第四幕 アルヴァレズ家
第46話 お付きのメイド
シャーロットがアデルバートの部屋に来てから二時間が経過していた。
部屋の装飾や家具を見るという事もすぐに飽きて、やる事もなく待っているだけという状態とは裏腹に思考はアデルバート様の事ばかり回想する。
キスの事を振り返っては見悶えし、熱い抱擁を思い出せば体が熱くなったりと、傍から見れば滑稽で奇妙な行動に見えただろう。
そのうち思考は事から他の者へと移った。
自分ばかり幸せになって良いのかという考えからだ。
気にかかると言えば、今でも行方が分かっていないサイラス様とジェームズ君だ。
ジェームズ君については結局、どこの前線にもいなかったから、まだ到着してないと考えるのが妥当だった。
本来なら王都から前線への移動に数日かかるので、前線への移動中か移動の為に待機か準備していると結論づけた。
問題はサイラス様だ。
現状ではルーカス様が絡んでいるであろう事と、クレアさんと一緒だろうという事くらいだ。
分かっている事は何一つない。どちらも、可能性があるという程度の話だ。
そもそも行方不明になっている理由すらわかっていない。
ただ、あの時、サイラス様がパーティ会場に居るのはルーカス様にとって都合が悪いので、ルーカス様が主犯である可能性が高いと踏み、クレアさんと共に捕らえられているという考えが及んだ。
あまりアデルバート様に頼りたくないが、ルーカス様に対する交渉材料を持っていないので、自身が問い詰めるよりは頼んだ方が良い結果が得れると考えたのだ。
そんな思考がとまとまった頃、ノックの音に返事をすると共に四人のメイドが部屋に入って来た。
「シャーロット様ですね、王妃様からの任命により、これからご奉仕する事になりましたジェスでございます」
そんな挨拶で深くお辞儀をするその女性は一児の母と言った感じの貫禄がある女性で、彼女の指示により三人が軽いお辞儀をして何かの準備を始めた。
ジェスが挨拶に続けて、これから湯あみとマッサージ、ドレス作成のための採寸、それから仮で用意していたドレスの試着を行うと言い出した。
なにかとても手順が多くて頭痛がして、『ドレスは持っているから採寸も試着も必要ない』と言い出しそうになるが、喉元まで出た所で踏みとどまった。
こういう好意というのは受け取って置いた方が、王妃様への印象は良くなるかと思ったからだ。
その事を恩に着せたと思うのならそれはそれで良いとも思った。
自分にあったドレスが急に用意できる筈もなく、あるとすれば誰かのお下がりか、着なかったドレス位だと思うのだが、その事を考えると、成長の良い妹のお下がりを貰った事を思い出し、少し苦い思いが蘇った。
「それは有難い事ですね。そのドレスはもしや王妃様が着ていたものなのでしょうか」
「いいえ、ドレスはどれも新品でアデルバート殿下が前線に行く前に手配した物でございます」
アデルバート様の想いが込もった物だと思うと、嬉しいのやら照れくさいのやらで言葉を失ってしまった。
ルーカス様との婚約破棄からアデルバート様との結婚という流れが急に起こるなんてアデルバート様でも想像していなかった筈なのに、事前に用意していたという事はそれだけ、わたくしに対する想いが暴走でもしていたのか、いつでもこの状況になれるように準備しいていたという事なのでしょう。
「あらあら、それほどまでに嬉しいのですね。それだけ赤面している事をアデルバート殿下にお伝えしたらさぞ喜ぶ事でしょう」
「え、あの、ちょっと恥ずかしいので、内緒にしていて貰えますか……」
「ふふ、いいですよ。仰せのままに致します」
ジェスは少し楽しそうに話す。
機嫌がいい内に四人について聞いてみると、一人ずつ紹介された。
まずは本人。ジェスの年齢は三十過ぎで王都内に本屋を経営している旦那さんと十歳になる娘がいるという。その娘とわたくしが身長的にダブって見えて娘の世話をしている様だという。尤もその娘は基本的に一人で何でもできてしまう。と、考えるとそこも似た感じになるのだから、ダブって見えるのも仕方ないのかもしれない。
一番背が高く、眼鏡をかけた知的なのはペイジといい、二十三歳で未婚。男性との出会いがないと少し愚痴っていた。常に冷静な彼女は真面目で針子の才能があり、頑張ればドレスくらい作れると言っていた。ただ、今回の四人に選ばれた理由はボディーガードとしての側面を評価されていたからしい。ちなみに、針子になる予定はないそうだ。
癖っ毛が目立つミリーは十九歳で彼氏持ち。マッサージや化粧が得意らしい。彼女のホワイトブリムだけ独自改造したのかフリルが増量され、彼女の髪を可愛く引き立てていた。ファッションに五月蠅いらしく、ドレスの選定は彼女が行っているとか。性格はというと明るく良く喋る、特に恋愛話が大好きらしい。
一番背が低く、無表情ながらわたくしと同じくらいの背丈のモニカ、なぜか年齢を教えてくれなかったのは恥ずかしがり屋なのでしょうか。きっと同い年くらいで、わたくしと同じく背が低い事がコンプレックスで言いたくないのでしょう。
ちなみに、全員髪の毛を纏めてお団子ヘアにしているのはここのメイドのルールみたいです。お団子の大きさから考えると、ミリーとモニカはかなり髪が長いというのが伺えた。
全員の話を聞き終わったところで、湯あみの準備が終わったそうです。
そこで一人で入ろうと考えていると、ドレスを脱ぐことすらも任せて欲しいと言われる。
着ていた物はドレスと言っても布は薄くスカートのボリュームも無く、舞踏会や正式な場に出る物ではないので、脱ごうと思えば一瞬で脱げるものだから、手伝うなんて大袈裟すぎると思った。
それでも仕事の内だからと言って脱がそうとする。
それが彼女達のお仕事だと思えば、素直に従うしかなかった。
基本的に何でも一人でしていただけに、余計なお世話と思う所があったが、この先は行事や、この人達の力を借りる事になるのは目に見えていただけに、仕方なくその言葉に甘える事にした。
何か落ち着かない気持ちはあったものの、友好的な関係を築くために彼女達に頼るのは必然だった。
このような感じで、ある程度は信用せざるを得ないが、全面的に信用できる訳ではない。王妃様が任命したからといってもだ。
いつ、こちらに牙を向けてくるかという不安を抱きつつ、彼女達に身を任せる事にした。
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