琴ちゃんとの日々
5話 知らない常識非常識
私、音瀬小絃が事故に遭い、昏睡状態になって……長い眠りから目覚めると、なんとびっくり世の中は10年の時が経っていた。
10年という長い月日は可愛い従姉妹を素敵なレディへ変えていて。そして……
『今はね、お姉ちゃん。女性同士。男性同士の結婚が認められてるんだよ』
ついでに社会の常識も変えていた。
『――お姉ちゃん、結婚しよう』
大きく変革した社会に困惑する私をよそに、可愛がっていた従姉妹――音羽琴ちゃんは、私に熱烈なプロポーズをしてきた。見た目性格その全てがドストライクな彼女の好意に……私は一体、どう応えていけば良いのだろう……?
◇ ◇ ◇
「「――え、何?女同士でも結婚出来るって、知らなかったの小絃?」」
「知らなかったよ!?知ってるわけ無いでしょうが!?」
琴ちゃんに告られた次の日。私の様子を見に家までやって来た我が母と我が親友に向かって、私は思わず叫んでいた。
「マジなの!?ねえ、女の子同士でも結婚出来るってマジなの!?みんなして私をおちょくろうとしてるだけなんじゃないの!?ドッキリとかじゃないの!?」
いくら10年眠りこけてたとはいえ、同性同士の婚姻がOKな社会!?何があったんだよ未来!?
「マジもマジ、大マジよ。こんな事で嘘ついたって仕方ないでしょー?」
「ですね。良い社会になったもんよ。かく言う私にも……嫁がいるわけだし」
「彼女を通り越して嫁!?お、女の人と結婚してんのあや子!?」
「ほれ見てみなさい小絃、これが私の嫁よ。どーよ?可愛いでしょ♡」
私の疑問に何てことないような風に答える二人。慌ててあや子が取り出した携帯——あ、今はスマホっていうんだっけ?その画面を見させてもらうと……小柄でくりくりっとした目がチャームポイントな女の子とあや子が、カメラ目線でキスしている姿がそこにはあった。二人の薬指には指輪がはめられキラリと輝いていて……いかにも『私たち、結婚しました♡』——と年賀状に貼られてそうな絵となってる。
「ちょうど小絃が事故ったすぐ後くらいかなー?すっごい綺麗な女の子たちがね、『同性婚を認める社会へ』ってテーマで活動をはじめたのよね。随分大きな運動で、社会現象が巻き起こったわ。……ええっと、はいこれ。これがその時の映像ね」
今度は母さんのノートPCを見せてもらうと…………双子の姉妹だろうか?とても綺麗でうり二つな女の子二人を中心に、男女ともに熱心に署名活動や街頭演説をしている映像が流れてくる。そして次の映像では、政府が『同性婚を認める』と言う旨の発表をしていた。
「5年前くらいに施行されて、そんで今に至るって感じねー。まあ、法律が施行された前後は流石にかなりの賛否両論あったものよ。……でも今じゃわりかし同性同士のパートナーが当たり前な感じになってると思うわ。そうよねあや子ちゃん」
「ですねぇ。この法律のお陰で私もこーんなに良い嫁をGETしたわけですし」
「ま、マジか……」
……ここまでハッキリとした証拠を見せられると、この二人の悪質な冗談なんかじゃなく本当の事だと認めざるを得ない。って事は……
「や、や……やっちまったぁあああああああ!!!」
頭を抱えて絶叫する私。あ、あかん……やらかした……!私、琴ちゃんと琴ちゃんのパパママに、琴ちゃんを嫁に貰いますって……堂々と宣言しちゃってるんだけど!?だ、だって知らんかったし!『娘を嫁に貰って欲しい』って、あのお二人の小粋なジョークだって思ってたし!?
やばい、やばいよ……知らず知らずのうちに……内堀も外堀も完全に埋めちまってんじゃん私……!い、今更あの人の良い琴ちゃんのご両親に誤解だったとか言えないし……ど、どうしよう……どうしよう……ッ!?
「何よー、嫌なの?あんなに優秀で素直で一途で可愛い子を嫁に貰えるんでしょ?ちなみにあたしは琴ちゃんが義理の娘になるの大歓迎よー?」
「小絃、贅沢言えるような立場じゃないでしょうに。一体何が不満なのよあんた」
青ざめどうしようかと頭を悩ます私を見て、二人は無責任にそんな事を言う。不満?いいや、そんなもんあるわけ無い。だけど……
「違う、違うんだよ……そうじゃない。私が言いたいのはさ——」
「ただいま、ごめんね待たせちゃったねお姉ちゃん」
「ぴゃいっ!?」
と、二人に自分の素直な思いを告げようとしたタイミングで。話題の同居人にして、私のお嫁さん(仮)な可愛い従姉妹の琴ちゃんが戻ってきた。あ、あっぶねぇ……!?危うくヤバい事口に出すところだった……!
「お、おかえり琴ちゃん……お、おつかれー……」
「はい、ただいまだよお姉ちゃん。体調はどうかな?辛かったりしない?無理しちゃダメだからね?困った事があったら、なんでも私に言ってね?ね?」
これでもかと言うくらい顔を私に近づけて、両手を私の頬に添えてじっくり覗き込む琴ちゃん。美人が!アップで!!私の視界いっぱいに!!!
「わ、わかってる!大丈夫から……そんな近づいて確認しないで良いからね!?」
「フフ……お姉ちゃんは照れ屋さん」
必死に琴ちゃんから顔を逸らして、琴ちゃんの視線から逃れる私。くそぅ……照れるに決まっとるわこんなの。顔が良すぎる……刺激がめちゃくちゃ強すぎる……
「とにかく元気なら良かった。あと……遅くなったね。寂しい思いをさせちゃってごめんねお姉ちゃん。やっと職場と話がついた。これでしばらくはお姉ちゃんを付きっきりでお世話できるよ」
「そ、そんな……わざわざ仕事休まなくても良かったのに……自分で出来る事は自分でやるよ私」
「私がそうしたいからするの。……それに、元々有給を消化しないで貯めすぎてて困ってたわけだし。今が有給の使いどころだなって思ってるからこれで良いんだよ」
琴ちゃんはこの前宣言したとおり、私が普通に生活出来るまでは付きっきりで私のリハビリに付き合ってくれるそうだ。公私共に忙しいだろうに申し訳ないやら何やらで……
「お義母さんも、あや子さんも。ありがとうございました、私の代わりにお姉ちゃんを見ててもらって。後は私にお任せください」
「はいはーい。ホント気の利く義娘が出来てお義母さん大助かり!そんじゃ、後はよろよろー」
「小絃はみっちり琴ちゃんにリハビリしごかれなさいよねー」
琴ちゃんが戻ってきたことで、母さんとあや子はもう用は無いと言わんばかりにとっとと家を後にする。
ううむ……私のお世話、してたのかあの二人?ただ冷やかしと世間話をしにきただけでは……?まあどうでも良いけどね……
「ふふふ、家の外まで随分と楽しそうな声聞こえてたよ。お姉ちゃん、お義母さんとかあや子さんたちと一体どんなお話をしていたの?」
「ぅ……た、大したお話は……してないよ。他愛も無い雑談してただけ……あ、あはは……」
同性同士で結婚が出来るって話の裏付けやってた、とか正直には言えまい。……下手にその話題を蒸し返したら、私が色々気まずくなるし……
「ふーん?そうなんだ。お姉ちゃんが楽しそうで何よりだ。……さてと。ねえ、お姉ちゃん?」
「ふぇ……な、なにかな琴ちゃん」
「…………やっと、二人っきりになれたね」
「そ、そそそ……そう、だね……」
琴ちゃんはおもむろに、私の隣に腰掛けて。……私に寄りかかり、そう囁く。琴ちゃんが帰ってきてから上がりはじめていた心拍数が、ここに来てさらに急上昇。顔が火照ってしまってしょうがない。
ただの事実を述べられているだけなのに。『二人っきり』という単語にどうしてこんなに動揺しちゃうんだろう私……
「……お姉ちゃん。もう一度聞くけど。身体は大丈夫?辛かったりしない?今日はまだ動けそうかな?」
「え?あ、ああうん。平気。全然動けるよ私。元気も元気、超元気!」
「そう、それは良かったよ。……ならさ、小絃お姉ちゃん」
動揺していると悟られたくなくて、私は大げさに元気を強調する。そんな私を前に琴ちゃんは怪しげな瞳で私を見つめながら、
「——そんなに元気いっぱいならさ、今から私と一緒に……気持ちいいこと、しよっか」
そんな事を言い出した。
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