第31話 シャーロット倒れる
「シャーロット!どうしたの!?そこの貴女、ここで何をしていた、シャーロットを泣かせたのは貴女なのか?」
「あ、アナベル様、私は第二王子お付きのメイドでございます、私がこの部屋に入った時には、もう泣かれていまして、私も何が何やら」
「シャーロット、この女が原因じゃないのね?そう、それならいいわ、この事は口外禁止とします、よろしいですね」
アナベル様がわたくしを子どもの様に抱きかかえ、団長室に移動した。
「よしよし、ほら、お菓子でも食べて落ち着くんだ」
「はい…」
お皿の上にのったお菓子を、一つ、二つ、三つ、四つと、次々口に入れる。
自領に居る頃はあまり食べる機会がなかったので、ちょっと手がとまらなくなって、残り一つという所で自制心が働いた。
「ごめんなさい、食べすぎてしまいました」
「いいんだ、それで落ち着いたのならそれでいい、全部食べ切ってもいいのだぞ」
黙って頷き、残りの一つを口に入れた。
「それより、ルーカスとは会えなかったのか?」
また黙って頷く。
まさか、部屋で隠れていたなんて言えない、でも実際に顔は合わせていないので嘘ではない。
「それにしても、化粧をしてないのだな、していれば大惨事だったぞ。まぁ、これならそのまま帰れるな。そうだ、素材の算定が終わったぞ」
「その買取なのですが、ジェンキンス公爵の方に渡して頂けますか」
「それは構わないのだが、良いのか?かなりの額だぞ?」
「いいのです、あの人達の再出発に必要なお金ですから」
「そうか、それはそれでお礼を言わないといけないな」
「どういう意味ですか?」
「現ジェンキンス公爵は、従孫にあたるんだ、あまり関われないでいて歯痒い思いをしていたのだよ」
「そうでしたか、お力になれて嬉しく思います」
ん…、となるとヴァンスさんは甥になるのかしら?
「いや、ヴァンスは義甥だ」
「心を読んだ!?」
「いやいや、シャーロットは顔に出やすいみたいで分かりやすいんだよ」
「お恥ずかしい……」
それから、話を続けるも気分から盛り上げる事も出来ず、気を使われて馬車で寮まで送って頂いた。
帰ると同時に恋しかったお風呂に入る。
お湯に溶けてしまいそうなほど放心して長風呂をしていると、エレノアさんが入って来た。
「シャーロット様!ここに居たのですね」
「なんだかお久し振りですね~」
「あらら、やはりショックですか」
「ん~?何がですかぁ~?」
「何がって……、ルーカス様が行方不明になった事ですよ」
「そうなのですかぁ~…」
「休息日にジェンキンス公爵領へ出かけたじゃないですか、それで追いかけて行ったのかと思っていたのですよ」
「追いかけて来られたのですかぁ…」
「え、ええ、そうみたいなのですが、王家の方から当分お休みすると連絡があったみたいです」
「では、ご病気なのですねぇ~」
「シャーロット様ぁ、どうしたのですか、覇気がありませんよ」
「う~ん……、放って置いてくださいませぇ~」
このままでは駄目だと思うのですが、何もやる気が起きないし思考がまともにできない。
それに、ちょっとのぼせたのかもしれない。
これ以上お風呂に入っているのは良くないと思って、勢いをつけ、出ようと起き上がろうとしたのですが…。
バッシャーン
頭がくらくらしたと思った途端、うつ伏せに倒れ込みそのまま意識を失ってしまった。
◇
目が覚めた時、目に入ったのは心配そうな顔をしたエレノアさんでした。
「ご迷惑をおかけしましたね」
「いいのですよ、それより大人しく寝ていてください、湯あたりかと思ったら熱があるじゃないですか」
「それで体がだるいのですか」
「そうですよ、ご病気なのですよ、早く治してくださいね、こんなところまで仲良くしなくてもいいのに…」
「ルーカス様の事ですか?」
「そうですよ、クレアさんも居なくなるし、みなさん病弱すぎです!」
クレアさんまでいなくなったというのは意外です。
実は駆け落ちしたとか、無いですよね?
病気のせいか、学園に行く気力が湧きません。
もう、自領に帰りたいとまで思う様にまでなっていました。
翌日はエリンさんが様子を見に来ました。
どうやら、マーティン様に言われて様子を見にきたそうです。
起き上がって、話をしようと思ったのに、立ち上がる事もままならず、その場にへたり込んでしまう始末。
何か悪いものでも食べたのでしょうか。
昨日よりも悪化している事に、心が焦り始める。
「大丈夫ですかっ」
「え、ええ、ちょっとバランスを崩しただけです」
「動くのが無理なら横になっていてくださいよ、心配しちゃうじゃないですか」
「ありがとうございます、お言葉に甘えて横になってるわ」
「ところでぇ……、マーティン様と何かありました?」
「何も……、何もありませんよ?」
「ふぅん、そうですぁ、なにかマーティン様の心配の仕方が、肉親か恋人を心配するような感じだったのでてっきり…」
「あぁ……、それは色々手助けをしたからですわ、それを恩を着せられたと思って、恩返しを考えているのでしょう」
「はぁ、そうですか、残念です」
「どうしてですか?」
「だって、過去にした事は置いておいて、見た目はルーカス様よりマーティン様の方が何倍もカッコイイでしょう?」
「そうですが、人は見た目ではありませんからね」
「でも、マーティン様は今は一途な感じしますよ、ルーカス様と違って…(あっ)」
「どういう事ですか」
「その、つまり~…、ごめんなさい!私の口からは言えません!」
「いいですよ、どのみち何かの誤解なのでしょうし」
またですか……、もうその手の話は飽きました。
追及する気もありませんし、噂が独り歩きしても無視します。
そう、どうせ誰かの罠なのですから。
「あら、エリンさん来てたのですね」
「エレノア様は看病ですか?」
「ええ、シャーロット様は私の作った物しか食べないのですよぉ、もう超かわいいんです!」
「あぁ~、シャーロット様は警戒心強いですもんね。でも、エレノア様には心を許したと、これはこれで…、ふふふ」
「うん?どうされました」
「あの、悪いのですが、雑談するなら別の場所で…」
「すみません、私、退散しますね、お元気でっ、って、あー!そうでした、一つだけ質問です」
「何でしょうか」
「好きな花と色を教えてください」
「ええと…、この季節ならハナスベリヒユが素朴で可愛らしいですよね、色は白が好きですね」
「わかりました、ありがとうございます!」
明日には花束を持ってきそうですが、ハナスベリヒユは小さくて花束には向かないのですよね~。
そう考えると植木鉢になってしまうのでしょうか。
病人に植木鉢……まぁいいですけど、入院じゃないからセーフなのかな。
「なんだか楽しそうですね、さぁ、オートミールのスープですよ~、どうぞ~、はい、あーん」
「別に楽しい訳じゃないですよ、あーん」
「そうですか?でも何か楽しい事を考えた方がいいですよ、はい、あーん」
「そんな気分じゃないのですよね、あーん」
「そんなにルーカス様が居なくなったのがショックですか、はい、あーん」
「もう、いいです、自分で食べます」
「あはは、餌付けしてるみたいで楽しかったのにぃ」
「というか、ルーカス様もまだ帰ってきていないのですね」
「そうですね、ですが転入生が入ってきましたよ。なんと、ルーカス様と同じ金髪です」
「え?」
カラーン
力の抜けた手からスプーンが落ち、器にあたり、スープが少し飛び散る。
「あー、もう、どれだけ金髪好きなのですかー」
「ご、ごめんなさい」
第一王子?第二王子?または王家の継承権のない誰か?
これは早く元気になって会いに行かないと…。
はやる気持ちとは反対に、すぐに体調が回復する事はなく、ルーカス、クレアの二人も行方知れずのままだった。
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