第47話 マッサージの刺激

 湯あみを担当したのはモニカとペイジの二人で、首から上がペイジ、それ以外がモニカといった具合に担当を分担した。

 ペイジは慣れた仕事なのか髪を洗ってもらった時は気持ち良かったが、モニカの手つきはどうにもくすぐったく、その事で笑ってしまった為に少し落ち込ませてしまった。


「すみません、すみません、すみません」


 落ち込みながらそんな風に言われると、罪悪感が湧いて来る。

 それにしても無口だと言ってもちゃんと悪いと思えば謝る所は良い所だと思う。

 実際、この子が悪いわけではなく謝るのはこちらの方なのだし、小さい子が落ち込むところは見る耐えなくて「モニカは上手だと思います、ただ、わたくしが他人から洗われ慣れて無いので、くすぐったく感じてしまいました、これから慣れていくので続けてもらえるかしら」と言った。

 その後は、くすぐったいのに笑のを我慢しながら洗われた。


 それにしてもモニカは本当は何歳なのだろう。

 十歳になるエリンと背丈も同じくらいで、それでいて、最早ブラを付ける程に成長した胸はもしや同い年かと思う程だ。

 だが、落ち込む所を見ていると十歳かそれ以上に幼くも見える。

 それに対して、こちらは膨らんでいるのか分からないような胸で、十四歳というのを考えると何か世の中の理不尽さを感じた。


 というか、既に結婚したのだから、キス以上の行為もするかもしれない。

 もしかすると今夜にでもそれが訪れる可能性があるというものだ、何せ初夜なのだから。

 そして裸を見られた時、どう反応されるかと考えると、不安が一気に増幅した。

 せめてモニカやエリンの胸のサイズは欲しかった。


 頑張って仕事をして評価を挽回しようとするモニカと反して、私の気持ちは徐々に落ち込んでいく。

 裸を見た瞬間に、見捨てられたらどうしようかとか、離婚だとか言われたらと嫌な方向にばかり思考が進んでいく。

 でも、こればかりは隠す訳にも行かないし、この湯あみもそういう行為の前段階なのだと考えると、もう逃げ道はない。

 せめて、夜になって灯を消してもらって……。

 その場合、暗闇の中闇雲にさわられた挙句「胸はどこだ」なんて言われたら立ち直れない。

 こうなったら諦めの境地に立ち、全部見せた上で改めて本当に結婚でいいか問いただすしかないという結論に至る。

 ただ、実際に全て曝け出して言える程度胸があるのかというと、少し自信がない。


 あと、現段階からの成長も絶望的だという事は伝えなくてはいけない。

 夫婦間で秘密を持ち続けているのも限界があるし、隠し事をしたくないという気持ちが強い。

 だが、受け入れてくれるだろうかという問題は絶望的な不安を加速させた。

 そんな心中を察してかモニカが心配そうにしている。


「シャーロット様、大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫、大丈夫ですわ」


 空元気に近い物があるけど、それをモニカに察せられたのは落ち度だ。

 気分転換に何か話題を選んでいる内に湯あみは終り、マッサージの時間となった。

 ミリーが指を奇妙な動きをみせて、俯せになったわたくしの肩や背中や手足をを揉みほぐす。

 オイルを使ったマッサージは気持ちがよく、思わず声を上げてしまいそうになる。


「シャーロット様は肌がきめ細かくて綺麗ですよね。普段も何か使われています?」

「アルヴァレズ領産の日焼け止めのクリームなら使っていますよ、年中通して塗っていますね」

「そうなのですね、後で一度見せてもらっていいですか」


 興味を持ったのなら、販促用に幾つか渡そうと思った。

 もしかすると、マッサージ仲間の繋がりで王宮内で広がるかもしれない。

 流通はエレノアさんに言えば良い事だし、営業の協力をするのも悪くない。


「あれ?背中に変なシコリがありますね」

「え?」

「ちょっと強めに揉みますね、痛かったら言ってください」

「ちょっと、ひゃあっ!」


 全身に電流が走るような感覚が襲った。

 咄嗟に逃げようとするがミリーに押さえつけられ動けない。


 まさか魔法を使った!?

 こんなあからさまに?


 電撃系魔法は上位系にあたるので、無詠唱での難易度は攻撃系魔法の中では群を抜いている。

 それを無詠唱でなんて、ミリー、恐ろしい娘!

 押さえつけられてる状態でじたばたと抵抗する。

 全裸の上、背中を取られた以上、これ以上に無防備な状態はない。

 さらに悪い事に身を守る魔道具も全て外してしまっている。


「シャーロット様、暴れないでください、痛い場所は避けますから」

「魔法か何かで攻撃したじゃない!全身にビリっときたんだからっ」


 わたくしの発言を聞いて、全員が目を点にした。


「ぷっ、あははは」


 ジェスが笑い出し、それにつられて他の三人も笑い出す。

 わたくしだけが状況が分からず困惑していると、ジェスが笑い切った感じに、呼吸を整えては話しだした。


「ミリーは魔力がないので、魔法は使えないのですよ。ですからその感覚はもしかすると…」

「もしかすると?」

「恐らく……いえ、これは旦那様に聞いた方が良いかもしれないですね」


 訳が分からないよ。

 攻撃じゃないのにあれほどの衝撃が、一般的な事だとすれば心臓がいくつあっても足りない。

 旦那様……アデルバート様に相談するのは良いとして、変な病気だったらどうしようかと考えてしまう。


「まさか、死ぬような病ではないですよね……?」

「ええ、きっと大丈夫です。夫婦の営みをしている内にこういうのが多く見つかるかもしれませんよ」


 未だに心臓の鼓動が早まったままでいる。

 夫婦にこういう刺激を必要とするとでも言うのだろうか、だとするとその事に少し懐疑心が生まれる。

 流石にこんな子ども騙しの嘘に騙されるわたくしではありません。

 アデルバート様に聞いて、はっきりとさせましょう。


 言葉を濁すジェスにすこしもやっとした物を感じていると、ペイジがこっそり耳打ちしてくれた。

 ジェスが言いたいのは恐らく背中のシコリは性感帯になっているのかもしれないという事で、優しく触られれば気持ちのいい刺激に代わるかもしれないという可能性と、単なる酷い肩こりの延長でそのあたりの筋肉が固まっているという可能性もあると補足される。


 その時にふと思い出したのは、回復魔法を使った時の翼の事だ。

 あの翼が実際に生えようとしているのではないかと想像してしまった。

 ドラゴスが言っていた『人のそれから外れる』という言葉が因子だけの話に留まらず、見た目から変化してしまうのではないかという恐ろしさを感じ、恐怖した。

 隠せるなら兎も角、常に翼が生えていれば明らかに人外だと迫害を受ける。

 そうなったら何もかもお終いだ。

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