第14話 アリス・デザイアはかく語りき

ドロシーは、サラが淹れてくれたハーブティーを飲みながら、これまでの経緯を事細かに説明した。


アリスは身を乗り出し、ドロシーの語る話を静かに聞いていた。


机の上には茶菓子と、ドロシーが持参した紹介状。


そして、虹色のメダルが置かれている。




「なるほど、隠し部屋に謎のモンスター。それに謎の人形に虹色のダンジョンメダルときたか……。実に興味深い。」


アリスは好奇心に瞳をギラギラと輝かせ、膝を叩きながらうんうんとうなづいた。




「それで、あなたなら何か知ってるんじゃないかって、本部の人に言われたんです。」


そこまで言うと、ドロシーはいったんお茶を飲み、乾いたのどを潤した。


「本部の方が連絡をよこしたはずなんですが……。」




「連絡?う~む、そういえば先週、本部の連中から何か電話があったような……?すまん、思い出せん。年を取ると物忘れがひどくてな。」


アリスはポリポリと頭をかくと、ばつが悪げに顔を伏せた。




「アリスさん、どうかこのメダルや、あのモンスターについて知っていることを教えてください。」


ドロシーは深々と頭を下げ、頼み込んだ。




「よしきた。では順を追って説明してやろう。」


アリスはソファーに深々と座ると、遺跡の秘密について意気揚々と語り始めた。




「まず隠し部屋についてだが、これはおそらく、ドワーフの実験施設だと思われる。そこで見つかった人形とやらはドワーフどもの発明品か何かじゃろうな。まぁ、詳しく調べてみんとわからんが……。」


アリスは、卓上の茶菓子を興味深げに見つめるステラを指さしながら、そう告げたのだった。




「さて、次にお主を痛めつけたモンスターについてじゃが、それはおそらく機械妖精スプリガンじゃな。」


「スプリ……ガン?」


聞きなれない単語を耳にし、ドロシーはいぶかしがった。




「うむ。スプリガンとは、ドワーフどもが自分たちの遺跡を守護するために作りだした、自律型戦闘マシーンじゃ。そんじょそこらのモンスターなど比べ物にならんくらい、危険で強壮な魔物じゃ。まぁ、厳密にはスプリガンはモンスターには分類カテゴライズされないんじゃがな。何しろ、魔力を有しておらん故に。」


アリスはそこまで述べると、一口お茶をすすり、口元を潤した。




「……さて、お主が一番気になっとる虹色のダンジョンメダルについてじゃが……。」


アリスは手に持った茶器を、優雅にテーブルに置くと、一泊置いてから話をつづけた。


ドロシーは、ゴクリとつばを飲み込み、緊張した面持ちでアリスの次の言葉を待った。




「……まるでわからん!」


アリスは満面の笑みでそう答えたのだった。


ドロシーは思わずずっこけそうになった。


「ここまでもったいつけといて、それはないでしょう……。」


ドロシーは体勢を立て直すと、呆れた調子で抗議したのだった。




「いやいや、まぁ落ち着け。そう早合点するでない。仮説はあるんじゃよ。」


「仮説?」


ドロシーは訝しげに聞き返す。




「うむ、そのメダルはおそらく、隠しボスの撃破報酬だと思われる。……まぁ、あくまで仮説じゃがな。」


「つまり、確証がないと?」


「うむ……。何しろ、そのメダルは発見例があまりにも少なくてのぉ……。儂も直にお目にかかったのは、これで二度目じゃ。」




アリスの答えに、ドロシーは思わず息をのんだ。


「じゃ、じゃあこれ、とんでもなく価値のあるものなんじゃ……?」


ドロシーは震える指で、卓上のメダルを指し示した。




「じゃから、まだ仮説じゃというとるだろうに、わからん奴じゃのう!」


「す、すいません……。」


アリスの叱責に、ドロシーは思わず畏縮してまった。




「儂に言えるのは、まぁ、ここまでじゃ。……ところでな、話は変わるが、お主に頼みがあるんじゃ。」


「頼み……?何の用ですか?」


ドロシーが不安げに問い返す。




「いや、なに、大したことではない。ちょっと、地下の研究室で、実験に付き合ってほしいだけじゃ。」


「じ、実験……?!」


「そう、実・験・♡」


アリスは、妖艶な笑みでそう微笑むのだった。

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