第53話 アメリアの愚痴

「どういった理由でアデルバート様と別れなくてはいけないのでしょうか」


 アメリアさんは悪びれる様子もなく、冷静で落ち着いて表情で別れを勧めてきた。

 いや、本当に追い出すつもりならこんな直接的な手段を取りますか?

 もっと蔭から苛めて、精神的に追い詰めてからでないと、はいそうですかといって別れないでしょう?


「貴女が王都に来てからですよ、アデルバート様が妙に落ち着きを無くして腑抜けになったというか子煩悩になったというかですね、何かにつけて貴女の事を第一優先に考えて本来の業務以外にも色々と押し付けてくる始末、あのドレスだって採寸情報を持って来て何着か揃えろって命令で用意したんですよ。三着用意したら、全然足りないとか言うのです。あり得ないでしょう?きっとこのままでは軍務に支障をきたしてしまいます。今じゃ、お前は初孫を得たジジィか!って感じですよ。貴女から何かビシっと言ってやってくれませんか、それが出来なきゃ別れてください」

「初孫………、ぷっ………」

「何を笑っているのですか、これは真剣な話ですよ」


 初孫が出来たジジィってっっ、だめー、思い出すと可笑しくてお腹がよじれる。

 確かにあのドレスの用意は尋常じゃない物を感じていましたし、なにか普通じゃないと感じる事もありました。

 とはいえ、そこに意見をする気はなく、それはそれでお仕事はしっかりとして頂かないといけませんね。

 それにしてもアメリアさんは早口で、少し圧倒されてしまっています。


「分かりました、仕事優先にさせればいいのですね」

「ああ、いえ、公私の区別をつけてやることさえやって頂ければって話です、そもそも前線にいない時の仕事を全部私に押し付けるのと、何かにつけて雑用の押し付けくるのと女の子が喜びそうな物を何度も何度も何度も何度も聞いて来るのがもうイラっと来るのよ、いやぁもうそんなのキスの一つでもして上げれば大喜びでしょうって言って上げたんですけどね、そうじゃなくて彼女の方からキスをしたくなるほど嬉しいプレゼントが良いんだって言うのですよ、そんなの知らんがな!って感じです。って聞いています!?」

「なんだかんだと、アデルバート様の事が好きなんですね」


 実際、こんな大変そうでもアデルバート様の部下でいるのですから、好きじゃないとやってられないでしょう。

 ですが、凄く嫌な顔をされてしまいました。


「うわぁ、やめてください、あんな男は願い下げですよ。いえ、シャーロット様にすればいい人なのでしょうが、それ以外の人からすれば、側に居るだけで辛いですね。部下に女性が私だけというのもあるのでしょうけど、隙あらば女の子について聞き出そうとするんですよ。女の子が寝る時の恰好についてねちっこく聞いて来るときは殴ろうかと思いましたね。裸で寝る物ですよって答えてやろうかと思ったくらいです。でも、そんな事言ったらきっと、『シャーロット姫だけはそんな事はない!きっと可愛いネグリジェを着ているに違いない』というに決まっています、そんな理想を押し付けてくるんですよ。じゃあ聞くなよって感じでしょう?でも本人には絶対言えないタイプですね、そう言う所は腰抜けなんですよ、シャーロット様が凄くダサいドレスを着ていてもベタ褒めすると思いますよ」

「分かりました、辛かったのですね、アメリアさんに私について相談しないように言っておきます」

「本当ですか!?いやぁ、それだけでも助かります。あれほど意味のない時間はないですからね、結論ありきの相談とかもうお前は女子か!って言いたくなりますよ。それほどに大事にしているという事なのでしょうけど、腑抜けられても困ります、私が言える事はそれくらいですね」

「本当に苦労が絶えなかったのですね、所でドレスは何処で作って頂いたのですか」

「ああ、あれですか、あれはたまたま帰省していた妹に作らせました。どうですか?気に入って頂けましたか?仕事の合間に作ったと言ってたのですが、シャーロット様が着て頂ければ宣伝になって良いかもしれないですね。デザインは全てオリジナル作品でという指定だったので、随分苦労していたようでした。まぁ喜んでもらえているなら妹も頑張った甲斐があるというものですね」

「もし宜しければ、妹さんを紹介して頂けないですか?」


 ◇


 妹さんの紹介は機会があれば、その内という事になった。

 ただ、場所が問題でベリサリオ王国とハフネット共和国の間にある中立都市グリスグアランドにいるというのですぐには会えないだろうという。グリスグアランドは港町で複数の航路を使って国と交易している。その為、この街を軍事的に利用または侵略する事は交易国全てを敵に回す事と同義となる為、独立性が保たれている。聞くところによると、建物は全て真っ白でリゾート地としても有名らしく、王国の様に堅苦しい衣服のルールはない為、足を出すのも自由だし、海では下着姿同様の姿で泳ぐらしい。常々、機能性を重視して常識を疎かにするわたくしでも、流石に下着はナイですよね。


 ちなみに、アメリアさんの説明によるとベリサリオ王国とハフネット共和国の国境は長く広い。大半が通行不可区域となっていて抗争の地となるエリアを王国側では五つの領地に分割し、それぞれに建設された砦に集約されているが、これは兵力を分散する事になり、王国にとっての悩みの種となっていた。

 五つの砦とグリスグアランドとの間には大きな通行不可区域という森が存在しているお陰で、グリスグアランドでは戦争とは縁遠い平和な地となっている。その通行不可区域がなぜ通行不能なのかについてはオカルトの域になるが、上空を飛行すると何等かの力によって地上に引きずり込まれるとか、無理に通り抜けようとして、霧に阻まれ元の場所に戻っていたとか噂は絶えない。一説によると最古の魔女が住んでいるとか、エンシェントドラゴンがいるとか、魔王が隠居しているとか、ジエータイと言う謎の武力集団が占拠しているとまで言われ、入った者の殆どは出てこれないとされている。


 もちろん行く気はありませんよ。

 オカルトは専門外なのです。

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