第50話 手を繋いでわかる事

 手を繋ぐという行為事態は全然構わないし、むしろ喜んでと言いたい所ですが、既に結婚している訳ですし、キスもしています。前からも後ろからも抱き着いたりもしたというのに、今更、手を繋ぐのに確認をしますか?

 それがどういう事かというと、説明を求めたい所ですが、それも無粋ですよね。

 好きなだけ繋げばいいのです。


 しおらしく返事したのと同時に、右手を差し出した。

 もしかすると両手が良かった?それとも左手?なんて悩みつつだったので、ちょっとおっかなびっくりになってしまう。

 アデルバート様は左手を差し出して、手をがっしりつないだかと思うと、すぐに緩めて指を絡めたつなぎ方に変えた。

 二人の立ち位置が若干離れているので、手のひらを合わせたような恰好になる。

 その手の握り方には何か試行しているのか確認しているといった感じがした。

 そしてアデルバート様からは何かが嬉しいといった感情が表に出しているような感じがしたが、手を繋いだだけで嬉しいってどういう事?表情に出す程の感情というのにいまいちピンときていない。

 ただ、疑問符が頭上に泳いでいたが、それと同時に大きな手を実感していた。


「やはりと言うべきですか、私の相手は貴女しかいないようです」


 それはどういう意味か確認すると、嬉々として説明すると言い出す。

 初めて会った時も手を繋いだのを覚えているでしょうかと問われ正直に答えた。

 勿論覚えている。あの時の一挙一動、全部脳内で再生できるくらいに覚えている。

 脳内にある物を出力して何時でも映像で見れるように魔道具を開発したがどうにも上手くできなくて随分苦労したのを覚えているし、その成果は結局無かったものの、副産物として映像や音声を録画する魔道具とそれを再生する魔道具を開発できたとかどうでもいい話を思い出す。


 それで、そのあの時に手を繋いだ時にドキドキしたのがどうしてなのかが知りたかったという話で、王都に帰ってから年齢の近い子の手を握っては、コレジャナイと残念がったとか。

 婚約させられそうになった時も対面で会う事を前提とし、手を繋いでみてはやはりコレジャナイと言って断る事を繰り返したらしい。なんだか相手の方が可哀想になってくる話ですね。

 そして、今はあの頃のドキドキが再来したのだから、運命の人なのだという事が立証されたと言う。なんだか初恋補正なだけの気がしますが、黙っておきます。

 わたくしなんて、手を繋がなくてもずっとドキドキしっぱなしですけどね。

 まぁ、そういう訳で結果的に結婚できて良かったと、満面の笑みで言ってくるわけですよ。

 もう、背景に薔薇をちりばめ、キラキラした照明も付けた演出は過剰で直視できません。※シャーロットの補正付きビジョンです。


 勿論、わたくしもドキドキしていると伝えると、余程嬉しかったのか、抱き着いてくるくると回り始めた。

 わきの下に手を入れ、高い高ーい、といった具合でくるくる回る。

 別の意味で、ドキドキが止まらなくなるからーと言って、止めてもらった。

 この部屋が広いからできるだけで、普通の部屋なら色々な所に足をぶつけている所でした。


 ちょっと座って落ち着きましょうと言うと、アデルバート様が誘導した先はベッドだった。

 ベッドに腰を掛けた二人、肩が密着するほどの近い位置に座ると、別の意味でさらにドキドキが止まらなくなる。

 もしかして今からしちゃうのですか?いえ、心の準備は出来ています、出来ていますが、出来ていません。

 ああああ、何を考えているのでしょうか。

 もう、顔が熱くなりすぎて茹でられている気分です。

 動揺が止まらないのです。どうしたらいいのでしょう。


「その、最初に言うべきでした。綺麗です。ドレスも良く似合っていると思います。少し薄い赤は瞳の色と相まって貴女に一番似合うと思っていたのです」


 止めを刺された。

 もう、これでもかってくらい心臓に悪いセリフです。

 こんなドキドキしすぎてまともな夫婦になれるのかとか、心臓が破裂するんじゃないかって思ってしまう。

 照れながらも丁寧にお礼を言うと、満足気な表情になる。

 色々して貰っているのに、何も返せない。それが負い目にならないように何かを返したいと思った。

 でも何を返せばいいのか分からない。


「アデルバート様は、わたくしに何かして欲しい事はございませんか?」


 ああああ、馬鹿正直に聞きすぎた!

 こういうのはさりげなく遠回しに聞いて、サプライズするのがいいのにね。

 本当にあり得ないくらい、今日は思考とセリフがかみ合っていない。

 実は真性のコミュ障とかだったりするのでしょうか。


「私だけを見てて頂ければ、それだけが望みです」

「それは、勿論です!その、アデルバート様も私だけを見てて頂けますか?」

「ええ、勿論です」


 この確認だけで、なんだか幸せが溢れ来ました。

 ただ嬉しかった。好きな人が自分だけを見てくれる事が何よりも幸福なのだと思えた。


 そんな状況で突然、アデルバート様は何か言いづらそうな事があるような表情をする。

 何かを思い出してしまったかのでしょうか?

 口と行動は別で、実は側室が既にいますとか言い出すのかと少し怖くなった。


 あれ?そういえば、ドラゴスはわたくしの事を人外だと言っていました。

 そうだとして、わたくしは普通に人間の子どもを産めるのでしょうか?

 あれれ?もしかするとかなりヤバイのでは?

 子どもが産めないのであれば、世継ぎが作れないという事で側室が必須になる。


 第二第三王子がこんな現状で世継ぎが出来ないのは王族として衰退を意味し、当然、反乱の引き金になる。

 というかこの部屋に入って来てからというもの、ドラゴスが全く反応しなくなった。そのあたり詳しく教えて欲しかったのに、良い所で役に立たないのだから、悪霊の類なのかもしれない。

 というか実際のところ、ドラゴスの言う事を鵜呑みにしているかと言うとそうでもなく、半信半疑といった所だった。

 突然、ドラゴンの因子がとか天使の因子がとか言われて、へぇそうなんだぁ、という訳にはならなかった。

 寿命が馬鹿みたいに伸びたと言われても、来年には身長がちょこっと伸びるかもしれない。

 問題の先送りや試行放棄とかではなく、もしかするとドラゴスの存在自体が自分の妄想なのではないかとか疑い始めている。

 四千年前がどうこう言われたせいで、現実感が喪失してしまったのだ。

 もしかすると、異世界出身の方が言っていたチュウニビョウという病かもしれない。ほら、反論しないとこの考えで確定しちゃいますよ?


 そんな答えの出ない思案をしていると、アデルバート様が重い口を開いた。


「実は、謝らなければいけない事がありまして…」

「何でしょうか…」

「二つの問題がありまして…」


 って、二つもおおおお?

 やっぱり側室が既にいるんだ。

 その上、子どももいるとかですか?そうなのですか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る