15話 琴ちゃんのおたのしみタイム

「——良いんだよね……?お姉ちゃんの匂い、直に嗅いで良いんだよね……?」

「……あー」


 言った、言ったさ。……軽い気持ちで、洗ってない服とかタオル嗅がれるくらいなら直に嗅がれた方がマシと確かに言ったさ。

 けど……まさかこんなに食いつかれるとは思わなかった……そういや、つい最近も私の傷に触りたいとかなんとかでメチャクチャ食いつかれたっけ。なんか琴ちゃん……この10年で妙な性癖に目覚めちゃってないか?


 ……そうなった原因、お前だろって?返す言葉もございません。


「こ、琴ちゃんが本気で望むなら構わないけど……で、でもせめてシャワー浴びさせて貰えると……ほ、ほら。ついさっきまでリハビリして大分汗をかいちゃってるでしょ私」


 これでも私も女の子。一応、人並みの羞恥心は持っている。自分の匂いを……他でもない、自分を慕う超美人な大人のお姉さんに嗅がれるとか……何その罰ゲーム?私、恥ずか死ぬぞ?せめてもの抵抗で、シャワーの要求をする私。


「嫌。シャワーなんて浴びたら……純度が下がる」

「えぇー……」


 そんな私のお願いは、瞬く間に一蹴された。いや、純度ってなんじゃい……


「……ダメ?」


 その場で屈んで私の手を取って。そして上目遣いでそう問いかける琴ちゃん。ぅ……そんな目で見ないで……や、やめてよ……そんな自分の武器を惜しみなく使って……

 琴ちゃんにこうされると私が弱いって、断れないって……10年前から知ってるだろうに琴ちゃんはホントにずるいよ……


「……わ、わかったよ。これは自分が言い出したことだもんね……」

「じゃ、じゃあ……!」


 仕方ない……元は自分が撒いた種。ちょっと恥ずかしい思いをするだけで、琴ちゃんが安心するというのなら……琴ちゃんの姉貴分として。私も覚悟を決めようじゃないか。


「……琴ちゃん、来て」

「……はい」


 覚悟完了した私は腕を大きく広げて琴ちゃんを迎え入れる。琴ちゃんは私の許可を聞き、おずおずと私に近づいて……


「小絃、お姉ちゃん……」


 私の胸の中に収まった。


「は、ぁ……ん……すぅ……すぅう……」

「っ……!」


 胸元に鼻先を押しつけて、深く深く琴ちゃんは呼吸する。まるでワンコのように匂いを嗅いでは私の胸に頭を擦りつけ。そして夢うつつにうっとりとした表情で蕩けている。


「すぅ、すぅううう……あ、はぁ……♪小絃お姉ちゃんだ、お姉ちゃんの香りだ……ああ、夢じゃない……お姉ちゃん……本物の、お姉ちゃんの……すぅうう……!」

「くっ……うぅ……ッ」


 感極まった声を上げ、琴ちゃんは私の体臭を一心不乱に嗅ぐ。私の体臭を嗅ぐ度に、アルコール酔ったように琴ちゃんの頬は赤く染まっていく。

 遠慮も加減も一切無し。私が逃げないように。自分の腕をしっかり私の腰に回し。そしてこれでもかと言うほどに密着して嗅ぎまくる。……否、もはや嗅ぐというレベルを超えて吸い込んでいる。


「ああ、凄い……お姉ちゃんの……生の、香り……すき、大好き……嗅いでるだけできもちよくなっちゃう……」

「こ、琴ちゃ……くすぐったいよ……胸の中で、喋らないで……」

「ん、ごめん。……でも、ホント凄くて……はぁああ……♪」


 一方の私は身を悶えて震えるしか出来ない。琴ちゃんが身じろぎ服越しに息を吸い込む度に、半端ないくすぐったさと羞恥に襲われる。


「こ、琴ちゃん……ごめん、ちょっと……加減を……これじゃ、立っていられない……」

「あ……ごめん、辛い?ちょっと横になろうか」

「うん……」


 まるで自分の匂いと一緒に力まで琴ちゃんに吸い取られているような気分だ。しばらくは耐えていたけど、だんだんと力が入らなくなってきて。へなへなとその場に座り込んでしまう私。そんな状態の私を琴ちゃんは優しくそっと横にして、


「これでよしっと。お姉ちゃん大丈夫?辛くない?」

「ああ、うん大丈夫。これなら楽かも」

「それは良かった。じゃあ楽になったところで——嗅ぐの、再開させてね♡」

「…………あっ、まだ続けるのね……」


 そして私に覆い被さって嗅ぎ続ける。お陰で半ば押し倒されたような体制で嗅がれる事になった。しまった……なんか状況酷くなってないかコレ?


「って……ちょ、ちょちょちょ……琴ちゃん!?なにナチュラルにボタン外してんの!?何してんの!?」

「え?だって……こうすると、もっとお姉ちゃんの匂いを強く感じるから……大丈夫、いかがわしい事はしないから安心して。…………

「この行為自体、十分いかがわしくないかね琴ちゃんや?」


 服越しじゃ我慢できなくなったのか、私のシャツのボタンを外し。露わになった胸の谷間に顔を埋めて琴ちゃんは思い切り吸い込む。胸に琴ちゃんの吐息がかかるとゾクゾクってなっちゃって……

 だ、ダメ……そんなとこ吸われたら……なんかへんな気分に……


「はぁ、はぁあああ……すごい。お姉ちゃん、ほんと良い匂い……」

「うぅ……良い匂いって……正直、全然そうは思わないんだけど?シャワー浴びてないんだよ?汗の匂い、自分でも結構感じるんだよ?」

「そこがいいの。いつも以上に、お姉ちゃんの匂いを感じて……ああ、たまらないよ……」


 熱心に嗅がれながらそう言われると、くすぐったいだけじゃなくてむず痒さも感じてしまう。あー……顔から火が出そう。絶対臭うだろうに……恥ずかしすぎる……

 そう意識すれば意識する度に、全身火照り更に汗が噴き出てきて更に体臭が強くなっていく。ああ、なんて悪循環。


「も、もぅ……琴ちゃん、嗅ぎ過ぎだって……一体いつまで嗅ぐのさ」

「……正直、いつまでも嗅げそう。永遠に嗅げそう」

「永遠って……」

「お姉ちゃんの匂いは、ずっと嗅いでいられる匂い。安心する」


 最高の笑みを浮かべて恥ずかしい事を言い切る琴ちゃん。安心ね……


「これってアレと一緒かな。飼い犬が自分のご主人の匂いをしきりに嗅ぎたがる的な」

「……私が、犬?」

「って、琴ちゃんを犬扱いは流石に失礼だったね。ごめんごめん」

「んーん。別にいいよ?お姉ちゃんにならどんな扱いでも。……お姉ちゃんが、私を飼ってくれるなら喜んで犬になるよ」


 クスクスと笑いそんな事を言う琴ちゃん。……うーむ。自分で言うのもなんだけど、言い得て妙かもしれん。従順に私の後ろを付いてきたり、私とのスキンシップ大好きだったり、今こうして私の匂いを嗅ぎまくったり……9割犬だったわ琴ちゃん。前世は忠犬だったに違いない。


「お姉ちゃん、お願い。これからも……私を安心させて。お姉ちゃんのこの素敵な匂いを嗅がせてね。お姉ちゃんの生きている証を、私に確かめさせてね」

「うーん……生きてる証を確かめる方法がコレなのはちょっと恥ずかしすぎるんだけどなぁ……も、もうちょっと別の方法考えない?」

「…………善処する」

「その顔、絶対善処する気ないでしょ琴ちゃん……」


 ちょっぴり呆れつつ、琴ちゃんの幸せそうな顔を見て私は思う。……でも、まあ良かったよ。こんな風に琴ちゃんが安心してくれるなら。不安な気持ちを吹き飛ばしてくれるなら。たまになら好きにさせてやっても良いかもね。


「さてと。お姉ちゃん」

「ん?なぁに琴ちゃん?」

「小休憩したところで……またお姉ちゃんの匂い、嗅がせて欲しいんだけど」

「…………ま、まだ嗅ぐつもりだったの……?まだ満足してなかったの琴ちゃん……?」

「全然足りない。もっと私を、お姉ちゃんでいっぱい満たさせてね」


 …………勿論。たまになら、だけどね!この後も琴ちゃんが満足してくれるまで、散々匂いを嗅がれた私であった。

 ん?それで結局、琴ちゃんはいつ満足してくれたのかって?……夜も更けて日付が変わる寸前まで嗅がれまくったけど、それが何か?







「——ところで琴ちゃん。今日色々ありすぎて、結局琴ちゃんに聞きそびれてた事があるんだけど」

「聞きそびれてた事?ええっと……何かな小絃お姉ちゃん」

「洗濯物を畳んでて気になったんだけどさ……琴ちゃんはいつもあんな…………え、えっちな下着……着てるの……?」

「ん?エッチな下着?……ああ、アレのこと?うん、着てるよ。だってお姉ちゃんとの同棲生活だよ。常在戦場、いつ如何なる時でもお姉ちゃんに襲われても良いように、いつでも準備万端。いつでも勝負下着だよ」

「……」

「勿論今も勝負下着。……気になるなら、見る?」

「み、みみみ……見ませんっ!?」

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