第11話 目的は断罪?その先?

「ああああ!私の『秘宝、彼氏の心も鷲掴み!ずっちゅん魅惑のペンダント』がああああ!」


 な、なんなのそのネーミング。

 わたくしの二つ名といい、王国のネーミングセンスって酷くないですか?


「そのペンダントの力でルーカス様を魅了してたって事で間違いありませんね?」

「なによっ私、悪くないもん!貴女みたいな殺人鬼が王族になるなんて許せない!死んでしまえばいいのよ!」

「殺人鬼…」


 いつか言われるかと思っていた一言。

 その言葉に誰もが目を逸らす。

 恐らくは誰も思っていて、言えずにいた言葉だったのでしょう。

 でもね…。


「では、その文句を先王様に直接言ってはどうでしょうか?決めたのは先王様です。先王様を説得して撤回させたのであればわたくしも文句はありません」

「無茶言わないでよ!先王様は隠居してからずっと行方不明でしょ!そんな事も知らないの!?」

「そうなのですか?ルーカス様」

「ええ、僕も知らないです、でも僕はそんな事気にしていま──」

「仕方ありませんね、わたくしが連絡を取ってさしあげますわ」


「「え?」」


「いえ、先王様はお爺様と一緒にアルヴァレズ領で隠居生活していまして、魔道通信を使えばお話できますよ?わたくしの部屋に来ていただけます?」

「え、やだ、それはちょっと、恐れ多いと言いますか、なんといいますか」

「やだじゃないですよ、恐れ少ないので来てください」

「先王様って、前の王様なのですよ!おいそれと話せる訳がないじゃないですか!」


 そんな恐れ多い人なのですかね。

 正直に言えば、ただの酔っ払いのお爺ちゃんって感じなのですが。

 もちろん、表向きはオブラートに包みますよ?


「そうなのですか?わたくしにとってはお爺様みたいな存在ですから、気軽にお話できますよ?ただ夜になると…その、お酒が入って少々お下品になるので、早い時間帯の方がよろしいかと」

「そんな気軽に話せるのって、シャーロットだけですよ!」

「それではルーカス様が話しますか?だとすると、魔道通信機をこちらに持ってこないといけませんね」

「僕だって話したくないです、それに僕にはその交渉は不要だと愚考します」


 愚行って。

 いやいや、ルーカス様のお爺様ですよ?

 どうして話したくないなんて考えになるのでしょうか。

 まぁそれはいいです。


 問題はそれよりもヴァイオレットさんですよ。


「はぁ…、ヴァイオレットさん?少々我儘が過ぎますよ?婚約は認めたくない、交渉もしたくない、そんな事で自分の意思が押し通せるとでもお思いですか?それに先王様が土下座されたように、勝手に戦を始めて実質負けを認めたのは王国側です、わたくし達は降りかかる火の粉を振り払っただけ。何ら咎められる謂れはありません、それになんですか?そんな事情を無視して一方的にわたくしを目の敵にし、アイテムをつかって王族を無理矢理誘惑、それ自体に罪に問われないとでも?」


「そんなの知らないわよ!あのとき蹂躙されていればよかったのよ!ふえ、ふぇえええん、ルーカス様ぁ助けてくださいぃ」

「どうして僕が助けなくてはいけないのですか!」


 泣いた時点でヴァイオレットさんへの興味を失ってしまいました。

 もうね、アイテムなんて使わないでもっと直接的にきっちりすっぽり誘惑して頂ければ応援しようもあるのに、どうしてこんな残念な方法しか取れないのでしょう。

 それにいとも簡単に、精神支配されたルーカス様もルーカス様です。

 ただでさえ、エリンさんの件で立場が危うい状態だったのに、追い打ちをかける様に、わざわざわなにかかるなんて……、わざわざわな…わざわざわな…。


 いえ、なんでもありません。

 本題に戻りましょう…。


「そもそも、ヴァイオレットさんはどうしてこの部屋に?」

「そんなの教える訳がないでしょ!ルーカス様が絶望の淵に立っているなら甘い言葉で精神支配できる思ったとかないんだからね!」

「(……え?この人、勝手に自供してる…何?馬鹿なの?手間が省けるからいいんだけど……)」

「(シャーロット様、こういう時は、『などと意味不明な供述をしており』って言ってあげるのが礼儀です)」

「(王都の礼儀、難易度高いわね)」

「ちょっと舌が滑っただけよ!やだっ、もう帰る!」


 ヴァイオレットさんは器用にもわたくし達の隙間を縫うようにすり抜けて部屋を飛び出し、全力ダッシュで逃げ出しました。

 ですが一体どこに逃げようというのでしょうか。

 学園を去るというのであれば追いませんが、そうもいかないでしょうし。

 ですが、追いかけようとするわたくし達を邪魔する者がいました。


「マーティン様、そこを通して頂けますか?」

「あんなのは放って置いてよいでしょう。実質、隙だらけのルーカス殿下も悪い。それよりがエリンに行った行為の断罪が先でしょう。それよりも優先すべき事なのでしょうか?それともエリンが平民だからといって甘くお考えですか?」


「まったく…、断罪にわたくしが必要ですか?」

「ええ、貴女には見届けて頂きたいのです。そして、彼が貴女にふさわしい男か見極めてください。その上で賢い判断をして頂けると信じております」


 ふーむ…。

 確かにこの体たらく、罠に次々嵌まる所を見ていると情け無くて腹が立ちます。

 良い所探しをするにもまるで見つからず、わたくしに呆れさせて婚約破棄を言わせようと画策している様にしかみえません。

 うん…?

 方向性は違いますが、考えている事がわたくしと一緒?

 ヴァイオレットさんはイレギュラーだとすれば、納得の行く話かもしれません。


「シャーロット様?聞いていますか?」

「あ、ええ、聞いていますよ。法廷に出るって話でしたよね?」

「そんな事は誰も言っていません!}


 あーもうっ、何だかこの人面倒くさくなってきました。

 断罪でもなんでもすればいいのです。

 わたくしには事後報告だけしてもらえたら十分なのですけどね。


「いえ、もう出たほうがいいでしょう。あ、エリンさん、そのタオルを返して頂けますか?うっかり普段用のを渡してしまったの、お恥ずかしいわ。これ、替わりの新品のタオル、オマケにもう一枚つけますね」

「いいのですか?本当にありがとうございます」


 タオルを二つ渡した程度で喜ぶエリンさんに少々罪悪感がありますが仕方がないのですよ。

 ですが、わたくしが話を逸らした事にマーティン様は苛立ちが隠せなくなった様です。


「本当に法廷問題にするつもりですか?エリンからお願いされた事を無視するなんて酷いですよ。それにエリンが可哀想だと思いませんか、何をされたのか自らの口で言わされるのは女性にとって苦痛だと思うでしょう?同じ年頃の貴女にならより一層わかるのではないですか?」

「まって、ちょっとまってください、エリンさん何歳なのですか。わたくし年齢の誤魔化しとかしていませんが、ちゃんと十四歳ですよ?」

「(……え?こんなちいさな子が十四……?エリンは確か十歳だったはずだが……)」

「じゃないとこの学園に入れないでしょ!」


 もう、こればかりはご先祖様エルフの呪いとしか思えない。

 兄や妹の成長は一般的なのににわたくしだけが成長しないのです。

 体の成長速度が魔力保有量と反比例しているとしか思えない現状を考えると苛立ちを感じます。


「脱線して誤魔化そうとしてもそうはいきませんよ!」

「脱線させたのはマーティン様ではないですか!」


「法定より先にこの場でじっくり断罪しようじゃないですか」

「いいですが、現行犯ヴァイオレットさんの逃亡幇助は貴方の罪ですからね逃亡でもしたら覚悟してください、さらにもし彼女が思い詰めて自殺でもしたら自殺幇助も貴方に罪を背負って頂きますからね」

「は、早く終わらせましょう!」

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