方言マスターへの道(ヤ行変格活用譚)

 私、自分とこの方言好きなんやってぇ


 最初は方言強くないつもりやったんやけど

 めっちゃ標準語と違うとか言っとる人がおったんもんで結構気にしとったんやよねぇ


 そんでさぁ、あるとき気づいたんやて


 あ、これ語尾どころか標準語と名詞のイントネーションもわりと違うやん!

 ってさぁ


 てか東京出張んときも知らんまに方言出とるらしいでやばいんやってー!


 直そうとしてもさー、あかんのやてあれさぁ

 語尾はいいにしても名詞は簡単に直らんもんなんやて

 しっとった?


 だってさぁ、カッターシャツとかも標準語やないらしいやん

 ビビらぁん?


---



 ハイッ


 どうもこんにちはー! 穂刈でーっす!



 カッターシャツって東日本ではあまり使われないそうですね。

 ワイシャツなんですってね。


 ワイってなんやて! Yかよ?


 って思っていたら、「ホワイトシャツがなまったもの」なのだそうですね。


 インターネットってすごいなぁ。



 でも、だったら「黒いワイシャツ」って矛盾してない??????




 まあいいや

 今回は私の住む地域の方言について、例文を使ってご紹介します。


 といっても語尾くらいしか変わらないので、ニュアンスの紹介ですね。


 年配の方々や山深い地域に住んでいる人たちになると、いよいよ名詞も訳分からんくなります。それについては今回は控えめにして、また追々。


 登場人物名は私の生まれた地域でよく見かける名前にしましょうか。



<場面① 学校にて>


纐纈こうけつ:ちょぉ聞いてよ鷲見すみ

鷲見:あん?

   どーせ加納がまたなんかやったんやろ

纐纈:そーそー!

   やけどあいつが国語の課題やっとらんかったってしらんやらぁ

鷲見:ほんなんいつもんことやん

纐纈:やけどあかんのやって、今回は

   課題やっとらんやつみんな修学旅行行けんのやとー

   先生がいっとった

鷲見:は? やばいやん

纐纈:やらー

   やでかわいそうやよね

加納:え、今の話まじ?

   それしっとったらちゃんとやったんやけど

鷲見:今からでもやりゃあ



<標準語訳>


纐纈:ちょっと聞いてくださいよ、鷲見君

鷲見:うん?

   どうせ加納君がまた何かしでかしたのでしょうね

纐纈:そうです

   でも彼が国語の課題をやっていなかったのは知らないでしょう?

鷲見:そんなもの、いつものことではないですか

纐纈:しかし今回ばかりはだめなのですよ

   課題ができていなかった者は全員修学旅行に行けないらしいのです

   先生がそう言っていました

鷲見:え、まずいじゃないですか

纐纈:そうでしょう

   ですから、かわいそうですよね

加納:今の話は本当ですか?

   それを知っていたら、ちゃんとやっていたというのに

鷲見:今からでもいいから、やりなさいな



<場面② 帰宅中>


  (小木曽おぎそのスマートフォンに着信がある)

小木曽:父さん、どうしたー?

父  :俺ちょっと出てくで、えか

小木曽:あー、分かった

    じゃ今誰もおらんのやね?

    はいはーい

  (電話を切り、歩きスマホをしていると)

翁  :おまーさん、たぁけかぁ!

    ほんなとこあるいとったらかんでくろへってけ!

小木曽:あ、すいません……

翁  :若い衆は電話ばっかなぶっとるでかんわ……(ブツブツ)

  (父から再度着信がある)

小木曽:どしたー?

父  :あっかん、鍵かっとらんかったかもしれん

    はよ帰れるか?

小木曽:安心しやぁ、もう家の前やよ



<標準語訳>


小木曽:お父さん、どうしましたか

父  :少し出かけてきますね

小木曽:ええ、分かりました

    では今は(家に)誰もいないのですね?

    はい、では

老人 :あなた、馬鹿ですか?

    そんなところを歩いていたら危ないので、端に寄りなさい

小木曽:すみません

老人 :若者は携帯電話ばかり触っているのでいけませんね、云々

小木曽:どうしました?

父  :ああ、戸締まりをし忘れてしまったかもしれません

    早めに帰ってこられますか?

小木曽:安心してください、もう家の前にいますよ




 こうして見てみると、私たちの方言は「や」への依存が大きいように感じられます。


 ここで「や」にまつわる方言(の語尾)をまとめてみます。周知の事実かとは思いますが、しばしお付き合いください。


 基本的に全て語尾につきます。


---

●やぁ

 例:「はよしやぁ/はよやりゃあ」

   (早くしなさい)

 例:「傘持ってきゃぁ」

   (傘を持ってお行きなさい)

 例:「傘さしゃぁて」

   (傘を差しなさいってば) 


●やよ(やお)

 例:「今日雨やよ(やお)」

   (今日の天気は雨ですよ)


●やて

 例:「校長の話長いんやてー」

   (うちの校長先生のお話が長いんですよ)

 例:「あそこの校長話長いんやって」

   (あの高校の校長先生は説明が長いらしいですよ)

 例:「ゼニガメやなくてヒトカゲやて」

   (ゼニガメじゃなくてヒトカゲですよ)

 例:「ゼニガメやなくてヒトカゲやって!」

   (ゼニガメじゃなくてヒトカゲですってば)

 ※ 例3は指摘、例4は再三にわたる指摘って感じ


●やと

 例:「各務かかむさんとこのお母さん、病気なんやとー」

   (各務さんのところのお母さんが病気なのだそうですよ)

 ※「やて」の例2に近いものがあります

   どちらも風聞ニュアンス


●やらぁ

 例:「明日って雨やらぁ」

   (明日は雨じゃないですか)

 例:髪型似合うね → 「やーらぁ!」

   (でしょでしょー♪)

 ※ 互いに知っていることを再共有するために使うパターンが多い


●やん

 例:「は? 無理やんこんなん」

   (ええ? 無理でしょう、こんなもの)

 例:「うるさいって言っとるやんか」

   (うるさいと言っているではありませんか)

 例:「昨日うちら片づけんかったやんねぇ」

   (昨日、私たち片づけなかったものね)

---


 お察しの通り、「だけど」は「やけど」になります。

 結構訳しやすいですよね。


 とにかく

 「や」の便利さがやばすぎるんやて。



 関西方面以外の人たちから

 時折「関西の方の人ですか?」と言われることがありますが

 私は断じて許しません。


 おそらく関西人も私たちを許しません。



 だって全然違うんやもん!



 なお、「熊」「服」「靴」「模試」「国語」のイントネーションも、標準語とは異なるでねー。


 以上!

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