琴ちゃんとの日常
16話 こんなに立派に育ちました
事故って10年もの長い時間生死の境目をさまよいながらも、奇跡の生還を果たした私……音瀬小絃。
私が目覚めたのは、実母である母さんのコールドスリープ装置のお陰だったり。医療技術が発達したからだったりと。まあ多々理由はあるだろうけど。私的にはひとえに……いつ目覚めるかわからぬ私を絶対に戻ってくると信じて、私の目覚めをずっと待ってくれた従姉妹の琴ちゃんがいたからだと思っている。
さてさて。今日はそんな琴ちゃんについてちょっと語らせて貰うとしようか。
音羽琴ちゃん——8歳年下だった私の従姉妹。当時はいっぱい笑っていっぱい泣く、明るくて元気いっぱいなお姉ちゃん大好きなちっちゃな女の子だった。昔は何をするにも『コイトおねえちゃん!おねえちゃん!』って、私を慕い。どこへ行く時も私の後をよちよちと一生懸命付いてきていたっけ。
「——小絃お姉ちゃん、おはよう」
「お、おおお……おはよう琴ちゃん……」
…………それが今では、こんなに成長してくれました。
カーテンを開け、朝の日差しを部屋に招きつつ。そんな朝の日差しよりもまばゆい笑顔で私を起こしに来てくれた琴ちゃん。息がかかりそうなほどの距離で私の顔を覗き込みながら『おはよう』と言ってくれる。……毎朝の恒例行事ながら、全然慣れない。
「(ち、近い……近いよ琴ちゃん……朝からそんな、ほんと……そんな美人過ぎる顔を至近距離で見せないで……ふわりと気持ちの良い香りを近づけないで……ドキドキが収まらないから……)」
その美貌に酔いながら、私は思う。そりゃね?私も10年以上前から確信してたさ。琴ちゃんママもパパも美人&イケメンで……その遺伝子を受け継いだ愛娘の琴ちゃんなら絶対美人さんに成長するってわかりきった事ではあったさ。けど……だけど……
「(…………ヤバい。美人過ぎるでしょ琴ちゃん……)」
10年目を離してたら、想像の何倍も何十倍も美しい……そんな驚くほど綺麗な大人の女性に彼女は変わっていた。もう琴ちゃんとの同棲生活も結構な時間が経つって言うのに、それでも毎日見惚れてしまう。彼女はため息が出るくらい……本当に美しく成長していた。
射貫くように真っ直ぐ私だけを見つめるその輝く目も。形良く高い私の匂いの一片も逃さない鼻も。真っ黒で透き通る長い長い腰まで伸びた髪も。きめ細やかで真っ白すべすべの肌も。私を見て舌舐めずりする赤くて艶やかな舌も、濡れて光るぷるぷるの唇も……そのパーツのどれを取っても全部が私好みで——
「——ちゃん、おねえちゃん……小絃お姉ちゃん」
「ふぇ!?な、なにかね琴ちゃん!?」
「朝ご飯出来てるけど……どうする?お姉ちゃんもしかして……まだおねむなんじゃない?」
「え?な、なんでそう思うの琴ちゃん?」
「だってお姉ちゃん、私の顔ジーッと見て黙っちゃうんだもん。寝ぼけてたりするのかなって思って」
「……ええっと」
君の顔が美しすぎて見惚れてただけだよ、なんて恥ずかしい台詞が言えないのが辛い……
「無理しないでお姉ちゃんの好きなようにして良いからね。起きてご飯を食べるのも良いし、二度寝を楽しむのも良い。なんなら子守歌を歌ってあげるし、添い寝だってしてあげる——」
「お、おおお……起きる!起きますっ!」
私がまだ眠いと勘違いした様子の琴ちゃんは、私の寝床に侵入してマジで添い寝をしようとしてくる。慌てて私は飛び起きて、目が覚めている事を必死にアピール。
……こ、こんな朝っぱらから……こんなにセクシーでダイナマイツぼでーを身に宿した色気ムンムンなめちゃタイプな子と添い寝とか心臓がいくつあっても足りないわ……下手したらまた10年くらい昏睡状態になるわ……
——と、まあ。散々琴ちゃんの美貌を語るに語った私だけど。琴ちゃんが変わったのは、何もその美貌だけじゃなかった。
「さあお姉ちゃん、琴のご飯を召し上がれ♪」
「お、おぉ……!朝からなんて豪勢な……」
「ふふ、ありがと。冷めないうちにどうぞ。はい、お姉ちゃんあーん♡」
「……い、いやあの琴ちゃん……毎日毎食時言ってるけど、あーんはいいから。自分で食べられるからね私……」
「あーんは嫌い?なら口移しで——」
「だから、それも毎日毎食時言ってるけど、しなくていいからね口移しとか!?」
「……ちっ」
例えば……お料理の腕。昔は火が怖いからって大好きなホットケーキ焼くのも私頼りだったのに。知らない間に追い抜かされていた——どころの話じゃない。ぶっちゃけこれってどこのお店の料理だって思うくらい、琴ちゃんは料理上手になっていた。
本人曰く、花嫁修業した結果らしい。ああ、勿論私の嫁になるための修行なんだとか。……一途過ぎでしょ琴ちゃん。
「お姉ちゃん、今日は天気も良いし。公園までお散歩しない?家に籠もりっぱなしだと身体に悪いしさ」
「おっ、良いねぇ。お家でリハビリも良いけど、やっぱたまには太陽の光も浴びなきゃね」
「ふふ、そうだね。それじゃ——(ひょい)早速行こっかお姉ちゃん」
「…………あの、琴ちゃん?何故君は相も変わらず私をお姫様抱っこするんだい?散歩って話じゃなかったのかね?」
「え?だって流石に公園までは遠いでしょ?片道だけでもお手伝いしようかなって思って」
「なるほどなるほど……で、本音は?」
「お姉ちゃんは私の嫁だって、世間の皆さんに見せつけて知らしめてやりたくて♡」
「恥ずかしいからせめてお外でお姫様抱っこは勘弁してぇ!?」
体力とか運動神経も昔とは比べものにならない。私一人を抱きかかえて数十㎞移動しても琴ちゃんは息一つ切らさないし、何なら抱きかかえたまま飛んだり走ったりも余裕でこなす。
10年前は私が琴ちゃんをおんぶして遊び回ってたってのに、今ではこうして何かと理由を付けては琴ちゃんにお姫様抱っこされるようになってしまった。姉貴分としてはなんかちょっと複雑な気分だわ……
「琴ちゃん、ごめんね……私ったらぼんやりしてて……変な奴らに絡まれちゃって……」
「んーん。私こそごめんね。お姉ちゃんに怖い思いをさせちゃったよね?私が付いておきながらホントにごめんね」
「琴ちゃんが謝る事じゃないよ。隙がある私が悪いんだし」
「何言ってるの。お姉ちゃんは一ミクロンも悪くないよ。…………(ブツブツブツ)まったく。ちょっと飲み物を買いに行った隙に、私の小絃お姉ちゃんに手を出そうとする輩がいるなんて……油断も隙もあったものじゃない。そりゃあお姉ちゃんが綺麗で可愛くて、つい声をかけたくなっちゃう気持ちは十分わかるけど。それにしたって今時ナンパとか…………やっぱりお姉ちゃんは常に私の目の届くところにいて貰わないと……」
性格も、ガラリと琴ちゃんは変わっていた。10年前は……何かと私の後ろでビクビクと怯えたり怖い事があると私に泣きついて来ちゃう子だったのに……私の手元から離れている間に、いつの間にやら琴ちゃんは凜々しく勇ましい大人の女性に変貌を遂げていた。
さっきなんて、私に近寄ってきた物好きたちの手を払い。
『……私の大切な人に、なにしているの?』
と。一言で追い払っちゃったし。…………イケメン過ぎる……かっこよすぎるよ琴ちゃん……大の大人数人を一声で一蹴させちゃう迫力といい『大切な人』とか言い切って私を守ってくれるところといい……
ほんとにさぁ、琴ちゃんはさぁ……いちいち私の好みをピンポイントに狙いすぎだろすきぃ……
——と、まあざっくりと語らせて貰ったわけだけど。大体10年経った琴ちゃんはこんな感じ。10年で琴ちゃんは容姿も運動能力も性格も何もかも。とにかく全てが完璧に私の理想的すぎる女性に変貌していた次第だ。
「…………琴ちゃんも、ホント変わったよね」
「お姉ちゃん何か言った?」
公園のベンチに腰掛け、私の隣に座る琴ちゃんをまじまじと眺めつつ呟く私。10年でここまで人は変わるもんなんだなぁと痛感する。
「大した事じゃないんだけどね。私の知らないうちに、琴ちゃんも随分変わったなって思って。あ、勿論良い意味でね?凄く成長したなって思ってさ」
「そう?まあ、確かに体型とか性格とか色んな技術とか。お姉ちゃん好みの大人の女になるための努力はちゃんと重ねてきたって自覚はあるよ。お姉ちゃんが目を覚ましてくれた時に、私の事を好きになって貰えるような魅力的な女になりたかったからね」
ふふん、と自慢げに琴ちゃんはその豊満な胸を張る。……口出すと琴ちゃん興奮して襲いかかって来そうだから言わないけど……その目論見、大成功だよ……
実際目覚めて最初に琴ちゃん見た時、自分の超絶タイプ過ぎてマジでどうにかなっちゃいそうだったし。
「……でもね小絃お姉ちゃん。確かに背格好とか色んな物は変わったけどさ」
「ん?なぁに琴ちゃん」
「変わったってお姉ちゃん言うけれど。私、根っこの部分はきっと何一つ変わってないよ。今も私の心はあの頃のまま。どれだけ変わろうと、これだけは絶対変わらないよ。だから安心してね」
「ええっと、琴ちゃんの変わらない物と言うと?」
私がそう問いかけると。琴ちゃんは私が一番好きな輝く笑顔でこう言い切った。
「小絃お姉ちゃんの事が大好きって気持ちは、未来永劫変わらないから」
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