてるところだけど……


「…………い、いいだろう……実験するなり何なり、好きにするがいいさ……」


 背に腹はかえられない。悪魔に魂を売った気分になりながらも、私は渋々了承する。

 ……早まったかなぁ……で、でも仕方ないじゃない。琴ちゃんの為なんだもの……


「決まりね。来週はよろしくー。んじゃ本題の琴ちゃんの事なんだけどさ——」



 ◇ ◇ ◇



 言いたいことを言うだけ言って、さっさと帰っていった母さん。リビングには当然、私と琴ちゃんの二人きりだ。


「……小絃お姉ちゃん」

「んー?何かな琴ちゃん」


 いつものように私の為に美味しいお茶を煎れてくれた琴ちゃんは。おずおずと私に声をかけてくる。……琴ちゃんの方から声をかけてくれるのは本日お初。それだけでちょっと嬉しくなっちゃう私は大概チョロいと自分でも思う。


「……さっきお父さんからメール来た。学校見学がどうだったのか、感想が聞きたいんだって」

「おー!そっかそっか!ありがと琴ちゃん。後で私の方から電話しとくよ。あんなに素敵な学校を紹介して貰えたんだし。お礼をしっかり言っとかないとね!」

「……うぅ」


 私のそんな一言に、琴ちゃんは捨てられた子犬のような顔を一瞬見せる。かわいい。


「……あの。お姉ちゃん……」

「はいはい、どうしたのかな琴ちゃん」

「……その、ね。……やっぱりお姉ちゃんは……学校に通いたいん……だよね?」


 泣きそうな表情で、琴ちゃんは私にそう問いかけてくる。……ああ、思い出した。この顔は……


『おねえちゃん、かえっちゃうの……?』


 琴ちゃんがまだ小さい頃、琴ちゃんのお家に遊びに行って……帰ろうとした時に見せてたあの顔そっくりだ。朝からなんとなく感じていた既視感の正体はこれか。


「その話をする前に。ねえ琴ちゃん。琴ちゃんはさ。私に何か言いたい事があるんじゃない?」

「……」

「言いたくない?なら私から言ってあげる。琴ちゃんはさ。…………私に、行って欲しくないんでしょ?学校に」

「……っ!?」


 言い当てられて、心の底からビックリしてる琴ちゃん。……ふふふ。今日はあんまり琴ちゃんと向き合えなかったから、百面相する琴ちゃんがいつも以上に可愛く見えるなぁ。


「おね、お姉ちゃん……いつから、気づいて……!?」

「ごめんね。気づいたと言うか、人から教えて貰った感じなんだけど。その様子だと大正解みたいね」


 母さんに察しが悪いと呆れられるのも無理はない。……今考えたら、私が学校見学するって話になってからだったもんね。琴ちゃんが不機嫌になったのって。その時点で気づいてあげれば良かったんだよね。


「嫌だったんだよね?辛かったんだよね?……ごめんね。この通り、大好きな琴ちゃんの気持ちを察せられない残念なお姉ちゃんなんだよ私。……だから。琴ちゃんの口から直接、どう思って私にどうして欲しいのか言って欲しいな」

「……」

「ね?お願い、琴ちゃん」


 琴ちゃんは私のそのお願いに。またしばらく口を閉ざしていたけれど。……数分後。観念したように。琴ちゃんはぽつりぽつりと話をしてくれた。


「……最初はね。私というものがありながら、どうしてって……思ってた。お父さん、余計なお節介をしてくれたなって……ちょっと怒った」

「うん」

「お姉ちゃんが目を覚ましてくれた時に約束したもん。私が責任とって、お姉ちゃんの全てをお世話するって。家事も、仕事も、リハビリも。そして……勉強だって私が教えるつもりだったの。今までは……お姉ちゃんだけの、お姉ちゃん専用の家庭教師が出来て。私、幸せだった」

「うん」

「……だから。お姉ちゃんが学校に行くって聞いて……『お姉ちゃんの先生は、私なのに』ってムカムカした。楽しそうに学校見学したり、授業受けようとしてるお姉ちゃんを見て……『これくらいなら私でも教えられる』って思ったし。女の子たちにベタベタされるお姉ちゃんを見て……『私のお嫁さん(予定)にベタベタしないで』って嫉妬もした。『学校で教わらない事だって、お姉ちゃんに実践形式で教えられるのに』ってさえ思った。……いっそお姉ちゃんにわからせようともしたよ」

「……う、うん」


 いかん、琴ちゃん目がマジだ……一体何を実践形式で教えようとしてたのか、何をわからせようとしてたのかは……聞いたらやぶ蛇になりそうなのであえて聞かないでおこう……


「でも……」

「ん?でも?」

「そう、思っていたんだけど……お姉ちゃんが体験授業を受けてる姿を見てね、楽しそうに授業を受けてるお姉ちゃんを見て……考えたんだ。お姉ちゃんだってきっと……同年代の子と、一緒に勉強して……楽しく遊んで。学校生活を満喫したかったんだろうって」

「琴ちゃん……」

「10年前の、あの事故さえなければ……お姉ちゃんは、今日みたいに……あや子さんたちみたいな気の合う友達と一緒に授業を受けて。部活動もやって。楽しく幸せな青春時代を送ってたんだろうって思ったら…………すごく、悲しくなったの。私を庇ったりしなければ……お姉ちゃんもきっと、きっと……っ!」


 泣き出しそうな琴ちゃんが、振り絞ったその気持ち。私はその一言一言をかみ締めて受け止める。


「……正直に言うと。お姉ちゃんに学校に行って欲しくない。私が知らないところで、他の誰かとお姉ちゃんが仲良くしてるのは……気分が悪いし。お姉ちゃんを誰かに盗られるんじゃないかって……私不安なの。…………でも。私の為にお姉ちゃんは自分の青春を棒に振って犠牲になってしまったわけだし……そんな私が、そんな醜い我が儘を言っちゃダメだから……」

「……」

「だからね、お姉ちゃん……お姉ちゃんが、本気で学校に通いたいって望むなら……私は……」


 そこまで言うと琴ちゃんは。また俯いて覚悟を決めたように口をきゅっと結び押し黙る。……本当に。私ってば幸せ者だ。琴ちゃんに、こんなに想って貰えるなんてね。


「素直に自分の気持ちを吐き出してくれてありがとう琴ちゃん。やっと琴ちゃんの気持ち、全部わかったよ」

「……うん」

「さて。それを踏まえた上で……話を元に戻すよ。編入の件だけどさ」

「…………うん」

「琴ちゃんのお父さんには本当に申し訳ないと思ってるけど——私、編入はしないよ琴ちゃん」

「…………ふぇ?」


 私がそうさらりと告げると。琴ちゃんは気の抜けた愛らしい声を上げてくれる。完全に思考停止したその顔がおかしくて、私は思わず笑ってしまう。いつもはクールビューティだけど、今日は本当に良い反応してくれるなぁ琴ちゃんは。


「…………ぁ、の……なん、で……?」

「素敵な学校だとは思ったけど。私、通うとは言ってないよ」

「素敵だって思うなら……なおさら、どうして……」


 どうしてだって?そんなの理由はただ一つだ。


「だって琴ちゃんが嫌なんでしょ?なら行かない」

「…………そ、そんな理由……?」

「そもそもねー。私がどこか学校に通いたいって思ったのって……ぶっちゃけると琴ちゃんの負担を減らしたかったからだもの。その琴ちゃんが『行って欲しくない』って思うなら。無理して学校に通う理由なんてないじゃないの」


 いやはや。私もつくづくバカだよなぁ。琴ちゃんに勉強教わるか、赤の他人に教わるか。私の事を慕っている琴ちゃんがどっちを望むのかなんて……ちょっと考えたらわかりそうなものなのに。つい目先の琴ちゃんの負担にばかり気にとめて、勝手に焦燥して。その結果琴ちゃんを悲しませる羽目になっちゃうなんてさ。

 ごめんね琴ちゃん、不安にさせちゃって。


「で、でも……!それじゃあお姉ちゃんがかわいそうだよ……!?お姉ちゃん、あんなに楽しそうだったのに……!折角、私のせいで失った青春を取り戻せるチャンスなのに……!それなのに、こんな私の我が儘に付き合う必要なんて……!」

「ハッハッハ。どれだけ忙しくても文字通り一日も欠かさず私のお見舞いに来てくれて。お見舞いに行けなくなるからと小中高の修学旅行を全て仮病を使って行かなかった……大事な青春時代を棒に振った琴ちゃんがそれを言うかね?」

「う……」


 私がそうお返しすると、反撃を食らった琴ちゃんはばつの悪そうな顔で口ごもる。人のこと言えないもんねー琴ちゃんの場合。


「……本当に良いの?お姉ちゃんはそれでいいの?私の我が儘に付き合う事になるなんて……」

「良いんだよ。だって……琴ちゃんが責任とってくれるんでしょ?」

「責任……?」

「そう、責任だよ。琴ちゃんの我が儘は聞いてあげる。その分琴ちゃんには十分責任を果たして貰うから」


 こうなった以上、琴ちゃんにも腹をくくって貰うとしよう。


「覚えが悪くてその上察しも頭も悪い、手のかかる年上の生徒で悪いけど。今まで通り、私に勉強教えてちょうだいね……

「…………うん!」


 その一言に、琴ちゃんは今日初めての……いつもの大好きな笑顔を私に見せてくれたのであった。



 ◇ ◇ ◇



 ——さて。この後の事をちょっとだけここに記しておくとしようか。


 まず編入の件だけど……とにもかくにもすぐに琴ちゃんのお父さんに電話して、素晴らしい学校を紹介してくれた事や見学の手続きをしてくれた事へのお礼と……そして編入はしない事を全力で平謝りした私。……正直ガッカリされたり、怒られるかもしれないと覚悟はしていたんだけど……


『——うちの娘をそんなに想って、編入を断ってくれるだなんて……!ありがとう、本当にありがとう小絃くん……!やはり君は、うちの琴にふさわしい人だよ……!』


 ……といった具合に。怒られるどころかなんか感謝をされた。何故だ……?

 ああ、あとそれから学校にも後日直接出向いて、同じようにお礼と謝罪をした私。先生にも、生徒さんにもそれはもう残念がられたけど。そういう事情なら仕方ないと納得はして貰えた。……ただ。


『貴女の奏でる音に惚れました……!外部指導者として、是非とも私たち箏曲部に指導をお願いします音瀬さん……!』


 どう言うわけか週1で箏曲部のコーチとして遊びに来ることを約束させられてしまった。まあ……週1くらいなら良いか。良い設備で箏を弾く機会があるのは私にとっても悪い話じゃないし。

 …………琴ちゃんは『お姉ちゃんを狙う子……ふえた……』とかなんとか言って、微妙な反応してたけどね。


「——と言うわけで。今まで通り学校には行かないで、琴ちゃんに勉強教わりながら通信で高卒の資格を取ることになったってわけさ」

「そうだったんですね。琴ちゃんが落ち込んでて大丈夫かなって心配してたんですが……それを聞いて安心しました」

「残念だったわねー小絃。アンタホントは若くてかわいい子にチヤホヤされたかったんじゃないの?アンタ如きがモテるだなんて昔じゃ考えられなかったわけだしさ」


 その事をたまたま遊びに来たあや子と……あや子のお嫁さんの紬希さんに報告した私。紬希さんはともかく……あや子め。勝手なことを言いやがって。


「チヤホヤって……勘弁してよ。ぶっちゃけて言うとさ。楽しかったと言えば楽しかったけど……結構キツかったんだよね。体力的にも、精神的にもさ」

「仮にも肉体年齢18歳の女子高生の言う台詞じゃないわね小絃。アンタらしいと言えばアンタらしいけど」


 今更あんな若くてピチピチな子たちと混ざって学校生活送るとか、正直私には荷が重い話だったから編入せずに済んで良かったと思う。あの子たちはエネルギッシュにキラキラ輝きすぎてたわ。


「琴ちゃんにこの前『お姉ちゃんと喧嘩した』とメールを貰った時は……一時はどうなることかと少し心配していましたが。取り越し苦労でしたね。小絃さんはいつだって、琴ちゃんの為に一生懸命ですから心配する必要なんて無かったですね」

「ははは、いやはや心配かけてすみません。……紬希さんには『本音を曝け出せ』って偉そうにアドバイスした癖に。自分が出来ていないんですから恥ずかしい限りです。……私的には琴ちゃんの負担を減らしたいって思って編入してみようかと思ったんですが……まさか逆効果だったとは」

「琴ちゃんの場合、小絃さんをお世話出来ない事の方が負担ですよ。言うなれば小絃さんは琴ちゃんにとって水や酸素みたいなもの。気をつけてくださいね。小絃さんのお世話が出来ないと……琴ちゃん死んじゃいますよ?」

「そ、そこまで……?」


 それは流石に誇張表現だとは思うが…………いや、でも……うん。琴ちゃんならあり得そうで怖い。


「それはそれとして小絃。アンタさ」

「ん?何よあや子」

「結局学校は行かないって事なのよね。それってさ……」

「うん」


 もったいぶって何を言うんだと首を傾げる私に対し。悪友は私に向けてあっけらかんとこんな事を言い放つ。


「——働かない・学ばない・家事手伝いもしない。いやはや……これまた順当にニート。もしくはヒモの道をまっしぐらじゃないのアンタ。羨ましい生活してるわねー」

「ゴフッ……!?」


 人が気にしていることを、一切の躊躇無く言葉の刃を突き立てやがる悪友。ニートて……ヒモて……

 い、いかん……私は琴ちゃんが尊敬する立派なお姉ちゃんになりたいってのに……その夢がまた大きく遠ざかってしまってる……


「…………あの、琴ちゃん……やっぱせめて……学校に通うべきなんじゃないかな私……?」


 ちょうどお茶菓子を持ってリビングへとやって来た琴ちゃんに、へこみながらも尋ねる私。


「ふふふ……だーめ♪お姉ちゃんは私に永久就職で全然良いの。というか、永久無職で良い。だって……小絃お姉ちゃんは、私が責任とって養うんだから♡」

「永久無職はいやぁあああああ!!!?」

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