第9話 少女拉致監禁事件
男子寮のルーカス様の部屋にお邪魔する事になりました。
もちろん一人ではなくエレノアさんも一緒です。
目的は、男子にクールクロースを販売するにあたり、クールクロースを何処に縫い込むかという話を詰める為です。
わたくしも男性向けの服のどこに付けるのが都合が良いかなんて知りませんし、かといって好きな所に付けてくださいと突き放した所で、裁縫なんて出来る男子は極々少数なのでわたくし達で仮縫いして試行錯誤しましょうという話となりました。
最終的に、男子が女子の誰かに裁縫を
男子はルーカス様、メイソン君、ジェームズ君の三人です。
それぞれ、ふくよか、がっしり、標準といった体形なのでサンプルとして申し分ありません。
男子の部屋にお邪魔するのは初めてですが、思ったよりも片付いていて安心しました。
ちゃんとお片付けできて偉いですねぇとか言ったら流石に怒るでしょうか?
そんな事より本題とばかりに最初は受注数の話題から入ったのですが、次第にどこからともなく聞こえる声の様な物が気になり始めました。
「あの、クローゼットから人の声が聞こえる様な気がするのですが、開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。開けてみてください、といっても服しかありませんよ」
ガチャ
思ったよりも多くの服を釣るというのは失礼でしょうか。
丈の長い服をかき分けると、あり得ない物が目に入ります。
「えっと、メイソン君、ジェームズ君、ルーカス様を拘束した上で三人とも目を閉じてください」
二人は訳も分からずといった様子で、わたくしの言う通りにルーカス様を取り押さえ目を閉じました。
「シャーロット姫、どうしてこんな事を…」
「むーむー、むむむむー!」
「ええ、もう大丈夫ですよ。怖かったでしょう」
「これは…ないわぁ…」
どんびきするエレノアさん。
もちろんわたくしもどんびきですよ。
「あの?シャーロット姫?そこに誰かが居たのですか?」
「ちょっと待ってください、三人とも目を開けたら命はありませんよ?」
クローゼットに入っていたのは、全裸で縛られた少女。
わたくしと同じくらいの背丈の子どもで、手足は縛られ口と目を塞がれていました。
痕が残らない程度に縛られていたので簡単に解く事はできましたが、これも
だとしたら、ターゲットがルーカス様に移った様に見えます。
「ふええええん、こわかったですぅ~」
「よしよし、だぶだぶでしょうけど、この服を着てくださいな」
ルーカス様のシャツを着せて、その上に丈の長いコートを着せました。
さすがにボトムズは腰回りが倍以上にありそうなので、シャツとコートだけです。
季節的に暑いでしょうけど、仕方ありません。
「全く、こんな子どもを誘拐監禁なんて…」
「貴女、自分の名前、言えますか?」
「えぐえぐ、はい、私はエリン、ぐすん、マーティン様の側仕えです」
「君!勝手にこんな所に入って、何をしていたのですか!」
「ひっ、ふぇ、ふぇええええん」
「ルーカス様は黙ってくださいっ、迂闊な発言は立場を悪くしますよ」
「えっと、事情を聴いておきますので、どちらかマーティン様を呼んできてもらえますか?」
「じゃあ私が行ってきます」
メイソン君が急ぎ、マーティン様を呼びに行き事情を聞く間も無いほどの速さで連れて帰ってきました。
「シャーロット姫ですね、初めましてマーティン・ジェンキンスと申します、エリンを救って頂き感謝の言葉もありません」
礼儀が完璧な挨拶といい、整った顔立ちに甘いマスク、情熱的な深紅に染まった髪の毛が綺麗で一瞬見惚れた程でした。
なるほど、これが眼福という物ですか。
「いえ、わたくし共は当然の事をしたまでですわ」
「そしてルーカス殿下、王族と言えどこのような狼藉、このまま在学出来ると思わないで頂きたい」
「僕じゃない!僕じゃないんだ!」
「この期に及んで言い訳かっ、これだから王家の権威が地に落ちるんだっ、この場は一旦失礼するエリンの着替えが終わったらも戻って来る」
「マーティン様?エリンさんが落ち着いたらわたくしの部屋に来るようにしてもらえますか?女子同士でお話がしたいのです」
立ち去り際に頷くマーティン様、感情を表に出さないでいるのは感心です。
それに比べて愕然した表情で力なく座り込む、ルーカス様。
もはや言い逃れが出来ないと諦めたのか、それともただ思考を停止したのか。
「ルーカス様、もし冤罪だと言うのであれば背筋を伸ばして堂々となさい、そして考え自ら突破口を開くのです」
真っ直ぐにわたくしを見つめるルーカス様。
まぁ、ぼさぼさの髪の毛と眼鏡が邪魔で瞳まで見えていないのですけどね。
わたくしは敵でも味方でもありませんから、自分に降りかかる火の粉は自分で振り払って頂きたいものです。
さて、これは
正直に言うと、ルーカス様の犯行とは到底思えません。
だって、そんな根性がある様には思えないのですもの。
そして、私はエレノアさんと一緒に自室でエリンさんを待ちました。
彼女が来るのは少し時間がかかりましたが、どうにか話せる状態まで落ち着いたそうです。
「エリンさん、暑いでしょう、冷えたお茶があるので、よければどうぞ」
「ありがとうございます、私暑がりなので嬉しいです。シャーロット様はお噂通りお優しいのですね」
「噂?(まぁいいですわ…)」
エリンさん、改めて見ると素朴な感じですが、顔立ちは悪くありません。
細いながらもそれなりのスタイルでしたし、将来美人になるのでしょうね。
「大変でしたね、落ち着いた様でよかったですわ。それにしても最低ですね、どうしてやりたいですか?」
「私、証言しろと言われましても、証言が恥ずかしくてできそうにありません。ですから裁判とかはちょっと…」
「それだと、無かった事になりますよ、それでもいいのですか?身分の差は恐れないで言う事を言うべきですわ」
「でしたら、罪を問わない代わりに、仕返しをして頂けないでしょうか?例えば、婚約破棄とか…、シャーロット様もそのような事をする殿方とは一緒になりたくないでしょう?」
わたくしが婚約破棄するよりも、エリンさんがルーカス様に鞭打ちをするとか、勝手にやってくれればいいのに…。
相手が王族なのと逆恨みが怖いとか、会いたくないって言うのはわかるので、無理ですよねぇ。
「考えておきますわ」
その一言に、肩の荷が下りたかの様に顔色がよくなっていくエリンさん。
その重圧はかなりの物だったのでしょう。
重圧というか圧力かもしれないですが。
「あら、暑いですか?随分汗をかいている様ですが」
「あ、申し訳ありません、ちょっと汗っかきなもので」
「でしたら、このタオルを肩にかけてみてください、ひんやりしてきもちいいですよ」
「はい、え、すごい、汗がすっと引いていきそうです」
「それは差し上げますよ、大変な目にあったのです、それくらいの役得あってもいいでしょう?」
「何から何までありがとうございます」
「クローゼットの中も暑かった事でしょう、どれくらい閉じ込められていたのですか?」
「三十分くらいだったのでどうにか耐えれました、シャーロット様の声がしたときは天の助けかと思ったほどです、実際そうでしたね」
「そう、その程度の時間で済んでよかったですわ」
話そこそこに、エリンさんを帰しました。
暖かいお茶を飲みながら少し考えに耽ると、エレノアさんが何か言いたそうにこちらを見ていました。
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