9話 10年経って何が変わった?

 琴ちゃんとの二人っきりのドキドキ同居生活も。早いもので一週間が経った。この一週間は献身的な琴ちゃんの協力の下、少しずつなまりきった身体を元に戻すべくリハビリ(※ちょっと琴ちゃんのスキンシップ多めなやつ)を進めたり。寝たきりだったせいで遅れてしまった勉強(※バカなので元から遅れてます)を教えて貰ったり。


「——うーむ。まさかここまでとは……」

「小絃お姉ちゃん?難しそうなお顔をしてどうしたの?」

「ああ、琴ちゃん。いやなに。社会の変化に今更だけど驚いてただけだよ。ホントに10年経ったんだなぁ……って。今になってしみじみ実感し始めてさ」


 あとは……暇な時間に停滞していた10年の変化を琴ちゃんに教えて貰っていたりする。流石に10年経てば世の中は色んな事が変わっていた。


「ああ、そっか。10年ってやっぱりそれなりに長い年月だよね。私の感覚だと割とあっという間に時が過ぎた印象だからあまり実感がないけど、お姉ちゃんにとってはいきなり10年も経過しちゃった感覚だもんね。そりゃ戸惑っちゃうか」

「そーなんだよ。もうビックリだよ。タイムマシンに乗ってきた気分だもん」


 事故って寝過ごし10年経ち。浦島太郎もとい浦島乙女な私、音瀬小絃。いつものように午前中のリハビリも終え、琴ちゃんと二人でならんでソファに座りのんびりとテレビを見ながら、感慨深くそう話す。


「なるほど。……ちなみにさ。お姉ちゃん的にはどこがどう変わったと思う?」

「んーと。例えばだけど……好きだった漫画が完結してたり。応援してたアイドルが引退していたりとかかなぁ」


 つい最近連載開始した漫画が目覚めた時すでに完結してたのにはびびったよ。一気読み出来るのは良い事なのか悪い事なのかわからんね……その一方で未だに絶賛連載中だったり休載してたり打ち切りになったやつもあったけど。まだ完結してねーんかい……って別の意味でびびったわ。

 あと、大好きだったアイドルが引退してたのも地味にショックだったなぁ。せめて引退ライブに行ってみたかった……


「その他にもね、結構色々とビックリする事だらけだったよ」

「そうなの?せっかくだし教えてお姉ちゃん」

「そだねぇ。消費税が5パーから10パーに一気に上がってたり。行きつけの店が潰れてたり新しいお店が出来てたり。あとは……10年前はアレよ?大体みんなが持ってたのはボタンポチポチのケータイ……今で言うとガラケーってやつで。スマホとやらをお目にかかる事なんてほとんどなかったんだよ?それなのに……今じゃガラケーの方がお目にかからないとこがかなりビックリだったかな」

「あー、確かにそうだね」


 私感覚でつい最近買ったケータイとか、とっくにサービス終了して今やただの箱に成り果てていたわ。流石に泣きたくなったわ……


「あ、そうだ。スマホで思い出した。あのねお姉ちゃん。現代日本だとスマホはほぼ必須のアイテムなんだよ。通信手段的な意味は勿論、ゲームも出来るネットも出来る動画も見れる。おまけにスマホ一つあれば買い物も出来て、ぶっちゃけ外出るときもお財布必要ないレベルだし」

「それもホント驚きだわ……技術の進歩は目を見張るものがあるわ。ほんと便利な世の中になったもんだねぇ」

「うん。だからさお姉ちゃん。今度一緒にお姉ちゃんのスマホ、買いに行かない?」

「え?私の?」


 琴ちゃんに言われて考える。ふむ……確かにスマホもあると絶対便利だろう。私自身ちょっと興味もあるし……


「あ、でもごめん。私今あんまり手持ちのお金ないから、そういう高価なものは買えないんだよね。もう少しお金が貯まってから——」

「それなら大丈夫。私がお姉ちゃんに買ってあげるから!プレゼントしてあげるから!」

「へっ?」


 こ、琴ちゃんに……買って貰う……?


「い、いやあの……流石にそれは琴ちゃんに悪いというか何というか……」

「良いんだよ。私がそうしたいの。これでも私結構稼いでるから金銭的な事に関しては気にしないでね」

「そ、そうなんだ。で、でもね琴ちゃん……あの……」

「うふふ……お姉ちゃんにプレゼント♪……お姉ちゃん未成年だから、私が保護者として一緒に契約する事になるだろうし……お姉ちゃんの保護者欄に私の名前が載るって事に……ふふ、ふふふ……なんだかお姉ちゃんと家族になったみたいで素敵……お姉ちゃんのスマホの初めてを私の手で奪う、ああなんて快感なの……♡」


 …………スマホ買って貰うとか……どうしよう。ますます本格的に私、琴ちゃんのになってないか……?年下の妹分に貢がれるとか……惨めというか情けない気分になってお姉ちゃんへこみそうよ琴ちゃんや……


「ぎ、技術の進歩で思い出したんだけどさ!自分の身近な事で言えば、医療技術が大幅に発展したことも驚きだったね!」

「医療、技術……」

「お陰で瀕死だった私もどうにか復活できたわけだし、医学の発達様々だよねー」

「……それは本当にそうだね。良かったよ、医療が発展して。お姉ちゃんが生きていてくれて……お姉ちゃんがちゃんと私の前に戻ってきてくれて……本当に良かった」



 ぎゅぅううううう……ッ!



「えっ?…………わっ、わわわ……ッ!こ、琴ちゃん……!?」

「ねえ、お願い小絃お姉ちゃん……もう絶対、私の前からいなくならないでね……?お姉ちゃんが戻ってきてくれて嬉しいけど……だからこそ毎日が不安なの、怖いの……お姉ちゃんがまた私の目の前であんな恐ろしい目に遭うんじゃないかって……ずっと、ずぅっと……私の側にいて。ずっとずっと元気でいてね?ね?約束してねお姉ちゃん……」

「わ、わかった!ごめん私が悪かった!だ、だから泣かないで!……あ、あああ……あと、そんな素敵ダイナマイトボディで抱きつかないで!……み、身も精神もいろいろ保たないから……」


 スマホから話題を変えたい一心で。軽い気持ちでその話をした途端。琴ちゃんは泣きそうな顔で私に近づき、私の存在を確かめるように強く強く抱きしめてきた。い、いかん……また地雷踏み抜いた……琴ちゃんにとってこの話題はあんまりよろしくない事をすっかり忘れてた……

 慌てて琴ちゃんを宥めつつ、更に何か別の話題を考える。え、ええっと……何か琴ちゃんも笑顔になれそうな話題ないか?よく考えろ……えーっと……


「ほ、他にはアレだね!私的に10年経ってかなりインパクトがあったのは……女の子同士でも結婚出来る事だったね!」

「…………そうね、それは本当に衝撃だったよね。……良い意味で本当に衝撃だったよお姉ちゃん」

「…………あっ」


 別の意味で更にどでかい地雷を踏み抜く私。だから、どうして私はこうも同じ過ちを繰り返すのか。10年経っても成長してねぇ……


「まあ、同性の婚姻が認められるって法が可決した当初は。私正直どうでも良かったんだけどね」

「え?あ、そ……そうなんだ!ま、まあ確かに急に同性婚OKとか衝撃的すぎて誰でも戸惑っちゃうもんね——」

「だって……恋い焦がれて、想い続けていた人は夢の中だったから。結婚したいって思う人がいなきゃ、そんな法律なんて絵に描いた餅。意味のない法律だもの」

「……えーっと」

「ふふ……でも。今は……お姉ちゃんが目を覚ましてくれた今は……本当に感謝してるよ。この法律のお陰で……ちっちゃい頃から憧れてた小絃お姉ちゃんと、結婚が出来るんだから」

「ぴ、ぴやぁああ……」


 泣き崩れ小さい頃みたいに甘えて私に抱きついていたのに。いつの間にやら一転、大人のレディモードになって私を抱きしめてくる琴ちゃん。

 さり気なく腰に手を回したり、耳をくすぐったり……捕食者の目で怪しく私を見つめてきたり。さ、更に身と精神がもたねぇ……だ、誰か助けてぇ……!?


「まあ、それもまだまだ先の話だけどね。まずは何よりも、お姉ちゃんの身体の調子を元に戻す事が大事だもんね」

「ッ!そ、そうだね!琴ちゃんの言う通り!このなまりきった身体を元に戻すのが先決だよね!」


 うっかり琴ちゃんに手を出さぬよう、琴ちゃんの誘惑に耐えるべく般若心経を心の中で唱えようとした矢先。意外にも琴ちゃんからパッと私から離れてそんな事を言い出す。

 ホッとしながらも琴ちゃんのその一言に便乗する私。た、助かった……


「だからしっかりリハビリして」

「うんうん」

「栄養もしっかり取って」

「うんうん」

「『身体がまだ治りきってないから結婚なんて今はまだ考えられない』って言い訳も通じないくらい、お姉ちゃんの身体が元気になって」

「うんう……ん?」

「そして……お姉ちゃんの身も心も私でいっぱいに満たしたら……その時は、必ずお姉ちゃんをお嫁さんにするからね」

「……」


 訂正、助かってない。一切琴ちゃんブレてない。


「さてと。その為にもまずはお姉ちゃんの身体に栄養を送り届けてなきゃね。良い時間だし私、お昼ご飯作ってくるね。待っててねお姉ちゃん♪美味しくて身体に良いものいーっぱい作ってくるから!」

「あ、ああうん……行ってらっしゃーい……」


 そう言ってにこやかに笑い。琴ちゃんは鼻歌交じりにキッチンへと向かっていく。そんな琴ちゃんの後ろ姿を見ながら私は思う。


「………10年経って私が一番驚いたのはね、琴ちゃん」


 君がこんなにも綺麗で素敵で魅力的な大人の女性に成長してた事だよ。

 …………なんて、本人の前じゃ言えないけど。言ったら琴ちゃん、興奮して襲いかかって来そうだし。

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