第10話 誕生!新生ロボ丸!

ドロシーが目覚めたのは、次の日の正午過ぎのことだった。


やや遅めの朝食兼昼食を手軽に済ませた後、ドロシーは作業机に向かい、しばし思案していた。




「う~ん……どうするかなぁ~……。」


机の上に置かれているのは、ロボ丸の上半身と、予備パーツの寄せ集めで作られたロボ丸のスペアボディだ。


ドロシーは、「人形使い」の固有スキル「魂転移」を使って、新しいボディにロボ丸の魂を移す予定だった。


しかし、直前になって、前回の遺跡での戦いが脳裏によぎり、予定を一時中断することとなった。




「ご主人、どうしたロボ?魂を移し替えないロボ?」


ロボ丸がやや不安げな調子でドロシーに問いかける。


「うん、それなんだけどね、ロボ丸。あなたにちょっと相談があるの。」


そういうと、ドロシーは懐から包み紙に包まれたものを取り出すと、それを作業机の上に置いた。


そして、包み紙をはがし、中のものをあらわにする。




「それは……ダンジョンで拾った人形ロボ?」


ドロシーが取り出したものは、転移陣前の宝箱に収められていた謎の人形だった。


「よく聞いて、ロボ丸、これからあんたの魂をこの人形に移そうと思うの。」


「魂を……この人形に?スペアボディじゃなく?」


ドロシーからの唐突な提案に、ロボ丸は思わず聞き返してしまう。




「うん、あのねロボ丸。前回の戦いでわたしたち殺されかけたじゃない?あの初めて見る敵相手に手も足も出なかった……。ステラがいなかったらどうなっていたか……?だから、戦力の増強は必須だと思ったの。」


「だから、ステラと同型のこの人形に魂を移すロボ?」


「そうよ。もちろん、断ってもいい。それならいつも通りスペアの体に魂を移す。戦力増強は別のアプローチで考えるから。選ぶのはあんたよ、ロボ丸。」


「……新しいボディ……。」




ロボ丸は、上半身をよじって、卓上に置かれた人形をまじまじと見た。


背丈はステラより頭一つ分小さいくらい。


赤く長い髪をツインテールに結ってある。


顔立ちは美しいというよりは愛らしいといった感じで、ぷにっとしたあほっぽい顔をしている。


寸動の幼女体系だが、そのくせ、胸のサイズはステラより大きいときている。




ロボ丸はしばし思案した後、ようやく結論を出した。


「わかったロボ。魂をこの人形に移して欲しいロボ。」


「ほんとにそれでいいのね?ロボ丸。」


「またこの前みたいなやつが出てきたら、今のやり方じゃ太刀打ちできないロボ!ロボ丸はもっともっと強くなりたいロボ!」




どうやら、ロボ丸の決意は固いようだ。


「わかった、それじゃあ始めるわね!」


ドロシーは左手にロボ丸を、右手に人形を持つと、一度、深く深呼吸した。


そして、スキルを発動させる。


「いくよ!スキル発動!「魂魄転移」!」




人形使いの固有スキル「魂魄転移」。


人形から、また別の人形へと魂を転移させる。


人形使いのみが使える極めて特殊なスキルだ。




ドロシーは、ロボ丸のボディが修復不能なまでに破壊されるたびに、このスキルを用いてスペアボディへと魂を移し替えていた。




しかし、全く構造の違うボディへの魂の転移はこれが初めてのことである。


果たしてうまくいくかどうか……。




左手に持ったロボ丸の身体が淡い光を帯び、光はドロシーの手の中に吸い込まれる。


この光は、ロボ丸の魂だ。


光はドロシーの体内を経由し、右手から人形へと流し込まれる。


人形は数秒間、光を帯びて蛍のように輝くと、やがてその光も徐々に弱くなり、人形に吸い込まれるように消えていった。




はたして、術式はうまくいっただろうか?


手ごたえは確かにあったのだが……。


しばらくすると、右手に持った人形がビクンビクンと痙攣しはじめた。


そして、うっすらと瞳を開いていく。




「うぅ……。ご主人?」


人形の柔らかな唇から、けだるげな声が漏れる。


「ロボ丸!大丈夫?!どこか異常はない?」


ドロシーは手の平の人形に不安げに声を掛けた。


ステラも不安げな様子でロボ丸を見ている。




「ご主人、ちょっと降ろしてほしいロボ。身体を動かしてみるロボ。」


「ロボ丸、無茶はしないでね?」


「わかってるロボ。」


ステラは慎重にロボ丸の新しい身体を、作業机の上に降ろした。




「おっとっと……。」


ロボ丸は、少しよろめきながらも、二本の脚で自立した。


そして、二、三度屈伸をしたり、腕をぐるぐる回したりして、身体の可動域を確かめる。


そして、軽く体操を行った後、ドロシーのほうへと向き直った。




「どう、どこか痛んだりしない?異常はない?」


ドロシーは心配そうにロボ丸に尋ねた。


「この身体、すごく軽いロボ!前のボディよりよく動くロボ!最高ロボ!」


ロボ丸は満足げな様子で、ドロシーの問いに答えた。


ドロシーとステラは、ほっと胸をなでおろした。




「よかった……。これからもよろしくね!ロボ丸!」


「ステラもロボ丸と一緒にがんばる!」




「まかせるロボ!この新生ロボ丸様にかかれば、どんなクエストも楽勝ロボ!」


ロボ丸は長いツインテールをなびかせ、ドヤ顔でそう答えたのだった。

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