33話 小絃お姉ちゃんの華麗なる制裁
一時はどうなる事かと思ったけれど。あや子の嫁の紬希さんとの誤解も無事に解け、どうにか彼女と和解する事に成功した私。
「ところで紬希さん。ちょっと紬希さんにお聞きしたい事があるんですが」
「……?あ、はい。何でしょうか小絃さん」
「苦手な話だったら申し訳ないですし、言いたくないなら無理に言わないで良いんですけどね……ぶっちゃけた話、紬希さんはあや子の奴と……」
「あや子ちゃんと……?」
「えっちい事するのって、抵抗とかありますか?」
「ふぇ!?」
さーてと。それじゃあこっから先は、紬希さんに変な誤解をさせてしまった分のお詫びと。それから……
「あいつと肌を、身体を重ねる事に……拒否感持ってたりしますか?あいつとはプラトニックな関係で居続けたい感じだったりします?」
「え、ええっと…………い、いえ。その……さっきも言ったとおり……あや子ちゃんとは……色んな意味で全て曝け出して、絆を深め合いたいと……思っています……」
「ふむふむ」
「だから当然……そういう事も、興味が……ないわけでは…………と言いますか、恥ずかしながら……興味津々と言いますか……」
「なるほどなるほど。それは良かった。でしたら——不安にさせてしまったお詫びに。サービスでもう一つ、あや子の奴のヒミツを教えてあげますね」
「あや子ちゃんの、ヒミツ……?」
紬希さんとこの私に多大な迷惑をかけたあのアホへの、制裁を始めるとしようじゃないか。
そんなわけで本人がいない事を良い事に、紬希さんの為に悪友あや子のヒミツ大暴露大会を始める私。
「あいつってですね。常識人ぶっていますから。自分のお嫁さんである紬希さんにも隠して『興味ない』風を装っていると思いますけど……アレで結構むっつりと言いますか。恐らく紬希さんが思っている以上に性欲強いんですよあいつ」
「そ、そうなんですか……!?」
「そうなんです」
事あるごとに、あいつ私のことを変態だのなんだのと罵ってはいるけれど。ぶっちゃけあいつも私とどっこいどっこいだと思う。……いいや、業の深さを考えるとあいつのほうがよっぽどアレだと思う。
「特に……紬希さん。貴女はまさにあいつの理想の体現者ですからね。薄々勘づいていられたと思いますが……あのアホって、小さい子が好きなんですよ。昔から小さくてふわふわで愛らしくて。天真爛漫で天使みたいな子が好みな変態なんです。紬希さんと出会う前……それこそ10年前の琴ちゃんとかドストライクだったらしく。それでしょっちゅう喧嘩してましたよ。『うちの大事な琴ちゃんを、変な目で見るんじゃないこのロリコン』ってね」
「は、はぁ……」
「人は自分の無いものに惹かれるって言いますからねー。あいつは昔から長身でどっちかといったら可愛いよりもかっこいい分類に入っちゃってたから、余計に貴女みたいな人に惹かれちゃうんでしょう」
本人曰く『断じてロリコンとかじゃないの!ただちっちゃい子が好きなだけなの!』とかなんとか。私からしたら一緒じゃんと言いたくなるけどね。つーかどうでもいい。
「そんな自分の探していた理想の女性と出会い、恋をし、自分のお嫁さんになってくれているんですよ。恐らく日々悶々ムラムラしてどうにかなってしまいそうになっているはずです。抱きしめて、ちゅーをして。それ以上の事だってきっとやりたいハズなんです」
「でもあや子ちゃん……そんな素振り、私には全然見せてくれない……」
「まあ、そこはさっきも言った通りあのアホは恋愛クソザコヘタレ女ですからね。大好きな貴女に手を出したくても。肝心なところで躊躇してるんだと思います。何にせあいつヘタレなので」
「へ、ヘタレって二回も言わなくても……」
…………あと。これは私のただの勘だけど。変なところで変なプライドを持っているあいつの事だ。奴なりに紬希さんに手を出せない何らかの事情があったんだろう。
その辺の話は後日あのアホに直接紬希さんへ謝罪と弁明をさせるとしてだ。
「じゃ、じゃあ……私、どうしたら良いんでしょうか?どうしたらあや子ちゃんともっともっと親密になれるのでしょうか……?」
「大丈夫、簡単な話ですよ。貴女から手を出せば良い」
「えっ!?」
逆転の発想だ。あいつがヘタレて手を出そうとしないなら、こっちから迫ってしまえば良い。
「わ、私の方から……あや子ちゃんに迫れって事……ですか?」
「その通り。躊躇う事はありません。ただただ紬希さんの思うがままに。あいつに気持ちをぶつけて押し倒しちゃえば良いんです」
「そ、そんな事をして……キャラが違うとか言われないでしょうか……?失望されたりしないでしょうか……?」
「ご安心ください。あいつの場合、寧ろ興奮するはずです」
私は知っている。清楚系の純真無垢で天使みたいな子が一転、小悪魔みたいになって蠱惑的に自分にグイグイ迫ってくる……そういうギャップとかシチュとかに奴が弱い事を。
「あとですね、自分の理想のお嫁さんである紬希さんの手前。貴女に失望されたくないし恥ずかしいからと絶対打ち明けられていない事があると思うんですが……あいつはですね、無類のコスプレ好きですなんです」
「こ、こすぷれ……ですか。……あ。言われてみれば確かに……あや子ちゃんのお部屋のクローゼットには、色んな服が隠されていました……」
「あいつは可愛い子が可愛い格好をしている姿に心底昂ぶる変態なんです。ですので紬希さんがこういう服を着て、そして思いっきり甘えながら迫っちゃえば……一発でオチると思われます」
「な、なるほど……試してみますね……!」
「その他にもあいつが喜びそうなシチュエーションがあるんですが……それも良ければ教えて差し上げましょうか」
「ぜ、是非ともお願いします……!」
「喜んで。そうですね、例えば——」
……その後も、琴ちゃんとあや子が戻ってくるまで。楽しい楽しいあや子の性癖暴露大会は盛り上がったのであった。
◇ ◇ ◇
「——ところであや子さん。一つ聞いてもいいですか?」
「ん?何かしら琴ちゃん」
「単刀直入に聞きますけど。どうしてあや子さんは……紬希ちゃんの事、避けてたんですか?」
「…………何のことかしら」
「隠さなくてもわかりますよ。事あるごとに小絃お姉ちゃんのお世話を頼んでしまっていた私がこういうことを言うのもなんですが……それを差し引いてもあや子さん、うちに遊びに来る頻度がここ最近かなり多かったでしょう?それもよりにもよって紬希ちゃんがお休みの時にばかりうちに来てたじゃないですか。紬希ちゃんを避けてるとしか思えませんし、そんな事してたら流石の紬希ちゃんだって不安にかられますよ」
「うぐ……」
「もしかして、何か理由があるんじゃないですか?紬希ちゃんを避けてたのって」
「…………だ、だって」
「だって?」
「…………紬希が、魅力的すぎるんだもの……」
「……はい?」
「琴ちゃん、聞いて。……うちの嫁が、紬希が……ホントに魅力的過ぎてさ。私、ちょっとでも気を抜けばあの子に手を出しちゃいそうで……何もかもかなぐり捨てて、あの子をめちゃくちゃにしちゃいそうになっちゃうのよ……」
「……それのどこに問題が?パートナーなんですし、遠慮無く愛の営みを楽しめば良いのでは……」
「い、嫌よ!だって……だって!あの子に『身体目的で付き合ってる』なんて、思われたくないんだもの!?」
「……どういうことですか?」
「……琴ちゃん。私ね、心の底から紬希が好きなの。あの子を愛しているの。まずなんと言ってもその容姿がめちゃくちゃタイプ。ほんっと、ちっちゃくて愛くるしくて私の前に舞い降りた天使みたいな子でさ。正直一目惚れだったわ」
「知ってます。何度も聞かされてきましたから」
「……でもさ。確かに容姿がタイプってとこも勿論あるけどさ……でも、でもね。私があの子を好きになった一番の理由は——」
『——小絃さん、おはようございます。今日はとても良いお天気ですよ。気持ちの良い一日になりそうですねー。それじゃあ、まずは本日最初の検温をさせてくださいねー』
「……看護師として、あのバカの世話をしている姿。私はそこに惚れたのよ。琴ちゃんは覚えている?あの子はね、意識のないハズの小絃に……どんな時でも必ず話しかけていたのを」
「……ええ。私もよく覚えています」
「目を覚ます保証なんてない、10年も眠っているって患者を相手によ。紬希は必ず優しく声をかけてくれていたのよ。……普通出来る?そりゃ琴ちゃんや私は親しい仲だから見舞いの時にはあのバカに声はかけてはいたけれど……紬希にとっては直接話をした事もない、ただの一患者。だと言うのに……目を覚ます事なんてないだろうと半ば諦めて、事務的な対応しかしないベテランの医師や看護師もいる中で……あの子だけは、小絃に毎日欠かさず声をかけていたわ」
「そうでしたね。……私も、お姉ちゃんが意識を取り戻してくれるって信じている人がいるんだって……紬希ちゃんのその姿に随分と救われたものです」
「そうよ。そういう自然に小絃に接する姿に、そういう患者を精一杯想うその優しい心に。私は惚れたの。好きになったの。だから勇気を出してアプローチして……告白して、プロポーズもして。私の生涯の大事な人になって貰えたのよ。…………それなのに」
「それなのに?」
「結婚したらすぐに身体を求めるとか……『身体目的で惹かれたんじゃないのか』って思われちゃいそうで……」
「……まさか。それが理由で、紬希ちゃんを避けていたんですか?」
「……うん。小絃の世話っていう言い分が使えるから……良い機会だし、ちょっと紬希から距離を置いて……落ち着いて自分の中で心の整理をしようって思って……あの子には、容姿だけで好きになったんだって勘違いをして欲しくなかったんだもの……」
「……なるほどです。あや子さんの言い分はわかりました。気持ちもわからなくはありません。ですが……」
「で、ですが?」
「……それで離婚の危機を招いちゃうなら、本末転倒もいいところでは?」
「…………その通りでございます」
「それならそれで。ただ避けるんじゃなくて……ちゃんと言葉に出して自分の気持ちを伝えないとダメですよ。自分の好意を伝えて。そしてその上で『もっと愛を深め合いたいけど良いかな?』って相談しないと。何のために紬希ちゃんと結婚したんですか」
「……はい」
「とりあえず。今日帰ったらちゃんと紬希ちゃんと話し合ってくださいね。……多分、小絃お姉ちゃんが上手にフォローしてくれているとは思いますが……それでも、やっぱり。最終的に一番大事なのは……あや子さん自身の言葉で紬希ちゃんに安心して貰う事なんですから」
「……そう、ね」
◇ ◇ ◇
~Side:あや子~
琴ちゃんのありがたいお説教をいただいたその日の夜。私は琴ちゃんのアドバイス通り、紬希に謝るため……嫁の部屋の前に立っていた。
「あー……紬希?ちょっと……話したい事があるんだけど。入って良いかしら」
『……あや子ちゃん。うん、良いよ』
深呼吸をして覚悟を決め。震える手を握ってノックする。了承を得、部屋の中に入ると……愛しの紬希は電気も付けないまま、毛布にくるまりベッドに腰掛けていた。
「……」
「あ、あのさ……紬希。私、紬希に謝らなきゃいけない事があってね……」
「……」
「多分、あのバカに話を聞いて……誤解だって理解はして貰ったとは思うけど。本当に、あいつとは何もないのよ」
「…………」
「それでも、誤解させるような真似をしてしまった事。しょうも無い理由で貴女を避けてしまっていた事……本当に悪いと思っているわ。あ、あのね紬希。私が貴女を避けてたのはね……」
部屋に入ってからは紬希の顔を見るなりまくし立てるように弁明する私。けれど紬希は私の弁明の最中、唐突に自分がくるまっていた毛布を放り……部屋の明かりを付けると……
「…………って、え……えっ!?つ、つつつ……紬希!?」
そこには、天使がいた。ああいやごめん。うちの嫁は常日頃からめがっさ可愛い天使なんだけど。……ずっと着て欲しいと内心思いつつも言えずにいた、いかにも童話に登場しそうな少女が着ているようなフリル全開ふわふわふかふかな衣装を。天使よりも可愛い紬希は身に纏ってそこに立っていた。
そのあまりの可愛さ、美しさに目を持っていかれ。間抜けにもポカンと口を開き、そしてよだれをタラリと垂らしている私をよそに。紬希は何か決心したとても真っ直ぐな目で私を見据え。とてとてと私に近づき回り込んで……
「……ごめんね、あや子ちゃん」
「え、あ……きゃっ!?」
そして思い切り体当たりを仕掛けてきたではないか。予想だにしていなかった嫁の一撃に、私は受け身を取る余裕もなくそのままベッドの海に沈む。
何が起きたんだと、起き上がる前に紬希は私に馬乗りになり。そしてこう語り始める。
「……あや子ちゃん。私ね。待ってたんだ。最初に告白してくれたのも。プロポーズしてくれたのもあや子ちゃんからだったし。関係を進めるのも、当然あや子ちゃんの方からだって思ってた。私、経験無いし……あや子ちゃんの方が年上だし……きっと経験豊富なあや子ちゃんがリードしてくれるものだろうって、勝手に思いこんじゃってた」
「つ、紬希……?何の話を……」
「でも、違ったんだね。本当は……あや子ちゃんも。どうすれば関係を進められるのか悩んでたんだね。嫌われないように、私に失望されないようにって……ずっとずっと、悩んでいたんだね。本当は経験なくて、私以上に緊張してたのに……頑張ってくれてたんだね」
「…………ッ!」
その一言に、私は察する。これは……間違いない。あのバカ……小絃が、何か入れ知恵しやがったな……!?
「ごめんね、私……あや子ちゃんに甘えてたんだと思う。甘えた上に、勝手に小絃さんとの仲に嫉妬して、あや子ちゃんを不安にさせてしまって。……待つだけじゃダメだよね。嫌な事も、不満も、やりたい事も……好きって気持ちも。ちゃんと全部口に出さないと……ダメだったんだよね」
「あ、あの……紬希、違うのよ……?私は……」
「今までごめんなさいあや子ちゃん。そして……大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかを訪ねる間も無く。紬希は……今まで見た事もなかった、とても扇情的な表情で私を見下ろしながらこう告げる。
「今度は私が頑張る番。私があや子ちゃんを……愛してあげるから」
「つ、紬——んむぅっ……!?」
そう言って紬希は、私の唇をその小さくて愛らしい自分の唇で塞いで…………そして——
~翌日~
「……小絃」
「なにさあや子」
「今回だけは……あんたに礼を言っておく。紬希の誤解を解いてくれた事と。あと…………紬希に、その。イロイロと教えてくれた事は……感謝してるわ」
「ほほーぅ。昨日は相当お楽しみだったと見受けられる。よかったね、末永く爆発しろ。さて。感謝しているんだったら……そうさね。今までの事を反省して、二度とナメた口はききません小絃様って私を崇めたまえよ悪友」
「ただ……それはそれとして………」
「あん?それはそれとして何さ」
「小絃、あんたねぇ!?あんたって奴はねぇ!?」
「おおっと?何かねこの手は?何故恩人である私の胸ぐらを掴んでいるんだね君は?恩人に対して失礼じゃないのかね?」
「やかましい!誰が恋愛クソザコヘタレロリコンですって!?よくも人がいない間に、うちの嫁に好き放題ある事無い事唆してくれたわねぇえええええ!!??覚悟出来てんでしょうねアンタァ!!!!」
「ん?ああ、何かと思えばその事?……はっはっは。何を言う、私は紬希さんに事実しか伝えていませんが?それとも何かね?自分は恋愛クソザコヘタレロリコンじゃないとでも言うのかね?」
「誇張して伝えすぎなのよアンタというバカは!?つーか、人の事言えないでしょうが!あんただって恋愛経験皆無で、普段は『大人の女の人に迫られてめちゃくちゃにされてぇ……』とかキモい事言ってるくせに。本命のその大人の女性になった琴ちゃんのアプローチにタジタジになっちゃってる童貞メンタルなダメ女でしょうが!?」
「おま……!?だ、誰が童貞メンタルか!?せめてそこは処女メンタルと言い直していただきたい!って言うか、キモいってなんじゃい!?あや子の方こそ人の事言える立場じゃないでしょうに!?」
「ハッ!今も昔もあんたはずっとキモいわよ!紬希に『あや子は昔、琴ちゃんをも狙ってた』とか誤解のある事を言いふらしてたけど、それはあんたの方だったでしょうが!『琴ちゃん光源氏計画』とかいう気持ちの悪い計画を立てた挙げ句実行までしようとしてたのは、一体どこのどなた様だったかしらねぇ!」
「き、貴様ァ!その話を持ち出したら戦争でしょうが!?」
「先に余計な事を言いふらしやがったのはアンタよ!戦争?上等よ、いくらでもしてやろうじゃないの!かかってきなさいよ小絃ォ!!!」
「それはこっちの台詞じゃい!表出ろぉあや子!!!」
「うんうん。今日もお姉ちゃんたちは仲良しで何より」
「そうね。羨ましいくらい仲良し。……ふふ。小絃さん。私……負けませんからね。きっと私も……いつかあや子ちゃんとこんな風に……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます