第39話 謁見の間の断罪 前編
ルーカス様の件に決着が付き、話が落ち着いたと思ったのに二人のご老体は満足できなかった。
それどころか、今にも誰かを殺してしまいそうな程、怒りを抑えれないでいた。
「誰かコイツを簀巻きにしろ!」
「お任せください!」
先王様の一言に対し、師団長が嬉々として返事をする。
泡を吹き気絶している殿下をロープでぐるぐる巻きにして差し出した。
雑用までする師団長は偉い筈なのに低姿勢である事に感心する。
もしかすると、先王様に尽くす事が嬉しいだけなのかもしれない。
「これでよろしいでしょうか」
「ご苦労!では、行くぞ!」
「何処にでしょうか」
「決まっておろう?王宮に乗り込むんじゃよ」
満面の笑顔で言い放った言葉、いや、明らかに怒っていますよね。
わざわざ、そんな複雑な表情をしなくたってわたくしにはわかります。
ですが、この反応を見た生徒達は、足を震わせ、人によっては立ってられない方や、意識を失う方まで出てくる始末。
まぁ、腐っても先王様です。
当時の武勇は今でも伝説になる程なので、そんな人がこんな変な表情で怒ってたら怖いですよね。
ですが、そんな状況下でも、話しかける勇気のあるお方がいました。
「先王様、ジェンキンス公爵様をご存じないでしょうか」
エレノアさんが質問して気づく、そういえば居ません。
このパーティ会場には寮生の大半が居るのに、マーティン様が居ないのは変な話だ。
あれ?ジェームズ君も居ない、
二人揃って何処かに拉致られたり、閉じ込められたり、処分されたりしていないか心配になる。
「ジェンキンス公であれば、アルヴァレズ領で療養中じゃ。我らの元に到着するなり、用件だけ伝えて気絶しよった」
「一体何があったのですか……」
「そうさな、これは男を見せたと言うべきであろうな、中々な根性であった」
「男??根性??」
エレノアさんが理解できないような表情をするなか、お父様が何か言いづらそうな顔で近づいて来る。
「ジェンキンス公の事じゃが……」
「はぁ、どうかしましたか」
「フローレンスがな、ジェンキンス公の事を気に入って、熱心に看病しておる」
「あぁ……、それってまさか」
「うむ……」
「反対はしませんが、なるようにしかなりませんね」
「そうじゃな」
フローレンスは二つ離れた妹で、その、まぁ、顔立ちが良いお方が好きな子だったので、今頃、せっせと世話を焼いて点数を稼いでいるのでしょう。
とはいえ、妹を見られたというのは少し面倒な予感がしてなりません。
ですが、マーティンが無事なら、それはそれで良かったと心底、ほっとする。
そうなるとジェームズ君は別件で不在という事になります。
彼と仲良しだったメイソン君に確認すると、前線送りになったとか。
それは、つまるところ、ルーカス様の手によってって事ですよね。
それは間違いなく、あの時に目を付けられたせいで、わたくしのせいであるのは確定です。
とはいえ、こればかりはどうすればいいか、非常に悩ましい。
それは、軍務次官の令息としての体面や軍規的な話が絡むと、ただ連れて帰るという問題では無くなったのです。
何と言いましょうか、本当に面倒しか起さなかったルーカス様が腹立たしく、蹴りを入れたくなる。
先代様に相談するという手もありますが、それこそ変な勘繰りを入れられそうなので二の足を踏んでしまっている。
それより、本人の意思も大事となるのですから、一度会って話さないといけません。
会いに行く切っ掛けさえあれば…。
「シャーロット!いくぞっ」
「あ、はい」
お爺様の声で我に返る。
お爺様とわたくしでリアンに乗り、先王様と師団長が大きなグリフォンに乗る。
そして大きなグリフォンがルーカス様を掴んで運ぶ。
この運び方って一般的なのでしょうか?
もしかするとわたくしを発端とするブームなのかもしれませんね。
王国飛行団の元に到着し、リアン達を団員に預けるとアナベル様が駆け寄り抱きしめられた。
「ああ、シャーロット、無事でよかった、本当に、本当によかった」
「アナベル様、ご心配をおかけしました」
「それにしても、あのルーカスの姿は?」
「儂が成敗した。これから息子にも制裁を加えに行くところじゃ」
「それなら、私も行くしかないな」
「ははは、お前も来るか、二人で暴れていた頃が懐かしいな」
この王国でも重鎮が三人横並びで歩く姿は威圧的だった。
しかも、師団長ですら親子くらいに見える程に三人の背が高く、さらには自分が小さく見えてしまう。
先王様がルーカス様を軽々と肩に担いでいるというのに、誰もそれを咎めようとしない。
それどころか黙して敬礼をする当たり、どれだけ偉大な存在なのかと思ってしまう。
うちの領に居る時は、ただの優しいだたのお年寄りだったのに、今は若返ったと言わんばかりに生き生きしている。
これが本当の姿なのだと思うと感慨深い。
そして、本日二度目の謁見の間を目の前にし、息を飲む。
だが、そんな心構えが整え終わる前に、扉が破壊されるかと思う程の勢いで開く。
ドガアアアァァァン
中では謁見の間だというのにお酒を酌み交わし、国王陛下含め多くの貴族が上機嫌になっていた。
先王様ですら、その状況に呆れてしまい、喝を入れた言葉は耳が痛くなる程だった。
「あ、ああああ、父上、どうしてここに……」
一番最初に酔いがさめたのが国王陛下だというのは、少しばかり皮肉で残酷でしかない。
なんと言ってもこれから説教が始まるのですから。
「お前、何をしでかしたか、儂に言ってみろ」
「いえ、なにも、なにもしておりません」
「儂が今、最も可愛がっているシャーロットを隣国に売り飛ばす話になったと聞いておるが?」
「そ、それは、ルーカスが勝手に決めた事でして、私は悪くありません!」
その一言に反応したのは気絶していたと思っていたルーカス様です。
「父上!それはあんまりではないですか!」
「うっさい!後でどうにかしてやるから、黙っておれ!」
「分かりました、信じてますからねっ、絶対ですよ、父上!」
「私を誰だと思っておる、アルヴァレズの国王であるぞ!」
「父上!」
えーと………?この人達、かなり馬鹿ですよね。
血族喧嘩に割り込む気はないので、飽きれつつ若干の暇を持て余しています。
見届けるという目的がありますから、仕方ないですが、早く終わらせて欲しいものです。
「一つ確認しよう。ルーカスとシャーロットの婚約は破棄されたのだな」
「え、ええ、昼前には」
「よろしい、では次だ。この度、窮地にあった砦を守る事にシャーロットが大いに貢献した。その恩賞が必要な筈だな」
「そ、そうなのですか、恩賞は何を与えれば…」
「シャーロットをアデルバート第一王子の婚約者候補とする!正式に婚約者とするのはアデルバートに判断させる」
「ど、どうしてここでアデルバートが出てくるのですか!ルーカスでも不相応だというのに!」
陛下は、その焦るように話を否定しようとする。
それもそうだ、過去の因縁を持った相手がルーカスの婚約者になる事ですら拒絶感があったのに、それが第一王子の婚約者となり、もし結婚してしまうと王太子妃になる訳で、それは将来の王妃になる可能性が非常に高くなると言う事になる。
つまり、陛下にとっては最も嫌な未来予想になっている。
「たしかに、ルーカスは不相応だったな」
「お爺様もわかっておられ……え?」
「シャーロットはルーカスには勿体ないと言っておるのだ」
「え……えー!?」
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