第26話 命名リアン
「エリー」
「はい、シャーロット様」
「わたくしは火葬の為に呼ばれたのでしょうか」
マーティン様の親戚二人と、亡くなった刺客やメイド達を高熱の魔法で燃やすという作業。
これ、わたくしじゃなくて良いでしょう?
「いいえ、シャーロット様にはもっと大きなお仕事がありますよ」
「あの、できたら帰りたいのですけど」
「それが終わったら、お得意の鉱山調査をお願いしますね」
「ひ~ん」
エリーさんは九年の付き合で、無遠慮なその振る舞いはわたくしにとって目上の友達や姉の様な存在です。
そのエリーさんのお願いは断りづらく、悪い気もしないので素直に聞き入れる訳ですが…。
「さぁて、灰の処理は村の人達にお任せするとして、いよいよ調査ですよ!」
「あのぉ、本当にやらなきゃダメ?ここ開けた丘陵地なんてないですよ?」
「グリフォンがいるじゃないですか」
「やっぱりいいいい!」
鉱山探索魔法は有用な鉱物の方向がわかるのですが、使用条件が厳しいのです。
「グリフォンに乗って大空から魔法を使うのが一番効率的なのですよね?」
そうなのです、空に制止できればそこで魔法を使って広範囲の探索が可能。
以前、エリーさんに相談されてそう答えたのです。
そのために空を飛ぶ魔法を研究したのですが、足が少し浮く程度で、その状態で制止する事すら難しいのと精神力の消耗が激しいので頓挫していたのです。
まぁ、一度だけ成果が出た事があります。
正確には魔法が暴走して大空に…。
うう、思い出したくない事を思い出してしまいました。
それ以来、高い所が苦手になったのです。
帰りは馬車で帰りたいなぁと思う所ではありますが、授業があるのでそうもいきません。
「クゥエァ、クゥエァ」
「ほら、グリフォンも気にしているじゃないですか、折角背に乗せた子どもが泣いちゃ悲しみますよ」
「子どもって言わないでくさい!」
「クェエ、クェアア」
「ごめんなさいね、わたくし、グリフォン語はわからないのですよ」
「クゥエエ、クゥエエ、クゥエエ」
顔をスリスリしてくるのは可愛くもあり、気持ちよくもある。
わたくしだって、できれば仲良くしたい。
それには高所恐怖症という障害が立ち塞がるのですよ。
「怖がってごめんなさいね、あなたが怖いわけじゃないのよ」
「クエッ」
「名付けでもしてほしいんじゃないですか?」
「そうかな?じゃあ、う~んと、飛ぶ、空、天空、エンピリアン?長いなぁ、そこから取ってリアンならどう?」
「クエエエ、クエッ(嬉しい!)」
「喜んでもらえたみたいで、えええ?」
「どうされました?」
「リアンから、声が聞こえる……みたい」
「クエ、クゥェッ!(飛ぼうよ!)」
「え、やだ……」
「クゥエエ、クゥエエ(え~ん、え~ん)」
ああ、これやっぱり泣いているのですね。
仕方ないので撫でてご機嫌を取る。
「クゥエエエエ(寂しい…)」
「わ、わかりました、一緒に飛べばよいのですね…」
「クェエエァ(嬉しい!)」
「ついに飛ぶ決意ができたのですね、マーティン様を呼んできましょうか?」
「そ、そうですね、念のため」
◇
「シャーロット様、グリフォンを手懐けたって本当ですか!?」
「あ、はい、そうみたいです、名前を付けたら」
「名付けですか。声が聞こえたという事は、つまる所パスが繋がってしまったのですね」
「パス?」
「ええ、心を通わせることが出来る様になったのなら、パスが繋がった状態ですね」
「マーティン様も繋げれるのですか?」
「いえ、グリフォン一匹が繋げれるパスは一人だけなんです」
これ、王国飛行団からお借りたのグリフォンで、そのグリフォンとパスを繋げた。
それはつまり…。
「あの、これって、もしかして非常に…」
「ええ、そうです。結構マズイですね、こうなるとシャーロット様から離れない可能性が…」
「ま、まぁ、それは、はい、帰った時に相談しましょう。正直に言うしかないですし」
「そうですね、そうしましょう」
王国飛行団は設立五年と、まだ新しい部署で王家直轄となっている。
その王家の物を借りたまま返さないというのは、許されたものではないのです。
軍部とは切り離されていますが、戦時には軍部に協力するそうです。
わたくしはその軍部から目を付けられているのですから、軍部が騒ぎ立て、事が大きくなるのは間違いないでしょう。
「ところで、いまからグリフォンに乗られるのですか?」
「ええ、そうですね、仕方なく…」
「では行きましょうか、今日は前に乗ります?」
「え、いいのですか」
「はい、落ちたら大変ですからね」
一緒に乗って頂ける=また密着する。
と、言う事になるのですが、それは仕方ない話です。
「リアン、よろしくね」
「クゥエエッ!(うん!)」
リアンが気を使ってくれたのか、抑え目にはばたき、リアンが少し浮いたくらいだった。
今朝乗った時は、最初のはばたきがすさまじく、一気に高い所まで飛び立ったのに比べ、高さに対する恐怖はかなり少ない。
「リアン、ありがとう。気を使ってくれたのですね」
「クゥエエッ!(うん!)」
時間が経過するにつれて、どんどん高くなり、やがてジェンキンス公爵領の直轄地が全て見えた。
行きは殆ど目を瞑っていたのに、今は目を開けてられる。
視界が広い。
遠くまで見渡せる。
陽の星が眩く輝き、世界を照らしている。
その景色は宝物の様に美しく、そして尊い物だと思うと、怖くて今まで見なかったのが勿体なくなった。
「どうやら、怖くなくなった様ですね」
背後に居たマーティン様が耳元で囁く言葉に、全身の肌が悲鳴を上げた。
「ふひゃあああああああ!」
「クルルゥァ(どうしたの?)」
「だ、大丈夫、ちょっと驚いただけだから、……あの、マーティン様、できれば耳元で話すのを止めて頂けますか」
「ふむ、失礼した」
何か耳元で話されてから、心臓の鼓動が激しく周りの景色を見るどころではなくなりましたよ。
うう、おさまりなさい、私の鼓動!
「とりあえず、探知魔法を使うのですよね?」
「え、ええ、じゃあ使います」
『魅惑の章三節、地中に眠る魅惑の塊達よ、声を上げ我に届けたまえ。
風の章十九節、大気に溢れし精霊達よ、生命を宿さぬ声を増幅し、我に導き給え』
「魔法を二つ?」
「はい、この組み合わせで、地中の希少金属から囁きが聞こえてくるはずです、すこし手を離すので、支えてて貰えますか」
「わかった、こうかい?」
「うひっ……なんでもありません……」
片手はリアンの手綱を握っているので、支えるとなると片腕をお腹のあたりに回して支えるものだと思っていたのですが、体格差のせいかそれが胸に限りなく近い所を回している。
悪意はない、悪意はないのです。
どうせ平たくてわからないのでしょうが、そこはデリケートな場所だと大声で言いたい。
両手を広げ、目を閉じて、神経を集中する。
ここでの声というのは耳で聞こえる物ではなく、体でしか感じる事ができない。
神経を集中するといくつもの声の波紋を感じる。
その中でも複数の大きな声を出す場所があった。
対象に向かい、そっと目を開ける。
そこにあったのは鉱山の入り口。
「マーティン様、あそこに見える鉱山は何が採れていましたか?」
「あれは確か鉄鉱山だったかな、閉鎖して十年以上経つはずだ」
「行ってみましょう、あそこからレア素材の声がしました」
鉱山に入る為に一旦戻り、叔父様を連れて行く事にしました。
何かが住み着いているかも知れないので、武器や灯と言った準備も必要です。
その何かが魔獣だったら良いのですけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます