第6話 みんな仲良く食べましょう

 彼らから王家と軍部の現状というのを聞き出した。

 王位継承は既に実務を担う様になった王太子殿下に確定していると目され、継承権第二位のルーカス様は引き籠って居たと思えばあのような体たらくな状態なのですから、廃嫡も考えられているのではないかと噂されている。

 そもそもが優秀過ぎる王太子殿下に対する劣等感から引き籠ったと言われていたらしい。

 もし、王太子殿下がどうにかなったとしても今の状態のルーカス様に王位を譲るくらいなら王弟に王位を譲ったほうがマシだとも言われているらしい。

 さらに現王の隠し子の噂も上がっているとか。


 そんな事よりも、問題となるのは軍部の中でも特に魔術師団長がわたくしを目の敵にして、ルーカス様との仲を引き剥がしたがっている。

 その理由は魔術師のトップとしてのプライドと今の地位を奪われるのではないかという不安から権力の中枢に近づけたくないという。

 あとは停戦時の恨みを持った者が軍部に多くいるらしく、わたくしが学園に来るまでそのあたり人達はルーカス様へ当たり散らしていたとか。

 先日の魔術の実技での教師もその手先なのでしょう。

 単純で何ともわかりやすい構図。



 でもこれ、婚約を決めたのは先王とお爺様だし、わたくしは悪くないですよね?

 ルーカス様には同情します……、しますが引き籠りなんてせずに気を強く持っていて欲しかったですわ。



 五人前の夕食の用意をしながら、これからの事を考えていた。

 とりあえず、腕輪を作った研究所に制裁を加えるとして、魔術師団長とやらにも挨拶をしに行ってみたいですね。

 いっそ軍部の人間の性根を叩き直すかですか。


「シャーロット様、出来上がったもの運ぶの手伝います」

「俺も」

「私も」

「僕も」

「それでは、自分の分を持って行ってくださいな」


 五人というのもルーカス様、クレアさんに加えて、メイソン君、ジェームズ君を誘った。

 ルーカス様に対してメイソン君、ジェームズ君が虐めていた事を詫びて友達として関係の再出発となった。

 その仲直りのお祝とでも言いますか、わたくしが夕食を振舞う事になったのです。


「それでは」

「「「「「いただきます」」」」」


 わたくしの作る料理が美味しいのか物珍しいのか、判断はできませんが、喜んで頂けるなら作り甲斐があるという物です。


「シャーロット様、領地に居る時も料理をされていたのですか?」

「そうですね、わたくしの領地は新しく作られた村から始まりましたから、今では一大農作地といえど最初の収穫までは、猫の手も借りたいくらいでしたので、村人全員分のお食事をわたくしが作ってたくらいですね。だいたい一年くらいは毎日作っていました」


「その、こう言っては失礼ですが、一万人分のその、亡骸──」

「ストップっ、クレア嬢、それは食事時にする話ではないぜ」

「ジェームズ君の心配するような事は無いですよ。そもそも骨の一欠けらも残っていませんでしたから」

「それって、骨も残らない程に高熱で焼き払ったって事ですか?」


 食事中なので引かれる様な話はどうかと思いましたが、この流れであれば、わたくしの恐ろしさを伝える事が出来るかもしれないですね。


「粉々になったという方が正しいでしょうね。多分ですが骨が残ったとしても爆風で形状を保てなくなったのでしょう。爆発が起こったあと白、茶、黒と言った色をした粉が舞い降りましたが、それが結果的にいい肥料になったのかもしれませんね」


 口角を上げ、不敵な微笑みで威嚇。

 完璧ですわ。

 これで、ルーカス様に少しは恐怖を刻み込めたことでしょう。

 何せ被害にあったのは、この国の兵士なのですから。


「シャーロット姫、その話に感動しました。頑張って僕も姫に並び立てるような魔法使いになりたいですっ」


 九年もの前の基準に並びたてられても、嬉しくないのですけど?

 それよりどうして恐れないのでしょう?

 やはり、一度、爆裂魔法の恐ろしさを味わっていただくしかないのでしょうか。

 その時、ジェームズ君がそっと耳打ちをしてきました。


「(シャーロット様、もしやルーカスを怖がらせようとしています?)」

「(どうしてそれをっ、いえ、その通りですけど、どうにも上手くいかない物ですね)」

「(怒らないで聞いて頂きたいのですが、率直に申し上げてよろしいでしょうか)」

「(何でしょう?怒らないと約束しますわ)」

「(その、シャーロット様が威嚇しても、その可愛らしいお顔と小柄な体形のせいで、微笑ましいとしか思えないのですよ)」

「微笑ましいってなっ──」


 思わず立ち上がり、大声を上げてしまいました。

 お恥ずかしい。


「(ほら、今だって顔を赤らめているその姿、全員が加護欲そそられていますよ)」

「(仕方ないじゃないですか、好きでこの体形、この顔な訳じゃないのですから)」


「ジェームズ、君はシャーロット姫と何をこそこそ話しているのですか」


 あれ?怒ってる?

 嫉妬ですよね?

 嫉妬するほど執着されるとちょっと厄介です。

 それに、わたくしのが浮気をして婚約破棄されると言うのは、望む結果ではありません。


「ルーカス様?ジェームズ君は話の表現方法についてアドバイスをして頂いていたのですわ。その事に何の──」

「関係ありません!ジェームズっ、君に決闘を申し込む!中庭について来い!」

「ああ、望むところだ!」


 わたくしの言葉を聞かないルーカス様にカチンときました。


『闇の章二十二節、暗闇から這いずる触手よ、暗闇に引き摺る恐怖を与えよ!』


 二人の体はひざのあたりまで黒く変色した地面に飲み込まれ、黒い触手が彼らの動きを拘束した。


「うわぁなんだこれ」

「引き込まれる!」

「ふ~た~り~と~も~、食事中だという事を忘れていませんか?残す事は許しませんよっ」



 ゴッ

 ゴッ


 そういってお盆の淵で二人の脳天に一撃を入れた。


「「いててて」」

「ほら、さっさと食べきってください、その後でしたら決闘でも殺し合いでも好きにしていいですから」

「「はぁい」」


 黒くなった地面から脱出して、脱力気味に席についた二人には最早、闘争心は無くなっているように見えた。


「ルーカス…、まさかお前から決闘って言いだすとか思わなかったよ」

「その、僕も短気を起こしてごめんなさい」

「気にするな、私も今まで色々と申し訳ない事をした、すまない」


「もうっ、そんな話は良いから、さっさと食べる!」

「ええええ、ここは微笑ましいエピソードだろ?ちょっと静かに見守って──」


 ゴッ


 更に一撃を入れる。


「わかりました、(もぐもぐ)」


 見た目がアレ、更に短気に嫉妬…。

 本当に王位継承権がある事自体が不思議に思えて来ました。

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