第23話 妹は見た

 王都のベッドは一味違いましたー!


 ベッドにダイブして、ジャスパー様に軽く注意される。

 この旅で度々行われた最早様式美みたいな行動となってしまったのですが、この宿屋はレベルが違い、超ふわふわです。

 サンダーズ商会という会社が経営している宿屋らしいです、いっそすべての街に支店があればいいのにと思う程です。


「王都だからでしょうか、街中が異様に騒がしかったですね~」

「そうじゃな、祭りでもあったのだろうか」

「祭り!?行きたい!行ってみたい!ねっねっ、良いでしょう?」

「行くのは構わぬが、本当にやってるかは知らんぞ」


 そうして外に出ましたが、祭りらしき気配は何処にもありません。

 その代わり崩壊した建物の周りに人が集まっています。


「王都にもボロボロに朽ち果てた建物があるのですね」

「そういう事もあるんじゃな」


 さらに人が多く集まっている所を探すと、何やら見覚えのある人がいました。


 どうしてお兄様がこんなところに!?


 嬉しい反面、ジャスパー様とのお別れを考えると素直に喜べません。


「ジャスパー様っ、ちょっと見て回ってきます、別行動しましょう!」


 そういって別れ、私は遠くに見えたお兄様に接触する事にしました。


 ですが。


 ですが、です。

 何やら、お兄様が小さな女の子に抱き着いているではないですか!

 由々しき事態です。

 学園に通い始めて、速攻で彼女作った!?

 早すぎます、早すぎです!


 しかも。

 しかも、です。

 その女の子は私と変わらない年齢じゃないですか。

 私と同じ十歳だったら、お兄様と四歳差です。

 どこで見つけたのですか!?

 学園は十四歳からですよね??

 まさか、誰かの使用人!?


 落ち着いて考えてみれば、私に対する愛情から私と近い年の子を選んでしまった?

 だとすれば、私は罪な女です。


「お兄様、お兄様」

「な、フィオレンサ!?どうしてここに?どうやって来たんだ!?」

「あら、妹のフィオレンサさんですね、こんにちわ、お兄さんの学友のシャーロットです宜しくね」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「お、シャーロット!シャーロットじゃないか」

「叔父様!丁度よかったですわ、前に言っていた──」


 ジャスパー様がお兄様の彼女の叔父様!?

 んん??つまり結婚に至れば、ジャスパー様は私にとっても叔父様に!?

 え、それって、すごく、すごくありです!

 でも早とちりの可能性もあります、ちゃんと確認しなくては。


「(お兄様、お兄様)」

「(なんだなんだ)」

「(シャーロット様とは結婚を前提にしたお付き合いですよね?)」

「(そうではないぞ)」


 違ったー!?あああああ、ヘタレかー!

 あれ?抱き着いていたのに付き合ってないなんて、まさか体だけの関係!?

 でも、気持ちが後からついて来る事もありますよね、大丈夫まだ絶望する時間じゃない。


「(そんな……、お嫌いなのですか?)」

「(いや、好ましくは思ってるぞ?)」

「(でしたら、正式に婚約なさいませ!シャーロット様以外の方は私が許しません!)」

「(大きなお世話だ!そう簡単に行くわけがないだろう)」

「(でしたら、私がお願いしてきます)」

「(ちょ、ちょっとまて、まってー!)」


 ちょっと強引かもしれませんが、お兄様は奥手なのかもしれません。

 このタイミングを逃してなるものですか。


「シャーロット様、シャーロット様」

「なにからしら?」

「シャーロット様は、私みたいな妹が欲しくないですか??」

「欲しいですね、フィオレンサさんはお可愛いですから」

「でしたら、お兄様とこんやもごもごもごおおおおおお」

「あはははは、フィオレンサは何言ってるんだい~。ちょっと落ち着こうなぁ、ちょっとお兄様とお話しようかぁ」


 なぜか、お兄様が邪魔をする!

 どうして?どうして邪魔を?

 お兄様の為でもあるのですよ!?

 ちょっと離れた所に連れられ、改めて話が始まります。


「だからな、シャーロット様には婚約者がいるんだ」

「という事は………略奪愛?いいじゃないですか、略奪愛です!」

「いやいや、それは大変な事になる、シャーロット様の婚約者は第二王子なんだ」


 がああああああああああん。

 殿下の婚約者を奪った場合って、どうなるのでしょう?

 何の罪?罪じゃなくても風当りきつくなる?


「その婚約者ってどのような方なのでしょうか」

「えっと、あちらの方で騎士と話をして言える、すこし横に大きな方だ」

「ふ、ふふふふ、ふふふふふふふ、あれならお兄様の圧勝です、この勝負余裕で勝てますよ」

「何の勝負だよっ!」

「私に任せてください、必ずやシャーロット様の心をお兄様に向けて差し上げます!」

「お願い、お願いだから、波風立てないで……」


 改めて、シャーロット様の元に駆け付け、攻略トークです。


「シャーロット様、シャーロット様」

「あ、フィオレンサさん、丁度よかった、紹介しますね、私の叔父の──、え?知ってる?一緒に王都まで旅をしてきた?」

「その通りですよ、シャーロット」

「でしたら話は早いですね、えーと、叔父様、お連れの人っていつ頃、王都に到着予定でしたっけ?」

「今日中に到着する予定となっております」

「でしたら、わたくしの騎士を五人連れてジェンキンス公爵領に行ってもらえます?」

「はい、いよいよですな」


 何の話でしょう?私、なにやら話題から置いてけぼりを食らっています??


「あの、どういう事でしょう?」

「あああ、ごめんなさい、ちゃんと説明します」


 その説明を聞き終わった頃には、目が点になっていました。


「じゃあジャスパー様がしばらく一緒に居てくれるという事ですか?」

「はい、お兄さんが卒業して引継ぎが完了するまでですね」

「じゃあじゃあ、あの叔母とかいとこは?」

「どうしたいですか?わたくしはし資産没収の上、領外追放が妥当だと思いますよ、共犯の使用人も全員クビにしちゃいましょう」

「そして新しい使用人を雇って、ジャスパー様が教育を施して頂ける……」

「そうですよ、あれ?あれれ、どうしました?急に俯いて、涙まで、あらあら、どうしたら……」

「シャーロット、これは嬉し涙ですよ」

「はい、今までの悪夢の様な生活が急に解決したのです、こんな嬉しい事はありません」

「そうですなぁ、シャーロットも立ち会ってくれぬか」

「えええ、一応学業があるのですよ?往復で二週間もお休みはちょっと……」

「次の休息日に向こうで落ち合いましょう、王都ならグリフォンライダーを借りれるでしょう、さすれば往復できましょう」

「グリフォンライダー?なんですそれ?」


 シャーロット様はグリフォンライダーも知らないのですね、意外と物知らずなのでしょうか。


 それから色々とお話を聞くと、お兄様と同じ十四歳と判明。

 うわあ、としか言えない感じが凄いです。

 こういうのなんていうのでしたっけ?合法ロリ?

 ああ、このあたりは口にしてはいけない言葉の様な気がします。


 さらにはアルヴァレズ公爵令嬢というのです、という事は伝説の鬼人です。

 ちょっと背筋がゾクっとしました。

 ですが身内なら頼もしい限りじゃないですか。


 結局、蜻蛉返りになりますが、明日には王都を出発し我が家に戻る事になりました。

 残念ながら、私にジャスパー様を攻略する時間は無さそうです。

 次の休息日にたどり着けるように移動するので、七日間の旅になります。

 それはそれで、嬉しくて口角が緩みます。


 目標が出来ました。

 お兄様とシャーロット様をくっつける。

 駄目なら、ジャスパー様に私を……。

 うわああああ、なしなし、なんて事を想像してるのっ。

 うう、変に意識し始めたから今晩同じ宿に泊まる事自体に緊張してしまいます。

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