第51話 二つの問題
「なんでも言ってください、覚悟はできていますから」
「え?覚悟?えっと、一つ目なのですが」
かなり残念な雰囲気をアピールして
一つ目は、何とも拍子抜けた話で問題という物でもなかった、それは王妃様との面会が叶わないという話だ。
王妃様とは義母になるわけですから、やはり挨拶の一つくらいしておきたいと思うのが当たり前だと思うのです。
ですが、残念な事に体調がすぐれないので暫くは会えないそうです。
というのは表向きで、王妃様は何故か怯えているらしく、わたくしに会ったら殺されるとしきりに訴えているとか。
なんだか、失礼な事を言われている気がしますが、そのうち分かって頂ければそれで良いのです。
それで二つ目というのは、軍務でまたもや前線に行かなくてはいけなくなったそうです。
要はまた攻めてくる前兆があったそうです。
ですが、想定していた物では無くて胸をなでおろしました。
既に子どもが居るんですとか言われる事と比べると、前線に行かれる事は特に問題ないと思いました。
「そうなのですか、安心しました」
「え?あの、嫌じゃないのですか?結婚したばかりで離れ離れになるのですよ?」
「離れたいのですか?」
「私は離れたくありませんよっ」
「でしたら別に問題はないと思いますが?」
うん?何を言っているのでしょうか?
離れ離れになりたくないのであれば、離れ離れにならなきゃいいのですよ。
まさか、前線に好きな人が居るとかで離れたいなんて思っていないですよね?
「あの、本当に申し訳ないと思っているのですよ。ですが、前線には行かなければならないのです、そこは分かって頂けますか?離れ離れになりたくなくて行って欲しくないというのは分かりますが」
「いえ、行って欲しくないなんて思っていませんよ?」
「では、やはり離れ離れになるのを望んでいるのですか」
「ですから、離れ離れになる必要は無いと言っているのですよ」
「まさか……」
「はい、わたくしも前線についていきますわ」
深いため息と共に、頭を抱え始めたアデルバート様は、絞り出すような声を出した。
「その、前線には連れていけないのですよ、貴女は軍属ではないですからね」
「もう既に何度か前線で加勢しましたよ?ルーカス様も成果を上げろと言って、前線での戦果を期待していましたし、その時、陛下も居られましたよ?」
「いえ、それは、その時の彼らがおかしかっただけで、軍規的には駄目なんですよ、それに前線の兵士は全員が男なんですよ。飢えた野獣なんです、そいつらがどんな目で見るのか考えただけで……」
「ですが、前線で対応して頂いた方は皆さん丁寧でしたよ?」
と、論破できたと思ったのですが、結果的に前線への同行は拒否された。
最後は『お願いだから来ないでください』とまで言われて渋々承諾するしかないですよね。
その代りに、毎週の休息日には帰ってきてくれると約束して頂きました。
敵国が休息日を意識して頂けるなら良いのですが、そんな都合の良い敵はいないと思うのです、そして帰って来ない場合はリアンと共に前線に乗り込んでしまおうとまで考えました。驚かせてしまうでしょうか?それはそれで今から楽しみです。
「あの、なにか変な事を考えていませんか?」
「ぜ、全然なにも全然全く全然考えていません。ええ、考えていませんよ」
それでも明日までは一緒に居れるという事なので、一安心です。
今すぐ行かなくてはならないとか言われると、悲しいですからね。
というか、ほら、今夜はアレですから、一緒に居たいと思うのは当然ですよね?
ですが、そうなると行方不明の二人の事を言うのは憚られます。
少なくともサイラス様の方は対応できないでしょう。
仕方がない事ですよね。
「その、シャーロット姫も何か問題を抱えていますか?」
んっと……。
どうでしょう。
言ってしまいましょうか。
「実は、問題があります」
「そうですか、それはどのような?」
「二つの問題がありまして……」
「言ってみてください」
一つ目は行方不明者の話。
わたくしが原因の一端になっている可能性が高いという事を強調して心配だとお伝えしました。
サイラス様は手下の者に捜索をさせるという事になり、ジェームズ君は前線で探していただく事になった。
二つ目は──。
「それで、二つ目は?」
「えっと、また今度で。もうちょっと整理がついたら相談しますね」
あぶないあぶない、結婚当日に絶望のどん底に落とす所でした。
いや、案外すんなりと受け入れられるかもしれないですが、わたくし自身が受け入れられていないのだから、先に受け入れられると困るのですよ。たぶん。
「私には相談できないのですか……」
シュンっとしてうな垂れ、落ち込まれてしまいました。なんというか分かりやすい。
いえ、ちょっとまってください、これは捨てられた子犬を見ている様な感じがして心が痛みます。ああ、そう考えだすと、何やら犬耳やら尻尾が見えてきました。
それに、これはこれで可愛いくて頭を撫でて上げたくなりますが、撫でてしまうと嫌がられないでしょうか。
そう思いつつも手を伸ばして、そっと頭を撫でる。
男性を可愛らしいと思っても良いのでしょうか。
特に抵抗される事なくされるがまま、いえ、少し恥ずかしいのか耳が赤くなっている様です。
どうしましょう。
凄く抱きしめて上げたくなる。
それはそれで失礼なのかもしれないですが、まぁ夫婦になったのだから許されますよね。
頭を胸元に誘導すると、それはもう従順といいましょうか、素直に従って頂けました。そのまま抱きしめて頭を撫でていると、なんだか猛獣を手名付けた様な感覚に陥る。
これは支配欲とでも言うのでしょうか。そういった類のものが満たされる感覚。
何だか気に入りました。とってもいいですね、これ。
「そんなに落ち込まないでください、わたくしも分からない事だらけで説明できなくて困っている所なのですから」
「それは、あの翼と関係があるのですか?」
「そうですね、かなり」
その説明で落ち込むのはやめたのか、今度は姿勢が辛いと言い出してきた。
まぁそうですよね、身長差もある事ですし、それは当たり前でしょう。実際変な姿勢になっているし。
「じゃあ、どのような姿勢がいいのですか」
抱きしめていた頭を解放すると、そのまま押し倒され、目と目が合う位置に。
って、もうこれ、しちゃう流れじゃないのではないでしょうか。
昼から大胆ですね。とはいえ、緊張もしますし鼓動も早くなりますが、抵抗なんてウブな事はしません。
その時、コンコンっと部屋にノックの音が響き渡る。
明らかに不機嫌になりつつ、来訪者に返事もせずに顔を近づけてくる。
と、とりあえずキスなのですね。
訪問者には申し訳ないですが、出直してきてもらいましょう。
そんな事を考えつつ、目を瞑って受け入れできる事をアピールする。
コンコンコンコンコンっとしつこくノックの音がする。
ギリッと歯ぎしりした音が聞こえた。
これはもうかなり苛立っていますね。
ドンドンドンドン!
最早ノックの音ではなくなっていた。
「すまない、続きは後で」
「はい」
わたくしが少し乱れた衣服を整えたのを確認すると、声を張り上げて怒鳴る。
「誰だ!?さっさと入って来い!」
その言葉に従って入って来たのは綺麗な青いショートヘアでスラっとした体形に男物の軍服を着こなして出る事が出ているお姉さんだった。
綺麗という感じとカッコイイ感じが同居した感じの人で、話を聞いていると、彼女はアデルバート様の直属の部下で後方支援や事務関係を担当しているらしい。
彼女が言うには前線から一時帰還した部下がトラブルを起こしたとかで、一度アデルバート様に来ていただきたいという用事だった。
それに対して、仕方なく行く事にした様でした。「少し待っていてください」と言い残し出て行ったが、彼女だけが残った。
彼女はアメリアと名乗り、結婚の事も知っている様だった。
だが、その彼女からの一言は、あまりにも受け入れがたい話だった。
「率直に申し上げますが、アデルバート様と別れて頂けないでしょうか」
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