第57話 光に包まれた王城
シャーロットの私室に戻った二人はマーティン様が大事に至ってなかったのを確認し、一安心とばかりに休憩に紅茶を頂いていた。
このアルヴァレズ領において紅茶は贅沢品以外の何物でもなかった。
なにせ寒い地域では茶樹が育たないので、輸入せざるを得ないのだからどうしても高くなってしまう。
その、高い理由の一つに道中の安全が確保されなくて、最近まで全く入って来ていなかった。
聞く所によると最近になって何者かによって盗賊団が壊滅されたらしく、それを聞いた王都の商人が我先にとばかり、アルヴァレズ領に押し寄せたらしい。
商人同士の競争によってある程度、値段が下がった事でアルヴァレズ領に紅茶ブームが訪れているという話だ。
とはいえ、距離的な問題で輸送費は馬鹿にならないので、結局高級品というポジションは保たれているのだ。
「無理して紅茶を出さなくてもいいのに、お母様ったら見栄を張って……」
「いえいえ、なかなか美味しいじゃないですか、最近まで殆ど手に入れていなかったというのに、紅茶の淹れ方は王宮のメイド長にも引けを取りませんよ」
「それなのですが、先王様が直々にウチのメイド長に手ほどきをしたそうなのですよ」
「お爺様が……、成程、それは納得ですね。王国一、紅茶の淹れ方に五月蠅い人ですからね」
「それにしても、王都でよく飲んでいた物を実家に帰ってまで飲むことになるとは思いませんでしたわ」
そうなのです、王都に来るまで殆ど飲むことの無かった紅茶は、珍しいのと同時に貴族の嗜みの一つと聞いて、食後やおやつ時に飲む様にしていた。実際に紅茶の良し悪しなんてあまりわからなかったけれど、王宮内で飲んだの物はレベルが違うと認める程に違いが出ていた。
その味と全く同じレベルをこちらで再現しているのだから、寮で飲んでいた物がいかに残念な出来だったかが伺い知れると言った物だ。
そういう意味では「よく飲んでいた」というのは随分と見栄を張った表現となる。
「それで、今日の予定はどうなります?一泊くらいはしていくのですよね?」
「それなのですが、今日中に前線に戻らなくてはいけません、シャーロットはどうされます?」
「そうですね、わたくしも表向きは学業があるので、学園に帰らなくてはならないでしょう」
結局、マーティン様はもう少し養生してから帰ると言っているので、わたくし達は二人で学園に移動して、そこでお別れという感じでしょうか。
次の休息日にはまた会えるそうなので、寂しいといった事はありません。
夫帰りを待つ妻ってすごく夫婦っぽいですよね。
やることやっていれば、完璧な夫婦なのですが焦る事はありません、この先いくらでも機会があるのですからね。
「ところで、今回の帰省に挨拶以外の目的とかありましたか?」
「詳しくは言えないが、一番気になる事は聞く事が出来た。それだけで十分の意義はあったさ」
「まぁ、聞かない事にしますよ。どうせ教えて頂けないでしょう?」
「あははは、さて、そろそろ昼食ですね。昼食後に少し話したら帰りますよ」
「はーい」
さて、心残りと言えば、魔法が使えなくなったという話。
改めて覚え直せば扱えるようになるかと思ったのですが、それも無理みたいでした。
魔法が使えなくなったのも、実のところかなりショックだった。
幼少の頃から絵本替わりに魔法の書物を眺めるのが好きで、気づけば魔法の根を自分に植え付けた。
これは物理的な話ではなく、魔法法則を脳に焼き付けると言った行為を指している。
本来であれば、ただ覚えるだけでは魔法は扱えず、根源を理解した上で儀式を行い魔法陣を脳に定着させる必要がある。
そして潜在魔力量と比例して植え付けれる魔法の根の本数が決まる。
本来であれば、成人で一、二本、熟練者であれば孫が出来るくらいになって十本くらい覚えるのが普通のペースらしいが、わたくしは五歳の時点で既に十本を達成していたのだから、これが自信の源になっていた。
ちなみに、魔法陣を呪文で呼び出して魔法を行使する事になるのだが、呪文自体に少し遊びがあって威力や対象といった物を調整が出来る。
噂によれば、覚えた魔法陣は目に薄っすらと顕現するらしいのですが、余程の強い魔法でないと出ないらしく、九年前に大魔法を使った時はクッキリと現れていたそうです。
それもこれも、昔の話となりました。
過去の栄光に縋るのも良く無いですから、この際キッパリと諦めましょう。
この帰省は、その区切りをつけるのに丁度良かったのかもしれませんね。
◇
昼食を皆と一緒に楽しみ、またもや紅茶を頂きながら王都の話をして、
家族との挨拶も程々に、リアンに乗って移動を始めた。
本当なら、わたくしが管理していた街をお見せしたかったのですが、それもまた今度という事に。
大変なお仕事を抱えた旦那様は、お仕事が大事ですからね。
理解ある妻としてはそのあたり、不満を持ったり述べる事は無いのです。
そこそこの時間はかかりましたが、陽の星がまだ高い内に王都が近くなってきました。
旦那様はここから、前線の砦まで行かなくてはいけないのですから、時間の余裕は大事なのです。
そして、それは王城がはっきりと見えるくらいになった時に起こりました。
「見てください、もう王城が見えてきましたよ」
「はいっ、早く着いたのはリアンが頑張ってくれたからですね、ありがとう、リアン」
「クェエエァ」
そのリアンの返事が聞き取り終わる前に、突然、王城が眩しい光に包まれた。
「何事だ!?」
「眩しっ」
二人は状況が理解できず、何の光かを確認しようとしたが遅れて届いた音が二人を襲った。
耳が痛くなる程の音が爆発音であるのは間違いなさそうだった。
わたくし達は耳を塞げばどうにか耐えれましたが、リアンはそうもいかず気を失って急降下となった。
ちびっこ公爵令嬢の恋愛事情 なのの @nanananonanono
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