第43話 人ならざる者

 目が覚めると、そこは広い指令室だった。

 長椅子に寝ていたわたくしを起こしたのは、例の声だった。


『ようやく起きたか』

「あなたは一体誰なのですか」

あるじに救われたドラゴンと言えば思い出すかだろうか』


 ドラゴンと関わったなんてあの鉱山しかありませんから、思い出すも何も知っています。

 しかし救ったというのは何からでしょう。

 その事よりも確認したい事があるので棚上げしてしまい、思い出すのは随分先の話になってしまいます。


「最近の異変ってあなたのせいでしょう?説明してもらえるかしら」

『フム、良かろう。主が魔法を使えなくて体調を崩していたのは我の影響だ』

「でしたら、出て行ってもらえますか」

『それが出来んから問題になっておる』

「では、今気分悪くないのはどうしてでしょう」

『その体調が悪い事のは体に変化が起こっていたからだ、今は変化が終わったという訳だ』

「その変化ってなんですの?」


 変化が完了したのはあの卵から出て来た時の事ですね。

 あんな恥ずかしくて思い出したくはありませんが、実はあの時、生まれ変わった様な感覚があったのです。


『龍族の因子を取り込んだ』

「あの時に言っていた、人のそれから外れるって事がそれですの?」

『そういう事だ、我の存在が強すぎたせいで、徐々に浸食して行ったのだ。結果、主は我らと同様の寿命に変化した』

「………それは、どれくらいなのでしょうか」

『主らの基準で五千年だ、それに合わせて体が成長する』

「待ってください!わたくしの今は何歳相当で、成人の体になるのにあと何年かかるのですか!」

『今が、五十歳くらいで、成人体になるのは百年ほどはかかるな』』


 ただでさえ、先祖返りでで若干長寿であるのに、百年も待ってもらったらアデルバート様が死んじゃうじゃない!

 せめて、成人してから変化していれば、若作りで通せていたのに…。


 これ、普通に結婚してしまって大丈夫な…訳がありませんよね。

 この事を打ち明けてしまったら、どうなるのでしょう。

 やはり人外として、排除されるのでしょうか。

 折角、幸せを掴んだと思ったのに……。


「……どうして、わたくしがそんな目に遭わなくてはいけないのですか」

『だから謝ったではないか、最早因子を取り込んだ以上、我が居なくなっても変わらん』

「謝ってっていつ!?………って、ああ、あの夢の」

『思い出したか』

「じゃああの天使の羽根のようなのはどうして生えたのですか」

『せめて人型である方が良いと思ってな、我は人間の因子を持っておらんかったからな、天使の因子で代用した』

「天使って、実在していたの!?」

『ああ、四千年前はよく喰らった物だ』

「なんて罰当たりな……、それでわたくし、種族的には何になるのでしょう」

『さぁな?キメラか、天使ではないか?ドラゴンの因子を持つの天使、ドラゴンエンジェルなんてどうだ』

「そのダサイのは要りません。そんな事より、わたくしが使ってた敵を土に埋もれさしたりしたのってあなたのスキルですの?」

『近くて違うな、あれは主のブレスよ』

「え、わたくしの息がそんな、危険な物なの?」

『ドラゴンブレスは、正確には息ではない、龍語を歌に乗せて発動する魔法に近しい物よ』


 ギャオーって言いながらブレスを吐いていると思ってたのが実は歌って事?

 それは何というか、随分音痴な…。

 って言ったら、怒られそうね。

 流石に、人の欠点を指摘するのは人が悪いわ。

 あ、人じゃなくて龍だったわね。


「う~ん、よくわからないけど、今までの魔法は使えなくなったけど、ブレスは使えるって事?」

『その通りだ』

「その件はもういいわ……、最後にあなたの事をなんて呼べばいいのかしら?」

『アークグランドドラゴンと呼ばれた事はあるが、固有名ではない、好きに呼べば良い』

「だったら……ドラでいいわね」

『まて!安直すぎるのではないか!?』

「好きに呼べって言ったのに五月蠅いわね、それじゃあ、ドラ…ドラ……ドラ……ドラゴス、そうねドラゴスならいいでしょ」

『ウム、まぁ良いだろう、ちなみにゴスはドコから来た?』

「ゴースト」

『却下だ!』

「だーめ、もう話しはお終い、今日は色々ありすぎて疲れたの、じゃあねドラゴス」

『今日って、始まったばかりだぞ』

「え?」


 窓から光が差し込み、陽の星が出て来たばかりの様で、その日の始まりを知らせていた。


「えええええええええええええ!?」


 一人で驚き叫んでいると、ドアからアデルバート様が入って来た。

 それは、昨日の戦争の酷さを感じさせるボロボロ服ではなく、しっかりとした正装、改めて惚れ直してしまう程のお姿でした。


「アデルバート様っ、もう歩いて大丈夫なのですか?」

「シャーロット姫、お蔭様で、もうどこも痛くありません。所で何か騒いでいる様でしたが」

「ああ、そうでした、陛下や先代様、アナベル様、ビアンカ様が、わたくし達の関係がどうなったか結果を王宮でお待ちです……」

「何!?それは急がなくては!」


 行動を始めると、アデルバート様は早かった。

 砦の事は副司令官に任せ、もし敵が来た場合にどうするかを細かく指示を与えた。

 ついでにわたくしはお着換えを済ませ、リアンに乗って王都に直行する事となった。


 リアンに二人で乗るという事は体を密着させるという事で、前に乗るか、後ろに乗るか悩むのも束の間、アデルバート様は当たり前の様に後に乗った。

 どうしてかと聞くと、「これなら姫が振り落とされる心配がないからだ」という。

 それに対して、つい「リアンはそんな事をしませんよ」と言ってしまったが、微笑みで返されてしまった。


 その言葉は、照れ隠しで出てしまった。

 わたくしを第一に想ってくれる事が嬉しい反動で、出てしまった事を反省する。

 もっと素直にならなきゃいけない。


 成長しない事を気づかれない内に、いい思い出が作れるように。

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