第13話 サッパリして頂きます

「ルーカス様、お願いがあります」

「何でしょう、僕で出来る事であれば、何でも言ってください」

「それでは──」


 床につるつるした大きな布を広げ、その上に椅子を置きます。


「ここに座ってください」

「はい」


 大きなつるつるした布でルーカス様を包み込み、テルテル坊主の完成です。

 ついでにこっそりと拘束魔法をかけておきます。


「苦しくありませんか?」

「はい、ですが何を始めるのでしょうか、先ほどから身動きが一切取れないのですが…あの、拷問ですか?でしたら優しくして…」

「いえいえ、これから行うのは、そのふざけた髪型を整えるだけですわ。有体に言えば散髪と言います」

「やっぱり!ダメです、それだけはお願いですから」

「だめですよ~、こんなアフロみたいにちりぢりになった髪型では私の気が散って仕方がありませんからね、綺麗に整えてあげますわ」


 ジョキジョキと、次々に切られていく髪。

 その事に震え怯えるルーカス様。

 その理由もなんとなくわかっているのですけどね。


 暫くすると諦めたようで大人しくなり、眼鏡をはずす事も抵抗しませんでした。

 散髪も終わり、さっぱりした姿をじっくり観察します。


「やはりそうでしたか。貴方は誰なのです?」

「ルーカスですよ…」

「違いますよね?第三王子様ですよね?」

「どうしてそれを…」


 ついに正体を認めてしまいましたか。

 まぁ本物のお顔は五歳の時に完全に覚えましたから、素顔が見えれば別人だとわかったのですよね。


「あ、いえ、ただの消去法ですわ、ホクロの位置で別人だという事は明白になりましたし、金髪である以上は王族なのでしょう。王弟様にはまだ子どもがいないと聞いていましたから、現王様の隠し子という噂が本当にあったとしか思えないのです」

「なるほど、仕方がありません、正直に言います。僕の名前はサイラス・ベリサリオです。これでご満足ですか」

「いえいえ、満足には程遠いですわ。そのルーカス様は今どこで何をしておられるのでしょうか?」

「実は…、去年召喚された異世界人に惚れこんでいて……、口説くのに忙しく……」


「あぁ…、そういう…。えっと、貴方をと見込んでお願いします」

「何でしょうか」

「貴方にこれ以上の危害を及ばせない為にも、わたくしと婚約破棄すると言ってください。貴方の立場を保護するためなら、なんでもしますから」


 公の場では、現状、この人がなのですから、婚約破棄は有効だと思うのです。

 どれだけ恰好が良くても美男子でも、替え玉を用意するような人と結婚したくありませんからね。


「逆にお尋ねします。貴女から婚約破棄を言えば良いのではないですか?どうしてそうしないのでしょうか」

「お爺様の言いつけですから逆らえないのですわ。ですからルーカス様に言って頂きたいのです」

「申訳ありませんが、それは僕にもできません。兄から王家の誇りを傷つけない形でシャーロット様に言わせるようにとの命令ですので」

「…ふむ、だから情けない姿を度々アピールしていたと?それで呆れると思ったのですね?」

「ええ、こんな姿ですし嫌いになればと思い…。でも僕が浮気したとか犯罪したという理由では承諾できないのです。シャーロット様が自分勝手に破棄するという形以外…」

「それは、わたくし的にもあり得ませんね」


「「これでは平行線…」」


「では本物に掛け合うしかありませんね」

「そうしてください、王宮に居ますから」


「所で、サイラス様とクレアさんの関係って何なのです?将来を誓った仲ですか?」

「そういう関係ではないです、こんな見た目ですから好きにはなってくれないですよ。言うなれば家族というか姉のような存在です。宮内の食事がままならくなってから食べ物を街で買って来てくれたのですよ。そういう意味では命の恩人なんですよ」


 なるほど、それで太った体形を維持できていると…。

 いっそ断食ダイエットでもすればいいのに。


「身代わりっていつからしていたのですか?」

「ルーカス様が毒殺を恐れはじめてからなので、八歳の時からです」

「そうですか、六年も暗殺の恐怖と戦っていたのですね、お可哀想に…」


 そっと、サイラス様の頭を撫でる。

 ルーカス様に代わって危険を一身に受けていたのでしょう。

 その苦労、報われて欲しい物です。


「シャーロット姫が王都に来てからは、身の回りの脅威は減りましたよ。僕を殺害するより波風が立たないと思ったのでしょう」

「まぁ、王族と公爵令嬢では命の重みが違いますからね、しかもわたくしの立場はここではかなり悪いですし、わたくしが死ねば喜ぶ人が大勢いしるのでしょうね。わかっていた事ですが」


「姫は………、僕の事が嫌いでしょうか」

「う~ん、見た目上は好きではないですね。中身はよくわかりません、今までだって嫌われようとしていたのでしょう?」

「はい」


「ルーカス様に仕返ししたいですよね」

「僕に可能でしょうか」


「ええ、先ずは格好良くなりましょう。ベースは悪くないのですから。ですが無理なダイエットはダメですよ。ゆっくり痩せましょう。食事も栄養価を考えて作るので間食だけはやめてください。ジョギングも続けていれば、卒業までに見違えるでしょうね。仕返しはそれまでにじっくり考えてもいいのですよ」


「仕返しですが、僕は本物のルーカスになりたい!この名前を完全に乗っ取ってしまいたい」

「いいですね。その決意、好きですよ、元はルーカス様が蒔いた種ですからね、それくらい当然でしょう」


 わたくし達は同時に笑みがこぼれた。

 これが恋愛に繋がるかは別として、同じ目標が出来たのです。

 私はルーカス様に厳しく当たる必要が無くなりますし、ルーカス様もわざわざ悪い面を見せる必要は無くなったわけです。


「わたくし達はこれから戦友になるのかもしれませんね」

「共同戦線ですね。少しは僕に頼ってくださいね」

「ふふ、いい顔するようになりましたね、サッパリしただけありますわ」


 髪を切っただけでかなり印象が変わった。

 その印象は本物のルーカス様に少し面影があり、さすが兄弟と言ったところでしょう。

 今後が楽しみですね。

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