第9話 おうちへようこそ!

三人が転移陣を抜けた先は、ドワーフダンジョンのちょうど入り口あたりだった。


ドロシー一行はそのままダンジョンを抜け、帰路へとついたのだった。




ドロシーが家へとたどり着いたのは、ダンジョンを抜けてから数時間後のことだった。


時はすでに深夜。


とっぷりと日も暮れて、辺りを行きかう人の姿もまばらだ。


ドロシーは、まだアスファルトで補整されていない、石造りの古い街道を抜けて、一軒の古びたアパートまでたどり着いた。




「ステラ、ここがわたしたちのおうちだよ!」


「ここが……おうち……?」


ドロシーの胸に抱かれながら、ステラは困惑の表情でその建物を見上げた。




ステラが困惑するのも無理はないだろう。


なにしろそれは、とんでもないボロアパートだったからだ。




木造二階建てのボロアパート『骸骨荘』。


遠目には廃墟と見まがわんばかりの古びた外観の建築物である。


壁に塗られた白ペンキがあちこち剥がれ落ち、黒ずんだ木目の壁が顔をのぞかせている。


遠目には人間のあばら骨に見えるその異観は、成程、骸骨荘の名にふさわしいものだといえるだろう。


ひとたび嵐に吹かれればすぐにでも倒壊しそうなその異様さは、はっきり言って人が住んでいるかも怪しいものである。




いまだ困惑するステラを尻目に、ドロシーはスタスタと古びた鉄階段を登っていく。


「ここの二階奥がわたしたちの部屋だから。」


ドロシーが階段を一段、一段登るごとに、赤錆の浮き出た階段がぎぃーぎぃーと嫌な音を立てる。


ほんとにこんなところに人が住んでいるのだろうかと、ステラは思った。


しかし、通路に面した窓からは、暖かい光が漏れている。


一応これでも、人はすんでいるようだ。




やがて一行は、通路の奥にある一室んの前で立ち止まった。


「ここがわたしたちの部屋!二〇六号室だよ!」


ドロシーは懐からカギを取り出すと、錆びついた鍵穴に無造作に差し、ガチャガチャと動かす。


「ちょっと待ってね、ここ古いから鍵穴が壊れかけてるのよね……。」




それから更に数秒四苦八苦してから、ようやくドアのカギが開いた。


「よっしゃ!開いた!」


ドロシーは元気よくドアをあけ放つ。




「ようこそステラ!わたしたちのおうちへ!」


「…………。」


ドロシーの部屋、これから自分が生活する新し住処……。


そのあまりの凄惨さに、思わずステラは絶句してしまう。




さほど広くはない室内には、そこかしこに魔導書や技術書が山のように積み重ねられ、今にも倒れそうになっている。


さらに床には、ロボ丸のスペアパーツらしき機械部品や工具が散らかっており、まるでゴミ捨て場のようなありさまである。




しかしドロシーは、そんなステラの心中を察することなく、部屋の中央にあるギリギリ人が寝られるスペースまでいき、布団を敷いて寝転がる。




「今日は疲れたからもう寝ようか。お休みステラ、ロボ丸。」


ドロシーは部屋の電灯を消すと、ぐーすかと寝息を立てて寝てしまった。


ステラはいまだ困惑しながらも、ドロシーの布団の中に潜り込み、一緒に寝ることにした。




これからどんな日常が自分を待っているのだろう?


これから訪れるであろう新しい日々に、期待と不安にむ胸をふくらませながら、ステラは静かに眠りへと落ちていった。


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