第55話 お見舞い
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
妹の平謝りを始めて見ました。
悪ふざけなのはなんとなく察してはいたけど、神経毒はやりすぎだと思うのです。
罰を与えないというのは少々甘いかもしれないですが、可愛い妹のする事ですし今回は許してあげようかと思います。
「どうして、あんなことをしたのですか?」
わたくしの問に少し照れたような仕草を取り、少しの間の後答えが返ってくる。
「だって、お姉様がマーティンみたいに決意の弱い男に誑かされているかもと思って~、もし私に靡いたら殴り倒して踏みつけてる所でしたよ~」
王子を殴り倒すって、処刑されてもおかしく無いのですが…。
「では、私は合格だったという事で良いのかな?」
「し、仕方がありません、ギリギリ合格としてあげますよ~」
「フローレンス?」
「ひぃっ!」
妹はわたくしが本気で怒った時の事を知っているので、恐怖が体に刻み込まれている。それを思い出したのでしょうね、でもその度に許しているから躾にはなっていないのです。
身長を追い抜かれてからもそれは有効なのは、長年の教育?の賜物でしょう。
そして妹に認められた事が嬉しいのか、あまりにも甘ったるい微笑みでわたくしを見つめるアデルバート。
眩暈がする程に意識が何処かに旅立ってしまいそうですが、妹の前でそんな事をはできませんから、気力で踏みとどまって微笑み返すのが精一杯で、微笑みは何かぎこちない物になってしまったかもしれません。
「それにしても、これがシャーロットの部屋なのですね」
「あまりジロジロ見ないでくださいますか。少し恥ずかしいです」
そりゃあそうだ。
だって、私物や服の大半は収納スキルに収めているし、領地の為に節約を心がけていたので、装飾品はたいして多くはない。
一般的な公爵令嬢であれば、もっと煌びやかになっている事を考えれば残念がられても仕方がないのだ。
それにアルヴァレズ領に居る間の主な活動はわたくしに与えられた街だったので、この部屋はたいして使っていないとも言える。
だから、あまり見ないでくださいね?
「ところで、マーティン様の名前を口にしていましたね?」
「あ、そうですそうです、客室で安静していますよ。お会いになってあげてくださいね~」
そんな訳でお見舞いに向かいました。
話によるとマーティン様が
その時は命綱もなく、グリフォンがバランスを保って乗せていたとしか言いようが無かったらしい。
屋敷に到着直後に一瞬だけ意識を取り戻したら用件だけ伝えてまた気絶したという。
その後、意識を取り戻したマーティン様の証言によると、王都を出発して暫くはどうにか耐えていたが、速さのあまり意識が低下、体から力が抜けるのを感じたと同時にグリフォンから落下したらしい。
状況から考えて、それに気づいたグリフォンが救出したのだろう、なんとも律儀なグリフォンです。
コンコン
ノックと共に「はいりますよ~」と妹が声を客室に入ると、満面の笑みで名前を呼ぶマーティン様がベッドから上体を起こしています。
「フローレンスっ、今日も美し……シャーロット様!?」
「その節は助かりました、ありがとうございます」
その節ってなんだったっけって思うくらい色々ありましたが、マーティン様は先王様とお爺様を呼びに言ってくれたのです。
結果、ルーカス様にギャフンと言わせれたので、お礼をしてもしきれないくらいですね。
「勿体なきお言葉、ところで隣の方は?」
「私は、アデルバート・ベリサリオ、ルーカスの兄だ」
「という事は、第一王子!?どうしてこちらに!?」
「それはシャーロットと結婚した事の報告にだな」
「結婚!?結婚って、結婚ですよね?ルーカス様とは?婚約の期間もなしにですか?何がどうなってるのですか」
「話せば長いような短いような話ですが……」
前線の事や九年前の事を主体に説明するのは良かったのですが、ある意味これは出会いの話というか、もはやのろけ話にしかなっておらず、話を聞いている内にどんどん恥ずかしくなってきました。
それに対してマーティン様の表情は、落ち着きと同時に表情に陰りが見えて来た。
マーティン様が「少し一人にして欲しいと」いうのでので体調が悪化したのかと思い、部屋を退出しました。
もしかして、惚気に当てられたのでしょうか。
◇
数時間後、マーティン・ジェンキンス公爵視点──
あああ、結婚とか早すぎるだろぉ………。
上位貴族であれば学園の卒業と共に結婚するのが一般的だ。
だから、ゆっくり口説いていけばいいと思っていた。
相手がルーカス様であれば、尚更急ぐ必要は無いと思えたのもその要因だ。
そこで第一王子が出てくるなんて、完全に不意打ちすぎる。
確かに結婚に年齢制限はないけど、だからって婚約期間も無しに結婚するかぁ?
結果、シャーロット様が私以外の物となってしまった。
半裸になっていた彼女のを抱きしめていた時、もっと押していれば良かったのだろうかと後悔していた。
いや、あの時に既成事実を作っていれば、ルーカス様と対峙した時にもっと状況が悪くなっていた事だろう。
そうだ、あの時にはあの選択肢しかなかった。だとすれば、結局のところ、縁が無かったという事だろうか。
そして、このアルヴァレズ領に着いてすぐにフローレンスと出会い、少し、いや、かなり惹かれていたのは否定できない。
これは、妹君に惹かれ心が揺れた私に対する罰なのだろうか。
「マーティン、はいるよ~」
「フローレンス……、私はどうしたら良いのだろうか」
「どうって何が~?」
「その、シャーロット様達を素直に祝福できないのだ」
「はぁ、好きだからですか?」
「どうしてそれを!?」
「まぁ、貴方はわかりやすいですからね~。どうです?お姉様を諦めて私に鞍替えしちゃうのは~……」
「………それも、いいかもしれな──」
口に指を当てられ、言葉を遮る。
それと同時に彼女は口角を上げた。
「冗談ですよ~。真に受けないでください。ただ、私はお姉様の代用品ではないのですからねぇ~」
確かにそれはその通りだと思った。
容姿だけで言えば、シャーロット様が成長した姿である彼女は、今の私の理想像である。
だが、その想いはシャーロット様に向けていた物であって、その代わりに彼女を好きになるのはどうにも勝手な話だ。
「失礼した。どうか許してほしい」
「あー、うん、いいよいいよ。私なんて、お姉様程出来が良く無いからね~」
そういう事か。
シャーロット様は幼い頃から魔法が使えただけで、親の自慢になった事だろう。
さらには戦果も挙げただけでなく、結果的に王子との婚約も組まれた事を考えれば、比較されれば辛いに決まっている。
あの姉なら妹も、なんて言われて期待されたに違い無い。
そんな大人の身勝手な期待を幼き頃から背負わされたなんて、性格が歪んでも仕方がない事だが、彼女はそんな悪い性格とは思えなかったのだ。
そんな彼女に言い寄って来た相手がシャーロット様を好きだった何て事は耐えがたいに違いない。
「お詫びに何かして欲しい事はないだろうか、私にできる事であれば何でもすると誓おう」
「えー、なんでも?」
「ああ、何かないだろうか?」
「じゃあねぇ……──」
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