第37話 パーティの本番
ルーカス・ベリサリオ第二王子視点──
パーティの用意は完璧だった。
広さ的に、ダンスパーティーを行う事が出来なかったのが残念だ。
気分はまさに踊り狂いたいほどであるのにな。
傍らにヒナノを迎え入れた。
私の傍で一緒に楽しい結末を見て欲しかったのだ。
問題となっていた砦の方から魔道通信があり、婚約者殿がこちらへの帰路についたと聞いた。
しかも婚約者殿は誰一人として殺せなかったというではないか。
結局、兵士が敵に止めを刺して回ったという事が、婚約者殿の役立たず加減が伺い知れた。
これで邪魔者は隣国に売り飛ばされる。
それだけで満足ではあった。
言うまでもないが、これは全てあのデブと婚約者が企てた悪だくみが悪い。
あの悪だくみが無ければここまでする気は無かったんだ。
だが、これは都合が良かったとも言える、何もかも思い通りに進むというのは嬉しいものだな。
「ヒナノ、今日は記念すべき日だ、存分に楽しんで頂きたい」
「何の記念なのかな?まぁ何でもいいけれど」
「重大発表もあるんだ、楽しみにしていて欲しい、それももうじき始まるよ」
どこかでグリフォンが着陸したような振動があった。
婚約者殿がたどり着いたのだろう。
そして、この会場に入って来て、目を丸くしたまま硬直している。
見事なサプライズであろう?
存分に驚くが良い、フハ、フハハハハハ。
「誰かの誕生日ですか?」
「ようこそ、パーティー会場へ。婚約者殿」
「………(眩しい‥‥‥)」
クリスタルを存分に使ったスポットライトが集中し、婚約者殿を照らす。
「皆の者、聞いてくれ。この度、シャーロット・アルヴァレズ公爵令嬢は自ら無能を晒し、これ以上は王国に貢献できないからと隣国に行く事になった!」
周りの人からは「国外追放じゃないか?」「最初からそうすべきだった」「役立たずじゃ仕方がないな」「婚約はどうなったのだ?」とヒソヒソ声で話しているのが聞こえる。
その声に満足し、更に続ける。
「これにより、シャーロットとは婚約破棄し、新たな婚約者として、ここにいるヒナノを迎え入れる事になった!」
周りから、「おおおおおお」と喜びの声が聞こえる。
皆、わかっている様だ。
これが、王国の為であり、皆の気持ちを汲んだ結果だという事も。
この盛り上がりが恥ずかしいのか、ヒナノはシャーロットの元に歩み寄った。
最後に止めでも刺すのであろうと思った。
だが、シャーロットに耳打ちするヒナノは少し楽しそうに話す。
シャーロットも同じく少し笑った。
「貴様、何が面白い!?状況が分かっているのか!」
「いえ、婚約破棄は陛下の前で宣言しましたよね、改めて言われても、どう反応すれば良いのですか」
「それに、私も婚約する気はありませんよ」
「ヒナノ!?」
いやまて、ヒナノとはこれまで随分、いい雰囲気であったではないか。
何が不満なんだ。
「おっと失礼、私にも食いもんくれないか、昨日から何も食ってなくてな」
第一魔術師団師団長、バイロン伯爵がシャーロットの後ろから入って来た。
まて、砦はどうなったのだ?お前が離れて良いはずが無いだろう。
「バイロン伯爵はなぜここにいる!」
「ああ、シャーロット嬢の魔術に感服してね、まさかあんな魔法で敵を全員無力化するとは思わなかった、いやぁ流石と言わざるを得ないですな」
「何故だ、九年前の様に大量に虐殺すればいいじゃないか!なぜ無力化なんて中途半端な事をする!」
「それなんだけど、わたくし、未だに誰一人として人を殺した事は無いのですよ?」
え?
「えええええええええええええええええええええええ?」
まわりから、驚愕の声が一斉に沸き起こった。
殺人鬼と思われた相手が未だに不殺を貫いているなんて事が信じられる訳がない。
「いや、だって、九年前のあれはなんだ、一万人の命を奪って、やってないなんて今更だぞ」
「殿下、それについては少々誤解がありまして、あの戦争はシャーロット嬢と対峙した時点で死者一万人に至って居まして、それを私のネクロマンシーで操っていたのです。既に命が無かった者を再利用したという意味でなら処罰されるべきは私です。この事は国家機密でありましたが、先王様よりの許可が出たのでこの場にて公表させていただきました」
つまり、シャーロットが殺したと思っていた一万人は操られた死体で、やった事は虐殺ではなく焼却処理だという事か。
国家機密だというのも当然だ、味方の死体を操ったのなら国内からも苦情がでてもおかしくない、いや苦情で済めばいい方だ。
ん?誰の許可を得たと?
「先王!?」
「そうじゃよ」
さらに後ろから入って来たのは忘れもしない、お爺様だ。
行方不明になっていたと思ったのに、いつの間に帰って来たのだ。
タイミングは最悪じゃないか!
「お久しぶりです、お爺様」
「お前は何をやっておる。このパーティはなんじゃ」
「これは、シャーロットの新たな門出を祝うものでして」
「おい、そのライト、眩しいから、消せ」
スポットライトを構えていた者がさっとライトを消してた。
分かっていた事だが、パーティの盛り上がりが完全に腰折れになった。
計画が全て潰れてしまった。
悪夢だ、これは悪夢に違い無い。
「婚約破棄したのはまぁいい、それで我が孫の様に可愛がっているシャーロットをどうすると言うのか」
「隣国に奴隷として売り渡すそうですよ」
「シャーロット!今その事を言わなくても」
最悪だ、最悪の告げ口だ。
何の恨みがあって、私を窮地に陥れようと言うのだ。
これだから身勝手な奴は!
「なぜ、呼び捨てにしておる、いくらお前と言えどそれは許さん」
「シャーロット様………」
「それで、なぜ奴隷なんて条件を飲まなければならんのだ」
「それは、思ったよりもハフネット共和国の兵の練度が高く、劣勢になっていたからです、今は争うのは愚策だと、和平の証としてですね…」
ブチッ
お爺様からなにかが切れた音がした。
威圧のせいかお爺様が普段の何倍にも大きな存在に見える。
これは本気で怒っていると直感が教えてくれた。
「馬鹿もおおおん!!少女一人を犠牲にして何が和平だ、そんな和平で何が得れる、そんな王国に誰がついて行く、つまらん、本当に心底つまらん人間に育ったものだな、お前、廃嫡を覚悟しておけ」
「(シャーロット様は浮気も………)」
「んんん?声が小さくて聞こえんな」
何も言い返せない状況に、ギリリと歯ぎしりをしてしまう。
もう、ダメだと思った時、シャーロットが近くに寄って来た。
何を考えているか分からない顔で私をまじまじと観察する。
あぁ、そうか、今になって私の魅力に虜になり、もう一度婚約をしようとでも言うのだろうか。
だとすれば、これまでの事を水に流すのも吝かではない。
「ま……まだ、婚約を考え直したいと言うのなら、今の内だぞ」
「それより、貴方は……誰ですか?」
「何を言っている、私はルーカスだ、変な事を言う奴だな」
「九年前に会ったルーカス様とは別人ですよね」
何を言っている。
九年前の事なんて知らないぞ。
いや、まて、九年前だと?
「九年前?九年前………あ、あぁ…、あの時は、そのぉ、お腹が痛くて……代役を……」
「ふぅん、そうですか、九年前も代役、毒殺を恐れて代役、学園ですら代役を立てる。貴方にプライドは無いのですか」
「こ、、怖かったんだから仕方がないだろ!もうダメなんだよ、お前が怖すぎたんだよ!!一万人ってなんだよって思うだろ?」
「先ほどの通り、それは誤解だと…」
先代が疑問を問いかける。
「シャーロット、もしや九年前に会った相手を覚えておるのか?」
「ええ、ホクロの位置とか、耳の形、こまかい所まで目に焼き付けております」
「あの時に会っていたのはアデルバート第一王子だ、まだ相手は居なかった筈だが、会いたいか?」
「はい……、会ってみたいです、でも、わたくし、こんな子どもぽくて……」
お爺様に慰められるシャーロットは不安がいっぱいといった感じだった。
暫くの間、時間が止まったかのように誰も動けず、誰も言葉を口に出せないでいた。
問題は、予定していたパーティがどうなるのかではない。
いま、この時、自分の行く末を考えると、呼吸が荒くなってきた。
この息苦しいのが、この魔女が魔法を使ったのかもしれないと考えると汗が止まらなくなってくる。
次第に空気が足りない感じ、無意識に喉を掻き毟る。
意識が薄れゆく中、恨むように声を上げようとするが声にならなかった。
くそう、くそう!くそう!
魔女め、魔女が悪いんだ、魔女が私を殺そうとしている。魔女が、魔女があああああ!
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