第20話 ぽにょぽにょ
ぽにょぽにょ
ぽにょぽにょ
何度も確認してしまう。
ぽにょぽにょした気持ちの良いクッションの上にわたくしは寝ていた様です。
そうですか、ようやく堅い冷たい床から解放されてたのですね。
それにしても気持ちいいクッションです。
盛られた薬も抜けたみたいで、すっきりし…していません、なんだか口の中が酸っぱい。
目を開くと思考が停止した。
ぽにょぽにょしたクッションがルーカス様のお腹でした。
咄嗟に離れたのに動悸が激しくなかなか収まらない。
思考はまとまらず、頭が沸騰しそうな感じがする。
ルーカス様の表情を確認すると、何故か気を失っている。
つい手が伸びる。
お腹をつつき、クッション性を確かめた後、手の平で少し押したり撫でたりしてみた。
さっきの気持ち良い感触は何だったのか。
もう一度抱き着きたいという欲にかられ、無意識にお腹に耳を当てる。
これは生きているかの確認であって、クッション性をああああああ。
きもちいい。
思わず正面から顔をうずめたくなる欲求が高まり、禁断の扉を開けるべきか脳内で激しいバトルが繰り広げられた。
「あの、シャーロット姫、お怪我はありませんか?」
その声はルーカス様に間違いなく、この状況を見られた事で軽蔑されるのではないかと硬直してしまう。
「ハイ、ダイジョウブデス」
「それはよかった。酒場の二階が崩壊して、瓦礫と共に姫が落ちて来た時はどうなるかと思いましたよ」
「つまり、受け止めてくれたという事ですか?」
「そうなります、衝撃波に当てられて意識が朦朧とした中での事だったので、上手に受け止めれたのか心配でしたね。でもよかった、無事で本当によかった」
「わたくしなんかのために心配かけて、すみません…」
この時になってようやく、わたくしのしてしまった事の罪悪感が押し寄せてくる。
予定ではあっさり捕まった後、相手の関係性を暴いて颯爽と逃げる予定だったのです。
それに、事前にルーカス様にも言っておくべきだった事と、まさか薬で身動きが取れなくなるとは思っていなかったとか、失敗だらけでした。
騎士の皆さんとエレノアさんに強力して貰っていたので大事には至らなかったのは不幸中の幸いです。
「どうですか?いいクッションでしょう?」
「え、えーと、そのですね、ルーカス様が気を失っていたので、生存確認をですね、しててですね。つまりですね、これは必要な事でしてね、ええっと、じゃあ生きていたという事で…」
名残惜しいですが、お腹から離れた。
改めて周りを見渡すと、それはそれで壮絶な光景が広がっていました。
吹き抜けてしまった天井、というか二階部分と屋根が跡形もなく、一階ですら半壊しているのだから、どれだけの怪我人が出た事やら……。
騎士団の皆さんは!?
立ち上がり周りを見渡すと騎士団の皆さんは活動を始め、拘束した人達を一か所に集めていた。
もちろん、指揮していたのは団長だ。
「メルヴィル様!」
「姫様!気が付いたのですね、体調は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ、できれば何か飲み物はないでしょうか」
「マイルズ!姫様に、水を」
「はっ!」
マイルズ様は副団長でメルヴィル様が一番信頼を置いてる部下です。
「姫様、水です。無理に魔法を使ったので吐かれてしまったのですね、口の中が気持ち悪いでしょう」
「ありがとう」
何故、口の中が気持ち悪いと知っているのでしょう?
うがいして吐き出したい所、外聞からそうも出来ないので飲み込んでしまいます。
このタイミングで色々思い出してしまった。
メルヴィル様が油断をしたところを拘束された男の一人がニヤリと笑った。
嫌な予感は的中し、その男の体は赤く膨れ上がった。
自爆だった。
咄嗟に無詠唱魔術を使い、建物内の生きている人全員に障壁を展開した。
無詠唱魔術は体に強い負荷をかけるのと、ただでさえ薬の影響で歩く事も起き上がる事もままならず、さらに体内の魔力循環が異常な状態で強力な魔法を行使した事でその反動は胃袋を直撃、お昼に食べた物を全部吐き出してしまった。
あああああ、勿体ない。
イメージ的にも悪いですし、その時の絵ずらは想像したくもないです。
ですが、覚えているのもそこまでで、自爆の衝撃を感じる間もなく気を失ったのは無詠唱の反動です。
あれ?体への負荷は?無詠唱の代償は?
そう思った途端だ、体中の痛覚が敏感になったかのように全身に激痛が走った。
酷い筋肉痛というレベルを超え、全身が今にもバラバラになる様な感覚。
以前、無詠唱を使った時も酷かったけど、今回は比較にならない程酷い。
仕方がないのですよ、緊急事態だったのですからと、自分を慰める。
立っているのも辛いので、適当な所にすわっていると、声をかけてきた女性がいました。
「大丈夫ですか?」
「はい、ご心配なく、少し疲れただけですわ」
「顔色があまり大丈夫そうにないですよ。ちょっとじっとしていてくださいね」
女性はそう言うと、お祈りでもしているかのように胸元で手を重ね目を瞑った。
その時、わたくしとその女性の体が温かい光につつまれ、わたくしの体の痛みはなくなっていました。
「ありがとうございます、これは回復魔法ですか?しかも無詠唱……」
「いえいえ、そんな大層な物ではありませんよ、連れが待っているので失礼しますね」
「あの、お名前を教えてください」
「ヒナノです、またお会いしましょうね、シャーロットちゃん」
「ちゃんって子ども扱いしないでください!」
わたくしの言葉を聞き流したのか、彼女はひらりと身をひるがえし楽しそうに立ち去って行った。
その直後に気付いてしまった。
彼女がわたくしの名前を知っているのかという事を。
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