第12話 証拠
『──では、あのチビ女が婚約破棄を考えると言ったんだな?』
『はい、そうです』
『見た目だけであればデブ王子とお似合いなのだがな、あんなチビ女が王族になるなんて認められん、このまま婚約破棄させねばならん…』
『どうしてそこまでされるのですか?別に悪い人には見えないのですが…』
『エリン?王国にとってアイツは復讐すべき相手なんだ』
『復讐?』
『そうだ、アイツは九年前、一万人の虐殺を行った。私の父上もそれに巻き込まれ戦死した。爵位は引き継げたが私が幼過ぎた為、後見人の叔父上に実権を握られ好き放題された、今では私の味方はおらず、財政も火の車で傍仕えもお前を雇うので精一杯だ。それもこれも全部アイツが悪い!あのチビ女さえいなければ!』
『それでは王子を説得して婚約破棄させればいいのでは…』
『それはダメだ。デブ王子から婚約破棄を言い渡すと王族側としては代役を立てねばいけなくなり、最悪は王太子の婚約話が浮上する。王太子もさっさと結婚なり婚約なりすればいい物をいつまで独身貴族を楽しんでいるのかわからん。エリンだって王子に罠をかける為に一肌脱いだというのに、それが無駄になるのは嫌だろう?これが成功すれば、軍部から多額の報酬が手に入る、そうなればエリンの給料も上げれるんだぞ』
『でも私は──』
ピッ
「以上がマーティン様の言い分で間違いないでしょうか?」
「そ、それはなんだ?」
「畜音型魔道具ですわ。悪いとは思ったのですが手っ取り早く終わらせる為にマーティン様の会話を畜音させて頂きました。でも、ここまで見事に自供されるとは思わなかったですわ、(本来ならルーカス様が自力で解決すべき話なのですが…)」
「そんな卑怯な手を使うなんて、さすが公国の悪魔だな!」
「そんな二つ名もあったのですか、卑怯なのはお互い様です。それよりも王族を陥れようとした罪、どう償うつもりですか?」
「で、殿下違うんだ、これは殿下を救う為にした事なんだ、王国を救うためでもある、この女、殿下と結婚したら絶対に王太子を罠に嵌めて王妃に成り上がろうとするに違いない、だから──」
「マーティン、もしそれが正しいとしても、僕はそれを許せないし、そんな事を頼んだ覚えはない」
おや、きっぱりと言う所は男らしいですね。そんな所もあるのですか。
面白いので見ていたいところでしゃありますが…。
「ですがこうでもしないと、この女、自ら婚約破棄しないですから」
「だとしても、僕に瑕疵があるような形ではダメなんだ!」
うん?
う~ん?
やはりそういう事なのですね。
「じゃあ、そういう事で、わたくしは失礼しますね。現行犯のヴァイオレットさんを問い詰めてきますので」
「「え?あ、はい」」
後は二人でじっくり話せばいいのです。
まぁ、畜音型魔道具を仕込んでいるので、後でお聞きしますが。
さて、エレノアさんは付いて来るとして、クレアさんはあの場に残ったようです。
そして何故か、エリンさんまで付いてきたのです。
「エリンさん、マーティン様に付いていなくていいのですか?」
「あの、私を雇って頂けないでしょうか?」
「は?」
「あんな事をしておいて許してもらえないかもしれないですが、ジェンキンス公爵家の財政は本当に酷くて私を雇っておけるのもあと二カ月だけだと言われていたのです。それでマーティン様は焦ってあんな事を私にさせたのです。マーティン様が嫌いではないですが、無鉄砲さに少し付いていけなくて…」
うーん、わたくしの傍仕えなんかになった暁にはもれなく人質になるのがオチですからそれはないとして。
どうしたものでしょうか。
「エリンさんって農作業とかも得意ですか?」
「いえ、そういうのは生憎、でも覚えます頑張りますからお願いします」
「エレノアさん所では…」
「ウチもそれほど裕福ではないので、ちょっと」
「わかりました。ですが王都に居る間にわたくしの傍仕えになると命にかかわりますから、一旦、アルヴァレズ領に行っててもらえますか?前よりも良い給金の何か良い仕事を貰えるようにしておきますわ。道中が危険なので向かえの騎士が来るまでは現状維持していた方がよいでしょう。それまでの間はマーティン様に仕えておいてくださいな。それがダメそうならエレノアさんの傍仕えという事にしましょう」
「私がお金を出さなくていいのでしたら、それでいいですよ」
「ありがとうございます!」
マーティン様の後見人にも少し興味がありますね。
エリンさんはスキップしながらマーティン様の元に戻っていきました。
まぁ、暫くは現状維持ですから、わたくしに付いてまわっているとマーティン様に何を言われるかわかりませんからね。
それよりも、ヴァイオレットさんですね。
早歩きでヴァイオレットさんの部屋の到着。
ドアをノックしようとしたとそ時、部屋の中から大きな物音がした。
ガッシャーン
「ヴァイオレットさん!入りますよ!何事で──」
部屋にはヴァイオレットさんを小脇に抱え、窓から逃亡しようとする仮面を付けた男性が居た。
さらさらした金髪をなびかせながら不敵な笑みを浮かべ、そのまま姿を消したのです、それはもう蜃気楼の様に。
「エレノアさん、今の人は誰かご存じですか」
「いえ、仮面を付けていたのでさっぱりわかりませんでした」
「せめて人相書きくらい残して置きたい所ですが、姿を覚えていますよね?」
「はい、さらさらした青髪?あれ?緑髪でしたっけ?ゴワゴワだったでしょうか」
「いえ、茶髪で…あれ?ピンク色の髪でしたっけ?そもそも髪がありましたけ?」
「さっき見たばかりなのですが記憶が…」
「はっ、これは遅延型の認識阻害の魔術もしくは魔道具ですわ。きっとあの覆面ですわね。あれ?眼鏡でしたっけ?」
「シャーロット様、迷ったら阻害されていという事ではないでしょうか、でも何かを顔に付けていたのは確かですね」
「してやられましたね、きっとルーカス様が婚約破棄と言いそうになったのを邪魔したのもあの人でしょう」
とぼとぼと歩きながら、ヴァイオレットさんの件を寮長に報告、マーティン様に誘拐幇助の罪状を言い渡して対犯人対処は終了しました。
残るはルーカス様との対話です。
色々言いたい事がありますが、気になって仕方がない事があるのです。
その為にルーカス様の部屋で話す事になりました。
もちろん二人っきりです。
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