第36話 パーティの準備
マーティン・ジェンキンス公爵視点──。
寮の食堂でパーティを開くという通知があった。
主催者はルーカス殿下だが、その目的はシャーロット様に関係しているという。
昼前にグリフォンに乗ったシャーロット様を見たという話や、突然隣国の攻勢が強まったと言う話といい、何がが起こっているのは確かだった。
挙句に先日の話だ。
魔術の特別講師がシャーロット様に暴力を振るったという。
情報が遅れて耳に入る事に腹が立つ。
その場に私が居合わせさえすれば、守る事が出来たはずだ。
学園で一目見た時から、ルーカス様の事を不信に思い、近くに居る様にしていた。
言葉を交わす事は無かったが、彼が学友と話している内容からなにかが分かるかと思ったからだ。
だというのに、何の情報も得れずに、ただ、無為に付いて回るだけだった。
こんな事では、シャーロット様をお守りできないと焦りだした時、意外な事に殿下から話しかけられた。
「君がジェンキンス公爵か、何やら公爵領で婚約者殿とよろしくやっていたそうじゃないか」
「それは、どういう意味でしょうか……」
「知っているのだぞ、街中で堂々と手を繋いで仲良くデートをしていたのだろう?」
どうしてその事を知っているのだ!?
確かにその通りだし、バレないと思ってデートのつもりであったのも否定はできない。
だからと言って、認める事は出来ない。
「いえ、それは街を案内していただけで、決してデートでは…」
「ああ~、その事を責めている訳ではないのだ。欲しければくれてやる」
「くれてやる……って、彼女は物ではないのですよ!」
「何を怒っている?好きなのであろう?仲良くグリフォンにまたがっていたと聞いておるぞ」
「だとしても、殿下に彼女をどうこうする権利はないと言っているんだ!」
当たり前だ、彼女は彼女なのだ。
自分の好きな相手を者扱いされて怒りが沸点に達しそうになっていた。
だが殿下の言葉は、信じられない内容だった。
「そうか?まぁでも残念だが、彼女は隣国に売られる事になった」
「では、婚約は……ええ?隣国!?」
「ああ、面白いだろ、首相の息子が彼女を気に入ったそうだ。しかも、奴隷に欲しいとな」
「貴様!」
頭に血が上り、殿下を殴る所だった。
それを制止したのはエレノア嬢だ。
「おお、危ない危ない、今の割込みが無ければ、ジェンキンス公爵家はお終いになっていたのに、惜しい事をした」
「マーティン様、落ち着いてください」
腕を組み殿下から離れる様に引っ張られる。
「だが、シャーロット様が!」
「殿下、これにて失礼します」
見送る殿下のニヤケづらが、より一層私の感情を逆なでしていた。
◇
ずるずると外に連れ出された。
今回ばかりは間違った行動だという事はわかって居る。
だが、これまでの言動、我慢の限界を遥に超えていた。
最早、人としての常識があるのかも疑うレベルだ。
「馬鹿ですか!王家に手を上げて言い訳がないでしょう!」
「だが、シャーロット様が奴隷になっていいというのか」
バァアアンッ
彼女からの平手打ちで俺は我に返る事ができた。
エレノア嬢の手は震え、目を潤ませていた。
殿下相手に強気に振る舞い、そして公爵位を持つ者に手を上げたのだ。
本来であれば、ただの男爵令嬢が出来る事ではなかった。
「良い訳がないでしょう!でも、だからって、殿下を殴ったところで解決しないでしょう、状況をより悪化させる事くらいは分かりなさい!」
「す、すまなない……」
彼女は一息つき、そして考える。
今何ができるか、最善手は何かを考える。
だが、私には思いつかなかった、そして真剣に悩む彼女を見つめていた。
「まずは、ジャスパー様に連絡を取ってください、連絡の手段を貰っていましたよね?」
「あ、あああああ!そうか、ジャスパー殿経由で、アルヴァレズ公爵家に連絡が取れれば!」
「そうですよ!アルヴァレズ公爵様なら状況をひっくり返せます!」
自分の短絡さが恥ずかしくなる。
自室の魔道通信機を使ってジャスパー殿と連絡を取った。
事態を重く受け取ったジャスパー殿がアルヴァレズ公爵家に連絡を取った所、当主は怒りを露わにしたが、王都に行くには何日もかかると言って軍を率いて王都に向かうと言い出した。
「移動手段か…」
「グリフォンライダーは?」
「ああ、もしかすると借りれるかもしれない」
「よし、行ってくる、あちらには待っているように言っておいてくれないか」
「わかりました」
今から行って、間に合うのかは分からない。
その不安は王国飛行団についてより一層強くなる。
「いま、グリフォンが全て出払っているのですよ」
「そんなっ、シャーロット様の一大事なんです!どうか、どうか一羽お貸しください、この通りです!」
「ああ、パスの通った方ですね。ですが、そう言われましても…」
困った感じになった団員が悩んでいると、背後から声がする。
「どうしたぁ?」
「団長!」
団長と呼ばれる女性に事態を説明するとすぐに状況を理解し、団員に指示が出る。
「私のグリフォンを用意しろ」
「いいんですか、一般人には扱えない暴れん坊ですよ」
「どんなのでも乗りこなせるよな?無理だとは言わさん、根性で乗って見せろ」
「わかりました」
団長は私に「シャーロットの事を頼む」と言う。
どんな関係なのか分からないが、団長もシャーロット様の事が心配なのだとわかる。
胸をドンと叩き、「任せてください」と答える。
そして暴れん坊のグリフォンはその名の通り本当に暴れん坊だった。
図体からして二倍はあり、今まで乗ったグリフォンよりも二倍近い高さに昇り、速度も息が出来ないかと思う程に速かった。
そこからの移動は正直に記憶が曖昧になった。
しがみつくので必死で、飛んでいく方向が合っている事を確認するので手一杯だった。
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