第40話 謁見の間の断罪 中編

 王宮の謁見の間、そこには色々な肩書を持つ人達が集まっていた。

 現在、話し合っているのが先王様、国王陛下、ルーカス様。

 若干手持ち無沙汰のお爺様と師団長。

 名前こそ知りませんが、戦時中に飲酒で歓談していた貴族達が二十人程。

 そしていつの間にか居なくなっているアナベル様。


 そんな大勢が見守る中、三人の話し合に乱入する者が居た。


「随分楽しそうにしてますね、お元気そうですねあなた」


 それほど大声でもないというのに、謁見の間の隅々にまで通る声だった。


「おお、ビアンカ、久しぶりじゃの」


 先王様がそう呼ぶという事は、この女性は先王様の奥様、つまり王太后という事になります。

 見た目だけで言えば、わたくしのお母様と近い年齢にしか見えないのです。

 その王太后様が、わたくしと目が合うと同時に、なぜかこちらに向かってきます。

 腰を低くし、わたくしと目線を合わせ微笑む。


「貴女がシャーロットね、会いたかったわ」


 その言葉と共に手を取るのですが、周りの目がわたくし達に集まっている事に気付く。

 更にビアンカ様の背後に、アナベル様。

 これは、ビアンカ様を呼びに行くのに姿を消していたのですね…。


「はじめまして──」

「ビアンカ、お前がいてどうしてこのような状況になっておる」

「仕方ないでしょう、部屋に閉じ込められて出てこれなかったのですよ、誰かのせいでね」

「儂ではありません!母上にそんな事する訳がありません、ルーカスです、全てはルーカスの奴が!」

「おだまり!」


 陛下が罪は全てルーカスのせいにしようと悪あがきをしている。

 その事は誰の目にも明らかで、最早取り巻きだった筈の貴族ですら冷たい目を向けている。

 この時、既にこの陛下は終りだと見切っていたのかもしれない。


「シャーロット、この手紙を持って、アデルバートの元に行きなさい」

「この手紙は……」

「渡せばわかるわ、此処に居る馬鹿共のことは気にしない事ね」

「ありがとうございますっ」


「母上!余計な事をしないでいただきたい!」


 陛下が抗議するのも無視し、ビアンカ様は先王に対して苦言を述べる。


「こんなことになるなら、初めから第一王子と婚約させておけば良かったのよ。これはアナタのせいでもあるわ」

「いやぁ、当時は周りの反発が多くての」

「だからと言って、最初から騙すような事をしているのを恥じなさい」

「それはすまないと思っておる。当時は──」

「もういいわ、シャーロット、早く行きなさい、此処に居る者全員、シャーロットが帰ってくるまで説教ですから覚悟なさい!」

「それで行ってきます!」


 そうして、王宮を出る足取りは軽かった。

 前回はお先真っ暗な状態で砦に向かっていたのとは対照的に、今回は九年前に会った初恋の人と会えるのだ。

 嬉しくて嬉しくて、奇声を上げてしまいそうです。


 王国飛行団でリアンと合流し、最初にお願いをした。


「今回は危険な事はないわ、だけど、大急ぎで飛んでもらる?」

「クエッ(分かった)」


 リアンは大きくはばたき、大空へ一気に上昇した。


 世界が広く感じる、どこまでも、どこまでも、飛んでいける。

 そんな気がするのはきっと気のせいじゃない。

 今、自由だと感じている。

 ここ最近ごちゃごちゃしていただけの婚約は無くなり、その上、初恋の相手が明確になった。

 後は再会して気持ちを打ち明けるだけ。

 それも、きっとすぐに会える。


 焦る気持ちをリアンに伝えないように努力した。

 飛行中に変な加速をされると、リアンから振り落とされ大変な事になる。

 そこで、今日の落下を思い出し、結局あれはなんだったのかと頭を捻り始める。


 あれから、魔法が使える様になっている筈なのに、使うタイミングが無かったせいで使わずにいた。

 砦についたら、敵兵に向かって使って確認しよう。

 それにあの、敵兵をことごとく地中に埋めたのも何かはっきりさせたいと思っていた。

 もしかすると、無意識に無詠唱魔法を習得したのではないかと、少し期待を持っていた。


 最初に着いた砦は、一度来た砦だった。

 第一魔術師団の副師団長と少し話をすると、あれから敵兵の死体処理が忙しく、それは嬉しい悲鳴だと言っていた。

 第一王子が来ていないか確認すると、誰も来ていないという。


 死体をどうするのかと聞くと、まとめて火葬するというので焼却を手伝おうとしたが、あっさりと断られた。

 ここでは十分に手を貸していただいたから、これ以上は自力で処理すると言う。

 余りでしゃばるのも良く無いので、その場を立ち去る事にした。


 二つ目の砦にたどり着くと、小規模の戦闘中で兵数も互角くらい、その兵数も最初の砦に居た千人程度しか居ない。

 そう思った時、桁の感覚がおかしい事に気付いた。

 二万の敵兵を見たせいか、千人となると、つい小規模に思えてしまう。

 一般的には十分な人数なのにだ。


「あの~、手伝いましょうか」

「大丈夫だ、君みたいな子どもの来るところではない」

「ちなみに、アデルバート様はこちらにおられるでしょうか、後ついでにジェームズ君も」

「知らん、どちらも居ないぞ」


 所属を知らないけど、ここの指揮を執っているっぽい人に話かけたら、こんな扱いだった。

 それならばと、あまり人に見られないような見晴らしのいい場所に移動し、こっそり詠唱してみた。


『闇の章二十二節、暗闇から這いずる触手よ、全ての敵を暗闇に引き摺る恐怖を与えよ!』


 その瞬間、一人の敵兵が身動きが取れなくなり、そのまま味方に殺された。

 変だ、この魔法は複数人に効果があるはずなのに、対象が一人になっている。

 もう一度唱えると、またもや一人だけが身動きが取れなくなる。

 使える様になったのは良いけど、威力が極端に落ちているのかもしれない。

 これ以上は目立つので、立ち去ろうとしたところ、足元に矢が突き刺さった。


 その矢を撃った者を直視し、『危ないじゃない!』と間抜けな発言をしようとしたが言葉にならなかった。


『────』


 叫ぶように言ったつもりが、聞きなれない言葉に変換されている。

 だが、それが何か直感で判った。


 これは龍語だ。


 わたくしは龍語を発声していた。

 それは敵対者に向けられ、術となり、敵兵一人を石化してしまった。

 これはドラゴンで言う所のブレスに当たると、何故か思いつく。

 試しに、『敵は石になれ』と叫んだ。

 その言葉はやはり龍語になり、あたりの敵兵が全て石化してしまった。

 正確には石に閉じ込められていた、だった。


「貴様ら我らに何をした!」


 敵兵の一人が頭部だけ石化を逃れていた為、周りのベリサリオ兵に向かい悪態をついていた。

 顔の周りは緩い素材だったみたいで、ひびが入り息は出来る様だった。

 中には、ヒビが大きくなり上半身がけが自由になった人も居た。

 わたくしのブレスには下半身を執拗に攻撃する特徴でもあるのかと疑ってしまう。


 これ以上、居ても仕方がないので次の砦に向かう事にした。

 だが、それから二つの砦を回るも戦闘は終了していたが、二人の姿は無かった。

 その上、四つ目の砦の司令官が、最後に向かおうとした砦の戦況がよくないと言っていた。


 最後の砦を目指し飛び立つと同時に、酷い胸騒ぎがした。

 無事で居て欲しい。

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