第27話 鉱山にある物

 洞窟に入るのに適した服装とはどのような物でしょう?

 ドレスはスカートが邪魔になるからダメ、寒いから薄着もダメ。

 とはいえ、女はスカートを履くべきというのは王国の常識ルール

 ですがこんな事もあろうかと、キュロットスカートを作って置いたのです。

 厚手の生地でつくった短いスカートに見える半ズボン。

 それと、タイツの組み合わせであれば、生足を見せてはならないという王国の常識ルールはクリアしたと言えましょう。


 何れも偶々知り合った異世界人が裁縫技術の長けたアルヴァレズ公爵領で製造に成功した物。

 何故、異世界人の男性が女物の衣服について詳しかったのか、という謎はありましたが、わたくしにとっては堅苦しい常識ルールを打ち破る様な服というのは大歓迎だったのです。

 ただ残念な事にニーソックスという物は企画段階で周りの反対により没になりました。


「あ、貴女という人は…」

「どうかされましたか?マーティン様、頭痛ですか?」

「貴女は時代の先端のさらに先を行っているというか」

「うんうん」


「既成概念を打ち破りすぎというか」

「うんうん、もっと言ってください、もっと言ってください」


「常識知らずといか」

「うんうん……ん?って、どうしてそうなるのですか!」

「脚の形が見えるのは如何なものかと思うのですよ」

「貴族の令嬢は生足を出すのをはしたないと言うだけなら、これでいいじゃないですか!」


「まぁまぁ、マーティン殿もシャーロットも落ち着いて、あまりゆっくりしていると今日中に帰る事ができなくなりますぞ」

「仕方がありません、今回は妥協しましょう」

「妥協なんて不要ですー。これはルール違反にならないのですー」

「ほぅ、では後日、ルーカス様やエレノア嬢にご意見を伺いましょう」

「いいですよ、常識知らずと言った事を後悔させて上げますわ」


 そんなやり取りもありましたが、洞窟内は静かなもので敵は一切現れません。

 冒険系書物であれば、賊や魔物の巣窟になっているのがお決まりてんぷれなのですが、それが無いのはとても残念です。


「それにしても、防寒装備をしてきてよかったですわ」

「そうですね、かなりひんやりしていますね、鉱山は暑いものだと思っていたのですが」

「マグマが近い所であればそうなのでしょうけど、ここは近くに火山がないみたいですからね」

「そもそもマグマがあるような所は鉱山になりませんな」



 ◇



「さて、ここが終点です。父の残した日記によるとこの周辺は岩盤が堅く、この周辺では鉄も出なかったという事です」

「この岩盤……」

「もしや、これがレア鉱石なのですか!?」

「いえ、ただの岩ですね。価値はありません」

「シャーロット、この岩を切り抜けるか?」

「やってみましょう」


『変化の章十節、岩の形を構成し物質よ、坑道に支えとなり、我らを通す道を作れ』


 立ち塞がっていた岩が青く光り、人が余裕で通れる程の穴をあけた。

 その穴は足元は平らで歩きやすく、整備された坑道になった。

 どこまで続くのかと思う程長かったが、その通路は突然途切れた。


 通路が途切れた先は巨大な空洞になっていた。

 それだけではない、その空洞は明るく、そして──。


「こ、これは…」

「初めて見ました、珍しいですね」

「素材だけでも、良い値段になりますな」


 空洞には白骨となったドラゴンの姿がそこにあった。

 頭だけでもわたくしの身長よりも遥に高く、一番身長の高いマーティン様の三倍はありそうでした。


「地中に居るという事は地竜だったのでしょうな、出入口はあったかもしれませんが、死を前にして崩したのやもしれません」

「この骨、サイズ的に坑道を通らないな」

「そうですねぇ…、わたくしの固有空間に入るでしょうか」

「ふーむ、無理なら、部分的に収納してピストン輸送するしかないですな」

「ここまでの距離を往復せよと…」

「すみません、固有空間とは何でしょうか」

「えっと、秘密ですよ?」


 固有空間は、わたくしだけが出し入れできる押し入れの様な物で、収納物の質量に応じて魔力を消費する物です。

 このスキルがあるから学園に一人にで行く事を許可されたと言っても過言ではなかったが、レアスキルなので学園では隠し通してきた。

 囮として自室には荒らされてもいいようなダミーとなる荷物を置いた所、盗難されたり無茶苦茶に切り裂かれたりと、犯人の特定に役にたった。

 正直、このスキルが無ければやって行けなかったと思う。


 王都にきてから人前で使うのは一度だけ、グラスナイト商会の酒場の二階が崩壊した時にマーティン様の叔父が用意した服を根こそぎ収納した。

 意地汚いと言われても仕方がないのですが、かの有名デザイナーの作品がダメになるのを黙っている見ている事ができなかったのです。

 吐きながらスキルを使ったという絵ずらは想像されたくない物です。

 まぁその嘔吐物も収納しました、見られたくないからですが、処分するのを忘れていた。


「結局、この明るいのは何なのでしょうね」

「吸魂石ですな、昔は魂を吸収して光ると言われていました」

「えええ、それ怖くないですか」

「まぁ、迷信ですよ、最近の研究では実際は死体が発酵した時に発生するガスを吸収して光るそうです」

「成程、ドラゴンの体が大きいお蔭で、ずっと光っていたという事ですね、そしてその価値はいかほどに…」

「残念ながら大した利用価値はありませんな」

「そうですか、こんなに大量にあるのにね…。まぁドラゴンの骨と、鱗だけでも十分ではあります」


 そう言って、残念そうな顔をするマーティン様を見ていて、なにか少し腑に落ちないでいました。


 骨と鱗…?


「……そう、ですわ。あの魔法、鉱物にしか反応しない筈なのですよ」

「それはつまり…」

「この空間に隣接したどこかに鉱脈がある可能性が高いですな」

「であれば、ここでもう一度あの魔法を使えば!」

「ええ、見つかるでしょうね」


 そうして見つかった物は真っ赤に透き通った鉱石。


「これはルビー?」

「そうですな、どれくらい埋蔵されているかによりますが、公爵領の立て直しの役に立つでしょうな」

「きっとありますわ、だって、あんなに大きな反応だったのですもの」


 その後の発掘は計画ごと叔父様にお任せする事になり、もう少し調査すると言う叔父様を置いて、わたくし達はその場を去りました。

 ちなみに、ドラゴンの骨と鱗は無事、固有空間に収納できたので、王都で売って来て欲しいと託されました。


 暗く窮屈な鉱山から出て、新鮮な空気を吸った時にマーティン様が焦るような口調で指摘をする。


「シャーロット様っ、その、脚が…」

「脚?」


 自分の脚をよく見ると、黒いタイツが所々裂け、肌が露出していた。

 崩落した場所を通る時に膝をついて歩いたりと、色々な所で引っかけた気がした。

 元々耐久性に課題があったので、仕方がない事ではある。


「ああ、また作り直しですね」

「少しは隠す努力をしないか…」

「わたくしのような子どもっぽい人の素足を見た所で興奮もしないでしょう?でしたら無視してくださいまし、私はこれくらいは気にしません」

「そんな事はありませんよ、姿は妹くらいの幼さでも、年齢は同じ年ですから…」

「だ…、だったら、どうして胸を触るような真似をしたのですか!」

「え、いつの事ですか?」


 本気でわかっていない事に苛立ちが頂点に達した。


「上空で魔法を使った時ですわ」

「ああ……、あの時ですか、すみません、しっかり支えようとしたばかりに」

「どうせ、平らでわからなかったのでしょっ、それくらい自覚しています。ですがわたくしを女性として意識しているのであれば、気づいて然るべきでしょう」

「サイズは関係ありません、貴女は魅力的です。自信をもってください。ですが、殿下の婚約者なのです、あの時は落下してはいけないと思うばかりでした。あと、私は貴女を意識してしてはいけないのです」

「でしたら、もし、もしですよ、婚約が破棄されたら…」


 その言葉を口にだして、我に返りました。

 わたくしは何を言っているのでしょう。

 婚約破棄されたら付き合いたいとでも言いうのかと確認しそうになった。

 ちゃんと女性として見ているのか、その確認のつもりだったのに、それは例えであっても言ってはいけない事でした。


 破棄されたら領地に帰る、それだけではないですか。

 マーティン様に好きになってもらいたいという気持ちではない筈。

 どうしてこんな言い方になってしまったのか自分でもわからない。


 気づけば走り出していた。

 目的地を決めないまま、ただひたすら体力が尽きるまで走った。

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