第21話 断罪
立ち去ったヒナノさんを見ていたマイルズ様が口を開く。
「今のは祈祷式の魔術ですね」
「祈祷式?無詠唱とは違うのですか?」
「ええ、一般的には神官たちが使うもので、神に祈りを捧げて奇跡を起こすとされていますね、ふふ、公爵領には教会がないので見た事がないのですね」
「ふ~ん、便利なものですね、そうなると体内魔力の消費は無いという訳ですか?」
「そうです、たたその反面、神聖力を消耗すると言われています。ただ、その神聖力が毎日手を合わせて祈る事で貯まるらしいですよ。お手軽な反面、日頃の行いがモノを言うとそうです」
わたくしもでも貯めれるでしょうか。
回復魔法は習得していないので、覚える事が出来れば何かと助かりますね。
「にしても、わたくしの事を知っていましたね、警戒しなくては…」
「……姫様って自分の容姿が個性的だって気づいてないですよね。王都に来ている事も噂で流れていますし、平民の方でも気づいている方は居ます、我々は冷や冷やしていたんですよ、王子もわかって連れ出したんでしょ。ちゃんと守ってくださいよ」
「あ、ああ、次は必ず…」
「それでは、学園に戻ったら特別コーチをして差し上げますよ、毎日ね」
「お……おう…頼む」
それから、罪人と向き合う事となりました。
物語に出てくる裁判所よりは簡易な建物で被告人を中心に取り囲むようにわたくしたち原告、弁護人、憲兵、裁判長が席に着きます。
裁判長は平民ながら爵位持ちという準男爵から選ばれる事が慣例となっているそうです、ここでの判決は国王陛下に報告され承認されると刑が確定するという流れとなります。
最初の聴収は一番ギャーギャーと騒ぎ立てる成金風オバサン、名前は確かセレサでしたか。
裁判長、サンディー・クルコヴァ準男爵が通りの良い声で罪状を読み上げる。
「シャーロット・アルヴァレズ公爵令嬢の誘拐と殺人未遂及び禁止薬物の使用に他国との内通罪、以上を認めますか」
「待ってください、それは何かの間違いではないでしょうか、あの五人組のチンピラなら私とは関係ありません、奴らが勝手にした事です、それに証拠はないのでしょう?とんだ言いがかりです、むしろ私の酒場を破壊したアルヴァレズの娘に賠償請求を起こします!ああ、無理でしたらサンダーズ商会が立て替えても良いのですよ」
「セレサ様!なんでそんな事を言うんだ!俺達がいままでどれだけセレサ様に尽くしてきたか──」
「おだまりなさい!由緒あるグラスナイト男爵家はこの様な者達と何ら関係はありません」
何かここはツッコミどころかともい小声で確認を取る。
「(ねぇ、エレノアさん、由緒ってどれくらいあるの?)」
「(えっとですね、貴族になってからという意味では数年、商会という意味であれば三十年くらいですね)」
「(由緒ある男爵系って言っちゃってるよ?)」
「(夫人にとっては、この数年が随分重いのでしょうね)」
「(重い想いね………ふふ)」
「(えーと………はい?)」
次の聴収はヴァンス・ジェンキンス、マーティン様の叔父さんで、着せ替え叔父さんです。
「罪状はセレサ・グラスナイトと同じとなる、相違ないか?」
「相違あります!アルヴァレズ公爵令嬢への殺害しようとする者から守ろうとしたのですよ?誘拐はセレサがやった事、私に限り殺人未遂はお門違いです!」
「であれば、禁止薬物の使用に他国との内通罪は認めるという事ですか?」
「ん、えーと、それはどうでしょう?私には覚えのない事ですな。何か証拠でもあるというのですかな?」
次は隣国ハフネット共和国のトレヴァーという者。
「罪状はセレサ・グラスナイトと同じとなる、相違ないか?」
「相違ありません。痺れ薬に関してはそこの金髪の者に言われてやりました」
「異議あり!僕はお前の事なんて知らないぞ、出鱈目な事を言うな!」
「焼肉串屋でお会いしたじゃないですか、その時に痺れ薬を手渡して仕込んでくれと頼みましたよね?」
「してない!姫っ信じてください、絶対にしてないと誓います」
えっと、またこのパターンですか。
もちろん信じてはいますが、周りの人はどうでしょう。
これは徹底的に論破する必要があるという事ですね。
「では、わたくしからもトレヴァーさんに質問をさせて頂きますね、よろしいですか裁判長」
「許可します」
「コホン、それではまずは痺れ薬を手渡されて仕込む事で、店の評判が落ちるとは思わなかったのですか?」
「ええ、その時はまさか、それが痺れ薬とは思いませんでしたから」
「でも、味が変化しますよね?得体の知れない何かを掛ける事への抵抗があるでしょう?」
「ですが、通常の料金の十倍も渡されれば従うしかないでじゃないですか」
「お店の評判を気にせずに、たった焼肉串九本分で買収されたのですね、次の質問です、なぜ酒場に居たのでしょう?」
「それは偶々お店の前を通り過ぎた所、瓦礫に巻き込まれて…」
「わたくし、トレヴァーさんの顔を覚えているのですけど?酒場の二階が崩壊した時、二階の一室に居ましたよね?」
「そ、それは、ハフネットの人間はそちらから見れば似たような顔に──」
「質問は以上です、こちらの証拠とそてら立体記録媒体を提出します」
「ほう、立体記録媒体ですか」
立体記録媒体、わたくしの付けていたイアリングから映像や音声を記録し保管した情報が詰まった物です。
立体再現機という、ちょっと馬鹿みたいな値段する機材ですが、音声付き映像をそのまま再現可能なのです、それを今から見せる訳ですね。
映像は串屋のシーンが映った所で一旦止めました。
「まず、焼肉串屋の店主の顔が違い過ぎるのでトレヴァーさんではない事が明白ですね、では次です」
「ぐぬぬっ」
次の映像はクライアントが入って来る前のヴァンスさんが薬物の事を話しているシーン。
「このように、禁止薬物を用いるように指示を出しています、所持だけでも厳罰ものでしたよね?」
「ふむ、仕方あるまい、大人しく認めよう、私の
「はいはい、その事はどうでもいいので次です」
次の映像はセレサさんやヴァンスさんと話している時の映像。
「このように二人が結託し、ハフネット共和国の人間をクライアントと呼んでいる事がわかります」
「捏造だわ!これは嘘よ!」
「おい、もう諦めろ、私達はまんまと嵌められたんだ」
「ヴァンス!裏切るのね!?貴方の行いを全部明るみにしてもいいのよ?当主を殺そうとしたことも含めてね!」
会場が騒めく。
それ以上に、みなさんわかって居ない事柄があるのですよね。
このままでは収集つかなくなりそうですし、混乱に乗じてトレヴァーさんが何かしそうな気配があるので、ここで幕引きとしましょうか。
「裁判長、もう一つ、映像でお見せした様に、こちらのルーカス様は暴行を受けています」
「ふむ、そにょうですな。その、そちらのお方はもしや」
「はい、ルーカス・ベリサリオ殿下、この王国の第二王子になります。王族に対する暴行、その幇助を考慮に入れてください」
「これは失礼しました、最近は金髪のカツラが流行っておりまして、まさか本物の王族だとは思わず…」
「その事は良い、慣例に従って裁判を続けてくれ」
まぁ、王族に対する暴行その幇助なんて、だいたい死刑なんですけどね。
最初から、その事を言えば良かったのにって思いますが、それではつまらな……ではなく、王族の存在は隠せるなら隠した方がいいですよね。
それに、裁判長も殿下だと気づいていなかった様ですし、どこまで足掻くか見てみたかったのですよね。
結果、ヴァンス・ジェンキンスは禁固刑、セレサ・グラスナイトは絞首刑、トレヴァーは外交問題になるとして国王に判断を仰ぐ事になった。
その後にグラスナイト商会に調査が入った結果、悪行が明るみになり廃業とされ、爵位剥奪まで決まり、セレサさんの夫も禁固刑となった。
死刑を免れたのは罪を全て『妻のやった事だ』と擦り付けた結果だそうです。
それによってジェンキンス家の借金等は帳消しとなり、エレノアさんやマーティン様にとってはこの上ない結末だったのではないでしょうか。
「マーティン様、よかったですね」
「ありがとうございます、ですが、これで学園を去らなくてはいけなくなりました」
「その事なのですが、当面の領地経営をわたくしの叔父に任せる気はありませんか?」
「叔父ですか?」
不思議な提案だったのか、マーティン様の頭上にハテナマークが浮いてる感じで首を傾けます。
「ええ、叔父はわたくしの先生でもあるのです。経営の腕は確かですよ。数人の使用人と共に雇って頂ければ、承認だけをマーティン様に行っていただく感じで、あ、勿論、学園に居てできる様にしますわ、書類もわかりやすく纏めてくれるので、わたくしでも余裕で経営出来たくらいです。一度会って考えてください、後必要であれば教育係もしてくれると思いますよ」
説明に『女性の使用人も付いてきますよ』と補足を入れた。
マーティン様には妹さんが居るらしく、まだ幼いのですが、唯一味方だった使用人を学園に連れてきてしまった為、苦労をさせられているという可能性が高いと報告書にありました。
それを気にかけていたのか、その補足の一言で顔色が一気に明るくなります。
「今は何をされておられるのですか?」
「わたくしが経営していた領地を代理経営してのんびり過ごしていますわ、常々安定しすぎてつまらないとボヤいているくらいです。その領地を引き継げる者は居るのでご心配には及びません、実はもうある程度話はまとまっていますので、後は…」
「はい、是非にお願いします」
マーティン様はその喜び様は、まだ学生で居たいというのもあったのでしょうね。
その後の対応の話をした結果、感極まってか、わたくしを抱きしめては『ありがとう、ありがとう』と何度も感謝を述べた。
話がまとまったところで、エレノアさんが話しかけてきました。
「だいたい片付いた様ですね、所でシャーロット様?瓦礫の中に、試着していた服が見当たらなかったのですがご存じありませんか?ありません?ありますよね?」
わたくしよりも背の高いエレノアさんがわざわざ下から上目遣いにイヤラシイ目つきで目線を合わせてきます。
「な、何の事デショーね?」
「いいんですよ、あとで着ている所を私にも見せて頂ければそれで」
「(バレテタ……)」
「ばればれですよ、まったく、あのような服が好きなのでしたら私がプレゼントするのに」
「ですが、あの服子どもっぽかったでしょう?皆さんの前出来るのはちょっと…」
「はいはい」
そうして、ぽんぽんと頭を叩かれる。
姉がいればこんな感じなのかもしれないと思うと悪い気分ではいです。
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