第三幕 王家

第30話 お別れ

「リアン……、えっと、お借りしたグリフォンなのですが」

「どうかされましたか」


 王国飛行団の団員の方に説明する。

 お借りしたグリフォンに命名してしまい、事もあろうかパスを繋げてしまった。

 そのお詫びを言う必要があった。


「そうですか、グリフォンは一緒に行きたがっていますか?」

「リアン、王国飛行団の元で働けるかしら?」

「クゥエエッ!(うん!)」

「あ……、働くそうです」


 えーと、あっさり見限られた感じがして何だか寂しい気がします。


「当分会えなくなるけど、大丈夫だよね?」

「クゥエエッ!(うん!)」

「いいこ、いいこ」


 うう、わたくしの方が離れたくなくなってしまっているのですが、これはどういう状況でしょう。

 子離れできない親の心境なのでしょうか。


「という事だそうです、では失礼しますね」

「あ、一応なのですが、王国飛行団に籍を置いていて貰えますか」

「それは、どういう立場になるのですか?」

「イレギュラーではあるのですが、パスが繋がった方は貴重なのです。今後、グリフォンが言う事を聞かなくなった時等、何かあれば協力して頂きたいのです、まぁ、職務的な義務はありませんよ」

「そういう事であれば協力しますわ」

「その代わりと言っては何ですが、乗りたくなったら来てくださいね、それと団長に挨拶をして行ってもらえますか」

「わかりました」


 ここまでマーティン様について来て頂いたのですが、ここからは一人となります。

 まぁ、団長さんに挨拶するだけなので、特に問題はない筈でした。



 いえ、問題、大ありでした。


「ふむ、君がシャーロットか」


 そう言ったのは二十代の後半くらいに見える男勝りな感じのする茶髪の女性。

 そういえば、王国飛行団って王族直轄とか言っていましたね。

 まさか王妃様って事はないですよね?


「は、はい、お初にお目にかかります、シャーロット・アルヴァレズでございます」

「はっはっはっ、堅苦しくなる事はない、友達だと思って接してくれたまえ」

「あ、ありがとうございます」

「パスを繋げたグリフォンとは仲良くなれそうかね」

「ええ、会話ができるのは便利ですね、最初はびっくりしました」

「で、あろうな、たまに来て話し相手になって貰えるとありがたい」

「それは、パスの繋がったグリフォンですよね?」

「私とグリフォン、どっちもだ」


 悪戯心を含んだ感じの笑顔で言っていますが、王妃様と話すのは緊張します。

 そう毎回、相手にしていると寿命がどんどん減っていきそうです。


「通えるように努力します」

「それはそうと、婚約者とはうまくいっているかね」

「えっと、どうでしょう。よくわかりません」


 わからないというのも、本物と偽物のどちらの事を言っているのかが分からないから、そう言うしかなかった。

 というか、どうして婚約者という表現なのでしょう?


「それはいかんな、もっと関わるように言っておこう」

「あの、どのようなご関係なのでしょうか」

「そうか、知らなかったのだな、私は現王妃の母だ、アナベルと呼んでくれ」

「はぁ、ルーカス様のおばあ様……ええ?でも…いえ、なんでもありません」


 孫が居るとは思えない程の若作り、思わず見とれてしまいます。


「はっはっはっ、正直に言ってもいいんだぞ」

「あ、そうでした、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ん?構わんぞ」

「ドラゴンの骨と鱗ってどこで買い取ってもらえるでしょうか」

「おお、ドラゴンを退治したのか、流石は漆黒の魔女だな」

「(また新たな二つ名が…)」

「どこにあるのだ?専門家を呼んで査定してやろう」

「広い所はありませんか?かなり大きいのですが」

「では、裏の訓練場にするか」


 全て出し切ると、すっきりしました。

 今の今まで、保有魔力がどんどん減っていったので、ちょっと気持ち悪くなって来た所でした。


「査定できる者を呼んでからになるので、終わるまで部屋で待っていてくれるか」

「はい」


 そして案内された部屋。

 その部屋は王宮内の一室になっており、王族の私室になっていた。

 天蓋があるベッド、別称、上級貴族ベッドと装飾の凝った机や椅子と言った物があり、王族の誰かの部屋であることは確実です。

 机の引き出しや、ローチェストを開けて誰の部屋なのかヒントを探す事は反則かどうか悩みつつ、本棚に目をやると日記の様な物を見つけた。


 手に取り読み始めた時、外で物音がした。


 ガチャ


 足音を聞く限り、複数人がこの部屋に入って来た事がわかった。

 何故かやましい気分になりベッドの下に潜り、隠れてしまった。

 そして、聞きたくもない会話が耳に入ってくる。


「そろそろ、アルヴァレズの姫が帰ってくるって話だったな」

「ええ、ジェンキンス公爵家の支配が完了したという報告を受けています」

「まぁ、ヴァンスといったかな?叔父という悪役を仕立て上げれば、楽に支配できたのであろうな」

「そうですね、今も牢屋に居るヴァンスは横領だけでなく、王子への危害を加えた一件で絞首刑になりそうです」

「少し不思議なのだが、公爵家を牛耳っていたのに横領の必要があったのかね?」

「それは財政悪化は現公爵のせいにして、息子が家督を引き継いだ瞬間に貯め込んだ財を放出する予定だったのではないでしょうか」

「その割にはグラスナイト商会から随分とお金を融通してもらっていたようだが」

「では、散財癖がある無能だったという事だったのでは?」

「まぁ、ヴァンスが幼女趣味で時々平民を誘拐をしては着せ替えをさせていたという情報もあるしな」

「誘拐は本当みたいですね、一応、一番似合う服を着せられた状態で解放してい様ですが、ちょっと身の毛がよだちます」

「大丈夫だ、アイツはお前みたいに熟れた女は好みじゃないだろうな」

「んっ」


 あの~、ここに人がいますよ~!

 なにかチュッチュと聞きなれない音がします。

 この二人の関係って、あれでしょ?主従関係から肉体関係に発展したパターンですよね、ふしだらです、不潔です!

 女性専用恋愛書物で、ちょっとだけ読んだことがあります!

 男性の声には聞き覚えはないのですが、女性の方はどこかで聞いた事がありました。

 それが思い出せなくてもどかしい。


「ルーカス様、まだ日が高いので、お戯れは程々にお願いします」


 ル、ルーカスゥゥゥゥ!?

 だけど、この声はあの太っちょの方のルーカス様ではない。

 という事は、本物!?


「そういえば、この部屋に誰か来るから待っておけと、祖母が言っていたが、まだ来ないのか。私を待たせるとは不敬な奴だ」

「もしかすると、既にこの部屋に居るのかもしれませんね、どれどれ…」


 連れの女性がベッドの下を覗き込み、目と目があった。

 沈黙の時が流れ、ニヤリとしつつ何事も無かったかのように覗き込むのをやめた。


「まぁ、何もいませんでしたわ」

「そうか、まぁこんなところに居たら、人知れず成敗しないといけない所だったな」

「あら、恐ろしいですわ」


 信じられない事ですが、今、ベッドの下を覗いた女性はヴァイオレット・バトラー公爵令嬢でした。

 仮面の男に誘拐されて行方知れずになっていた筈、あれ?という事は仮面の男が本物のルーカス様だった!?

 いやぁ、まさかぁ、でも、認識阻害のせいで確証なんて物はありません。

 いずれにせよ、今ここで自分の存在を明るみにする様な度胸は持ち合わせていませんでした。


「所で、ルーカス様は、ヴァンスのように、小柄な女の子には興味はないのですか?」

「そうだなぁ、小柄でも良いが、出るところは出ていて欲しいものだな」

「あら、でもたしか、婚約者のお方は…」

「ああ、そうなんだよ。直接会った事はないのだが、かなり平たいらしいな、しかも背が小さい」

「そうですね、まだ十歳だと言われたら、もうちょっと下ではないですか?聞きたくなるほどですね」

「そこまで、酷いのか!」

「ええ、下着も安上りの経済的で羨ましかったですわ」

「それは、これからちゃんと成長するのだろうか」

「女の成長はだいたい十四までで、十六で完全に止まると言いますね」

「後二年…、在学中に成長しなければ…」

「女性として、終わったも同然ですわ、幼女趣味の殿方の元に嫁ぐ事になるのでしょうね」

「第三王子とくっつくならそれも良し、駄目ならそうなるだろうな」


 その後、ヴァイオレットが訓練所にドラゴンの白骨があるという話をすると、本物のルーカス様は意気揚々と駆け足で見物に出かけた。


「シャーロットさん、出て来れるなら、出てらっしゃい」


 ベッド下を覗きこみ、わたくしを引き摺りだす。


「もう、そんな顔がぐしゃぐしゃになるまで泣かなくても…」

「だって……だって……」

「これで判ったでしょう?第二王子は貴方に興味はないって」

「でも……」

「第三王子を好きになれるのなら、あちらに乗り換えなさい、他に好きな人が出来るなら付き合ったらいいわ」

「やだ……」


「ちなみに、私、肉体関係はあっても、本命じゃないのよ?なんかね、異世界人の女を頑張って口説いてる最中なんだって。大したプロポーションでもないのにね。だから、貴女は三番目なのよ?わかるからしら?それとも一緒に妾になるぅ?」

「やだやだ……うぅぅ、うわああああああああああああん」

「あぁぁ、もぅっ、子どもはこれだから!」

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