第13話 ドロシー、ロリババァに出会う

「あのぉー、すいませーん。!」


まるで廃屋の如く荒れ果てた屋敷の玄関先で、ドロシーは立ち往生していた。


いくらベルを鳴らしても、館の住人が誰も出てこないのだ。




「おっかしーなぁ……。ちゃんと時間通りに来たのに……。」


ドロシーはそう愚痴りながら、懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。


時計の針は既に十時を十分ほど回っている。


余裕を持たせて、約束の時間より十分早く到着したが、御覧の通り館からはなんの反応もないままである。




「ほんとにこんなところに人が住んでるロボ?」


ジャケットの胸ポケットからロボ丸がひょっこりと顔を出して尋ねた。


「まるでお化け屋敷みたい。」


ステラもポケットから顔を出し、興味深げに周囲を眺めだした。




「こんなに鳴らしても誰も出てこないなんて……。もしかして、場所間違っちゃった?でも、お屋敷の門には「デザイア亭」ってちゃんと書いてあったし……。」


ドロシーは懐から地図を取り出し、現在地点を確認した。




「場所はここで会ってるんだよね……。」


留守なのだろうか?


もしかしたら約束をすっぽかされたのかもしれない。


日を改めて出直そうかと逡巡していると、唐突にギィィーーッと玄関ドアが開いた。




「はぅっ?!」


急にドアが開いたので、ドロシーは思わず飛び上がりそうになってしまった。


ドロシーが恐る恐るドアのほうを見ると、わずかに開いたドアの隙間から使用人らしき少女が、顔を半分だけ出してこちらを覗いているのだった。




「……どちらさまでしょうか……?」


メイド服の少女が、陰気な調子でそう問いかけた。


「あ、あの、わたし、ドロシー・アプリコットと申します。ギルド本部からの紹介で参りました。」


しどろもどろになりながらも、ドロシーは手短に用件を説明した。




「……はぁ、成程、事情は大体わかりました。しかし、ギルド本部からの連絡などはなかったはずですが……。」


メイドは無表情に小首をかしげた。


「え?で、でも、ギルドの人はちゃんと連絡を入れたって……紹介状だって、ほら!」


ドロシーは懐からギルド本部からの紹介状の入った封筒を取り出すと、メイド少女に手渡した。




「……成程、たしかにこの封蝋はギルド本部の印璽ですね……。いいでしょう。どうぞおあがりください。主人が客間でお待ちです。」


メイドはドアを開き、ドロシーたちを中へと招き入れた。




メイド少女の先導のもと、ドロシーたちは屋敷の廊下を歩みだした。


屋敷の中は昼なお暗く、そして妙に入り組んでいた。


メイドの先導がなければ、あっという間に迷子になってしまうだろう。


廊下の壁には、ドロシーが今まで見たことのない珍獣のはく製が飾られており、それらは燭台の灯りに照らしだされ、廊下に不気味な影を落としているのだった。




(なるほど、こりゃ近所の人からお化け屋敷と言われるわけだわ。)


心の中でそう愚痴ながらも、ドロシーはメイドに付き従い廊下を進んでいく。


玄関から十分近く歩いただろうか?


メイド少女は、一つのドアの前で脚を止めた。




「こちらです。中で主人がお待ちです。さぁ、どうぞ。」


メイド少女はドアを開き、ドロシーたちを室内へと招き入れた。




「はぁ~⊷……。」


ドロシーは室内を見渡し、ため息をついた。


さっきまでのおどろおどろしい内装とはうって変わり、客間の装飾はいたって普通であった。


ごくありふれた、貴族の住まう屋敷にありがちな、そんな感じの装飾だ。




「おぉ、きよったか、お客人。よぉきなすった。こっちじゃ、まぁ、座りなされ。」


ドロシーは声のする方角へと視線を向けた。


部屋の窓際に置かれた、豪華な装飾のテーブルと、大きなソファー。


そのソファーに小柄な少女が座り、こちらに手招きしている。




「はぁ、あ、どうも……。失礼します。」


ドロシーは、向かい側にあるソファーにゆっくりと腰を下ろした。


そして、正面にいる少女の顔を静かに見つめた。




外見は、ドロシーより少しばかり幼く見える。


金髪碧眼で、気品のある美貌。


パッと見は、どこかの貴族の令嬢といった感じだ。


しかし、よくよく見ると、目の下には深いクマができており、目は少し血走っている。(寝不足だろうか?)


そして何より目を引くのが、額から髪をかき分けるように伸びている二本の小さな角だ。


それは、目の前の少女が魔神の血統である証である。




(この人、魔族だ……。)


ドロシーは思わず息をのんだ。


なにしろ、本物の魔族を目にするのは生まれて初めてのことだったからだ。




「くくく……。どうした若造?そんなにまじまじと見つめて?魔族に会うのははじめてか?」


魔族の少女は、口角を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。


「なに、安心せい。別に取って食ったりはせんよ。儂はアリス・デザイア。この館の主じゃ。」




これが、後に盟友となるアリスとドロシーの初めての出会いであった。

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