琴ちゃんと悪友たち

29話 琴ちゃんの友達は、悪友のお嫁さん

『——それで琴ちゃん。どうだった?あの後上手くいったかしら』

『……はい。おかげさまで小絃お姉ちゃんに聞きたかった事、存分に聞けました。お姉ちゃんに言いたかった事、存分に言えました』

『ふーん、そっか。……大丈夫だった?あのおバカ、酔って琴ちゃんにとんでもない事口走ったり、琴ちゃんにとんでもない事したりしなかったかしら?それがちょっと心配だったのよね』

『いいえ。とんでもありません。それはもう、一生忘れられそうにない最高の夜でした♡聞いてくださいあや子さん。酔ったお姉ちゃんはですね、普段の頼りになるお姉ちゃんとはまた違う、別の魅力が満載だったんです。お酒で火照った身体を冷まそうと自分から服を脱いで、子猫のように無防備にすり寄って抱きついて私に無邪気に甘えてくるお姉ちゃんはとても小悪魔的で永久に甘やかしたくなっちゃって。また、ころころと変わる表情はどれも愛らしく思わずこっちもギュッと抱きしめたくなっちゃって。実際抱きしめたらお酒の匂いに混じってお姉ちゃんの良い匂いが全身から立ち上ってて凄くドキドキしちゃって……それでついうっかり本来の目的を忘れかけちゃって……でもどうにか私も目的を思い出して、ずっと聞きたかったお姉ちゃんの本心を聞いてみたんです。そしたらすぐにお姉ちゃんの隠していた本音がぽろぽろ出てきて、その隠していた理由もそれはまた可愛らしい理由でしてね、お姉ちゃんがどうしてあんなによそよそしい態度を私にとっていたのか、その理由がわかったら安心すると同時にますますお姉ちゃんのことが大好きになっちゃって……それで辛抱溜まらなくなって、私もとうとう我慢の限界が来ちゃって。欲望のままお姉ちゃんに手を出そうとしたんですが、そしたらなんとお姉ちゃんは私を逆に押し倒してくれたんです。その時のお姉ちゃん、お酒の力で内に秘めた色気が色濃く浮き出ていたみたいで……それはもう蠱惑的な美しい夜の女豹になって、私をいっぱい可愛がってくれて——』

『ストップ、ストップよ琴ちゃん。長い、長いわ……普段のクールな貴女とは思えないくらいそんなに熱烈に早口で話されると、流石のあや子お姉さんもちょっと困惑しちゃうわ……』

『あっ……っと。ご、ごめんなさい……私ったらつい…………コホン。と、とにかく安心したって事なんです。お姉ちゃんの本音を聞かせて貰って、お姉ちゃんも私と同じ気持ちだったってわかりました。余計な心配をしてたんですね。私も、それからお姉ちゃんも。焦らなくても良いってことがわかりましたし、これまで通り私は全身全霊でお姉ちゃんに尽くして。そしてゆっくりじっくり確実に時間をかけてお姉ちゃんを堕としていこうと思います」

『そっかそっか。何にせよ余計なお世話じゃなかったなら良かったわ。私もお節介した甲斐もあったかしらね』

『あや子さんのお陰です。改めて本当にありがとうございました。あや子さん、お礼と言っては何ですが。もしも困った事があったら、遠慮しないで言ってくださいね。力になってくれた分。今度は私が全力で力になりますから』

『頼もしいわね。うん、ありがとね琴ちゃん』

『いえいえ。こういうのはお互い様ですからね』

『嬉しい事言ってくれるじゃない。じゃあさ、お言葉に甘えてさ琴ちゃん』

『はい』

『…………早速で悪いんだけど、この哀れなあや子さんを……助けては貰えないかしら……』

『……はい?』

『…………いや、実はさ。こう見えて……現在進行形で私至上最大のピンチを迎えてるのよね……お願い助けて琴ちゃん……』

『い、一体何があったんですかあや子さん……?』

『うん、まあアレよ……控えめに言うとね…………離婚の、危機なのよ……』

『…………離婚?』



 ◇ ◇ ◇



「——え?今日琴ちゃんの友達が遊びに来るの?この家に?」

「うん。昨日の夜に電話があってね。是非ともお邪魔したいんだって。……その、いきなりで悪いんだけど……その子を私たちの我が家愛の巣に呼んでも良いかなお姉ちゃん?」


 とある日の朝の事だ。いつものように琴ちゃん手作りのめっちゃ美味しい朝ご飯に舌鼓をうっていた私、音瀬小絃に。琴ちゃんがおずおずとそう聞いてきた。

 ……今琴ちゃん、我が家と書いて愛の巣と読んだ気がしたけど。それはまあいつもの事なので軽くスルーするとして。


「いや、良いも悪いもないよ。私に許可なんて取らずにさ、友達くらい気軽にじゃんじゃか呼びなよ琴ちゃん」

「良かった……ありがとうお姉ちゃん。ごめんね急に予定が決まっちゃってさ」

「気にしないで。琴ちゃんの友達ってことなら誰でもウェルカムよ」


 奥ゆかしい琴ちゃんは私に気を遣って、自分の友達を呼んでも良いか聞いてくれているみたいだけど。実質的なこの家の家主は琴ちゃんのようなものだし、私なんかにわざわざ許可なんて取らなくても良いのにね。私の関係者なんか(主に母さん&あや子)見てみなよ。呼んでもないのにアポ無しに勝手に押しかけてくるんだよ?あいつらは琴ちゃんの爪の垢を煎じて飲めばいいのに…………ああ、いやダメだそんなの勿体ない。あいつらに琴ちゃんの爪の垢煎じて飲ませるくらいなら、私が直接琴ちゃんを舐めさせて貰うわ。

 それにしても……琴ちゃんの友達かぁ。どんな子なんだろう?ちょっと気になるなぁ……


「あ、と言う事はアレかな?邪魔にならないように私は隠れてた方が良い感じかな?」


 折角気心の知れた友人と水入らずで遊ぼうとしているのに、部外者である私が側に居たら邪魔にしかならないだろう。『折角琴ちゃんと遊ぼうと思ったのに、一体誰なんだコイツは?なんで琴ちゃんと一緒に住んでいるんだ?どういう関係なんだ?』って不審がられる事にもなりかねない。大人しく部屋で静かに過ごすか、あるいは琴ちゃんの友人が帰るまで外でぶらぶら時間を潰すかした方が良いんじゃないだろうか。


「ううん、そんなの気にしなくて良いよ。と言うか、寧ろ今回の場合はお姉ちゃんにいて貰わないと色々と困るの。お姉ちゃんにも会って話がしたいらしいし」

「へ?私がいないと困る?なじぇ?…………ええっと……って事は琴ちゃんの友達ってさ、もしかして私の知り合いでもあったりするって事だったり?」

「いや、多分お姉ちゃんは知らない人だと思う。初対面……かと言うと、それもちょっと違うと思うけど」

「???」


 ……どういうこと?


「大丈夫。会えばすぐ理由はわかると思うよ」

「ふむ……それは会ってからのお楽しみって事かな?OKわかったよ」

「あ、それと……その子と一緒にあや子さんも来るんだって。お茶菓子はお姉ちゃんと私のを含めて4人分用意しておくからね」

「ほいほい了か——いや、いやいやちょっと待って?何故そこであや子も来るの……?」


 待って?来るのは琴ちゃんの友達って話だったよね?じゃあ何故余計なあいつまで来る流れになる?何しに来るのあいつ……?


「何故も何も。今日来る友達って、あや子さんとも関係があるんだもん。というか、私以上にその子とあや子さんって親密な関係にあるからだよ」

「親密……って事は、琴ちゃんの友人であり。あいつの友人でもあるって事で良いかな?」

「えっ?あや子さんの友人?…………んー、私の友人ではあるけど。あや子さんにとっては友人ってわけじゃないかな」

「琴ちゃんの友人ではあるけど、あや子にとっては友人じゃない……?」


 親密だけど友人じゃない関係……じゃあどういう関係なんだ?あいつの兄弟姉妹とかか?いや、でも確かあいつ一人っ子だったような……

 首を傾げる私に対し。琴ちゃんはくすりと笑って教えてくれる。


「そうだね、今日来る私の友人とあや子さんの関係を言うとだね」

「うん」

「あの子は、あや子さんの世界一大事な人。一言で言うと——だよ」

「…………ふぇ!?」


 あや子の、お嫁さん……だと……!?

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