第16話 レオナの目覚め
ドロシーは、アリスの依頼を快諾し、新たな人形を起動させることとなった。
依頼の詳しい内容はこうだ。
アリスが見守る中、各種観測機器を身体に着けた状態で人形を起動すること。
起動させた人形は、ドロシーが所有してもいいということ。
さらに、高額な報酬も別途支払われるという、ドロシーにとってはいいことづくめな内容だった。
「アリス様、ドロシー様。実験の準備が整いました。」
観測機器の設営を行っていたサラが、準備が完了したことを主人に報告する。
「でかした、サラよ。それでは、さっそく実験を始めようじゃないか!ドロシー殿!」
「………………!!!」
しかし、ドロシーは赤面し、かがみこんだままだ。
「どうした?ドロシー殿?腹でも痛いのか?」
アリスが心配げに声を掛けた。しかし……。
「どうしたもこうしたもないでしょ!なによ!この格好!」
ドロシーは赤面し、激昂した。
彼女が怒るのも無理もないだろう。
何故なら、今の彼女の姿は、パンツ一枚。
ほとんど裸同然の格好だったからだ。
「仕方あるまい。正確なデータを取るためには、服越しではなく肌に直接計測器具を張り付けねばならんのじゃからな。」
アリスは、にべもなく答えた。
「ほれ、これから器具を取り付けるからさっさと立たんか!言うとおりにせんと報酬は払えんぞ?」
「む~……。」
ドロシーはむくれながらも、しぶしぶと立ち上がった。
「それではこれより、計測器具を取り付けさせていただきます。ドロシー様、身体の力を抜いて、リラックスしてください。」
サラは手慣れた様子で、ドロシーの身体のあちこちに電極を取り付けていく。
膚に走るくすぐったさと、羞恥心に耐えながら、ドロシーはしばらくされるがままになっていた。
「ドロシー様の準備が整いました。」
「うむ、それではこれより、魔導人形の起動実験を開始する。ではドロシー殿、始めてくれ!」
サラの報告を受けたアリスが、実験の開始を宣言した。
「……じゃあ、始めます……。スキル発動!『入魂の儀』!」
ドロシーは、実験台の上に固定された人形に手をかざし、スキルを発動させた。
ドロシーの掌に魂が錬成され、人形へと少しづつ流れ込んでいく。
実験台の上の人形の肌に、少しづつ赤みがさしていき、美しい瞼が少しづつ開いていく。
……そこまでは順調だった。
「……うん?」
途中でおかしな手ごたえを感じ、ドロシーは首を傾げた。
「どうした?ドロシー殿?」
観測器具から吐き出されるパンチカードとにらめっこしていたアリスが、ドロシーへと顔を向けた。
「いや、何か変な手ごたえが……。ひゃっ!!」
いきなり手の平に強い衝撃を感じ、ドロシーは思わずしりもちをついて転んでしまった。
「いたた……。いったい何が……?」
ドロシーはお尻をさすりながら実験台の上を見上げた。
そして、そこで起こっている異様な光景に、思わず息をのんだのだった。
ドロシーが錬成した魂は人形からはじかれ、白いオーブとなって空中に漂っていた。
そして人形からは、黒いオーラのようなものが染み出し、それらは空中で固まり、黒く禍々しい光を放つ光球と化した。
二つのオーブは、空中で何度か衝突を繰り返した後、やがて混じりあい、赤い光を放つオーブへと変化した。
「なんじゃ?いったい何が起こっておる?ドロシー殿?」
アリスが狼狽し、ドロシーへ問いただした。
「わ、わかりません!わたしもこんなの初めてで……。ひゃっ?!」
赤く輝くオーブが、より一層強い光を放ち、部屋中を赤い光で満たしていく。
余りの眩しさに、そこにいた全員が思わず目をつぶった。
やがてオーブは、人形へと吸い込まれていき、光は収まり、部屋を再び暗闇と静寂が覆った。
「いったい何が起こったの……?」
ドロシーは立ち上がると、恐る恐る人形へと近づいて行った。
「気を付けるんじゃぞ!ドロシー殿!」
アリスも注意を促しながら、ゆっくりと人形へと近寄っていく。
ドロシーが人形に目をやると、その容貌は様変わりしていた。
頭にはライオンの耳が生え、お尻からは尻尾が生えている。
氷のようだった美貌は若干柔和になり、口元からは八重歯がはみ出している。
やがて人形はゆっくりと瞼を開き、目覚め始めた。
人形は体を起こし、ゆっくりと周囲を見渡した。そして、
「ふみゃぁ~⊷!」
と大きな欠伸をすると、右手で顔をこすり、体を丸めて眠ってしまった。
アリスとドロシーは、しばらく呆気に取られて、口をポカーンと開けて固まっていた。
「これは……成功……したのか?」
最初に口を開いたのはアリスだった。
「わ、わかりません。自分でも何が何だかさっぱり……。でも、ちゃんと動いているし、成功したんじゃないですかね……?」
ドロシーは自信なさげに答えた。
困惑する二人を尻目に、人形は可愛らしい寝息を立てて、すやすやと眠り続けている。
ドロシーは人形を掌に載せると、ほっぺたをつついて、静かに揺り起こした。
「うにゃぁ……。」
人形は不愉快そうな声をあげて、ドロシーに抗議した。
「とりあえず、あなたの名前を決めないとね。」
ドロシーは人形の喉を指で撫でながら、目の前の存在にふさわしい名前を考えた。
「そうね……。ライオンのお耳が生えてるから、レオナなんてどうかしら?」
新しい人形「レオナ」は、喉をゴロゴロと鳴らして、うみゃぁと鳴いた。
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