第19話 騎士メルヴィル
グラスナイト商会直営酒場周辺
シャーロット姫付き騎士団団長メルヴィル視点──
我らは十人からなる騎士団だ。
今回は隠密を意識して静音性が高く防御力もあるレザープレート装備一式と狭くても戦えるようにショートソードといった武装で酒場の周りに分散し潜伏していた。
耳に付けていた通信機から発せられるはずの合図をじっと待っていた。
我らの姫様が何者かに誘拐され、軟禁されているのだ。
この国の王子とやらが不甲斐ないせいでその事態になった。
だが、この事態になる事は姫様はお見通しで対抗策をいくつも講じていると自信たっぷりに言っていた。
王都に来てからできた
こんな敵地のど真ん中で姫様に
だからこそ、このタイミングまで我慢できていた。
だが、時間が掛かりすぎる!
内部では何やら着替えさせられているという情報があった。
イカガワシイ服を着せられているのかと焦ったが、どうやら
しかも、しかもだ!
姫様は嬉々として着替えていると言うではないか。
そんな姫様を見た事がない!俺も見たい!
姫様が夢中になる事は王子に対する事だけかと思っていた自分が恥ずかしい。
今度、俺も姫様に可愛い服をプレゼントしようと決断した。
『お前らはどうする?』
『考えている事は同じです。もちろん、一口乗ります』
『俺も』
『当然』
全員の気持ちが一つになったのがわかる。
有名ブランドであればかなり高いのかもしれないが、十人も居ればどうにか買えるだろう。
しかし、問題は誰が手渡すかという事だ。
こういう事は団長の俺が行うべきだ、きっと騎士団の皆は分かってくれるだろう
アルヴァレズ領に戻ったら、プレゼントを渡して喜んで貰うのだ。
その話を聞いた瞬間、戦慄が走った。
どうして姫様のスリーサイズ等を知っているのか?
そこまで仲が良くなったという事なら
そうだ、今度から姐さんと呼ばせてもらおう。
『なぁ、プレゼントの手渡し、俺にやらせてくれないかな』
騎士団の中でも一番の若手が言い出した。
『ただではその役割は譲れないな』
『ならば、俺だけが知っている姫様の秘密を教える、それじゃダメか?』
『先ずは言ってみろ、ツマラナイ話だったら、トレーニング十倍にするからな』
『実は姫様が誰かの横に立つ時、こっそり浮遊魔法で背丈を高く見せているんだ』
『マジか…、顔ばっかり見ているせいで気づいていなかったぞ』
『しかも浮ている状態で身長の話題を出しては、背が伸びたとアピールするんだぞ』
『やばいな、小さな子が背伸びしているようなものか、なんだか胸がぎゅっと来る話だな。今度背丈の話が出たら確認してみよう』
『おい、気づいてもあえて見なかった振りをするんだぞ』
『もちろんだ、仕方ねえな、手渡しはお前の役割だよ』
俺達が、ここまで姫様を可愛がる理由。
初めて会ったのは終戦の要因となったあの大魔法を姫様が使う前日の話になる。
終わりの見えない連日の戦闘に疲れ、そろそろ俺の部隊から戦死者が大量に出ても可笑しくないと思われた状況で姫様が現れた。
『ねぇ、あの敵の大軍をわたくしがやっつけたら、わたくし付の騎士になってくれる?いいの?じゃあ、約束ね!』
大人でも出来っこない事だからと、気軽に約束してしまった。
俺達は敵の魔法使いを甘く見ていたのだ。
外道に落ちてまで勝ちたいという執念からの反撃に、俺達はやられたのだ。
翌日には総攻撃を仕掛けると警告し、降伏を求めて来た。
そんなお先が見えない状況に、姫様の天使の様な笑顔で明日も頑張ろうと思った。
翌日、約束を遂げた姫様は微笑みながら『約束覚えているよね?』と言い残し、死んだように眠りにつき、そのまま何日も目を覚まさなかった。
目を覚ますまでの間に騎士の件を姫様の父上、当時の王子殿下に話を通した上で、俺の隊から騎士を募集し、今のメンバーが集まった。
五歳の姫様に対する感情は、父親のそれと言っても良いだろう。
婚約が決まった時など王子殿下と騎士団の全員で朝までやけ酒をして、早朝に姫様から酷く怒られたのを覚えている。
学園に行くと言い出した時はいよいよ婚約者の暗殺計画まで企てたくらいだ。
もちろん、陛下も一緒に考え、一緒に怒られた。
騎士になって九年もの間、王国で言う伯爵にも匹敵する大きさの領地を開拓する事業を手掛け、見事に成功させた。
ただ開拓するだけではなく、姫様と俺達騎士団は魔物退治に精を出した。
高貴な身分に生まれながら着飾ると言った一切の贅沢をせず、平民と同じ様な服装で暮らし、同じものを食べていた。
欲しい物は何かと聞けば『居住区の安全かな』とか言い出す始末。
結果、魔物退治に明け暮れ、その成果を見せる事で大喜びしてくれたが、その喜びには俺達が見たい笑顔は無かった。
そんな回想をしていると姐さんから待望の合図がきた。
『合図が来た。これより我らの本分を全うし姫様を救出する』
『『はっ』』
二人一組で行動した。
突入と言っても酒場では焦らず歩いて行くだけだ。
客に騒がれては混乱に乗じて何が起こるかわからない。
店員が何か話してくるのを無視して、我らは二階に向かう。
二階が宿屋になっているらしく、通路には誘拐を実行した五人の男が居た。
素早いナイフ投擲により二人を無力化。
武器を構える間も声を上げる間もなく、残りの三人に当て身で無力化。
手ごたえがない、王子はこんなのに後れを取ったのかと思うとがっかりする。
こうなったら我らで鍛え直さねばならない。
誰か一人を姫様の護衛と称して、王子を鍛え上げる役割に当てようかと考えた。
『二階五人制圧、各自状況』
『裏口、六人制圧、待機する』
『窓から逃亡する者なし』
『店内、店員に動きなし』
『表、挙動のおかしい者を一人拘束』
敵としてつまらない。
姫様が強敵が出てくるかもしれないから楽しみにしていてと言っていたのに、実体はこれだ。
姫様の想定以上に敵が弱かっただけかもしれない。
廊下ですれ違いざまに無警戒な二人を拘束。
相手は声を上げる事も出来ず、ただ何をされたかもわからないまま気絶した。
まだ襲撃されている事を察知していないという状況らしい。
「お粗末にも程があるぞ」
「団長、この者は隣国の者みたいですね」
「あの五月蠅い国か」
隣国というのは半島を拠点として王国とだけ国境を有しているハフネット共和国。
共和国と名乗ってはいるが軍部による独裁国家だ。
独裁国家になってからの年月は二十年と長く、王国との小競り合いは今でも続いているという。
実際、公国と王国が終戦を迎えようとしていた最中にも大規模な攻撃を行っていた。
その時にアルヴァレズ公が一軍を率いて暴れた事で戦火は一旦収まり、それ以来大規模な戦闘はないらしく、実質的に停戦状態にあった。
ある意味、その時の事を恨んでいるかと思ったが、時にアルヴァレズ公爵領に使者を寄越したり、貿易を持ちかけたりする。
それは友好の証だといいつつ、王国からの独立を促すあたり我らが邪魔なのだと言う事は明白だった。
というか、公国と一緒に戦う事で挟み撃ちにできるとでも思ったのだろうな。
「領主様に報告せねばな、それよりいよいよだな」
「はい、残りはこの対象の部屋だけです」
『団長、殿下とエレノア姐さん、ジェンキンス公が表に到着しました』
『二階にお通ししろ』
『
さて、姐さん達が来る前に姫様を救出せねばな。
『これより姫様の居る部屋に突入する』
『頼みましたよ、団長』
コンコン
部屋のドアをノックすると不用心な敵が一人、のこのこと出て来た。
だが、部屋の外には誰もおらず、きょろきょろと見渡す。
真上に居る事も気づかない、俺はドアの真上から鏡を使い内部の様子を確認する。
床に倒れ込んでいる姫様以外には、四人の要人と二人のメイド、二人の使用人。
外に出た奴を除けば二対八、十分な勝機があると判断した。
ドアを閉め外に出た間抜けを無力化。
改めてドアを開け、一気に制圧する。
男を優先して無力化した後、ケバい女、そしてメイド二人の無力化。
簡単だった。
あまりにも簡単な仕事過ぎた。
だが、姫様が無事が一番なのだから、そのような事は些細な事だった。
話では姫様は、複数の薬によってまともに話せなくなって、体の自由も奪われていると聞いていた。
だからこそ、安心して頂く為に、俺は満面の笑みでこう言った。
「姫様、貴女の騎士メルヴィルがお救いに参りました!」
「メルヴィル…様…あぶ──」
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