第3話 最大出力魔法をとくとご覧あれ

 さて、魔術の実技の時間となりました。

 各自の実力を計るのが目的だそうです。

 ルーカス様のクラスと合同という事なのも都合が良い展開です。


 ちなみに、昨日の事はちゃんと謝罪しております。

 呼び出しておいて、碌に話もせず帰ったのですから謝るのは当然の事で、わたくしの態度が悪くて婚約破棄されるのは本意じゃありません。

 ですから、今日もお昼休みは屋上で待ち合わせる事にしました。


 ですが、わたくしの最大出力を見て頂ければ怯える事は間違いなく、婚約どころでは無くなるでしょう。

 もしかすると、お昼休みに屋上に来ないなんて事があるかもしれません。


「えーと、では目標に向かって、各自、好きな攻撃魔法を打ってください」


 少々やる気の無さそうな教師の一言で、生徒は4つの列を作り、順番に攻撃魔法を繰り出していった。

 大半の生徒は、カカシに当てるのが精いっぱいで、ごく一部の生徒がカカシの着ているボロ服を焦がすに至った程度だ。


 そしていよいよ、わたくしの番となった時でした。

 わたくしの後ろにはルーカス様が居います。


 絶好の見せ場ですわ。

 これで絶交間違いなしです……コホンっ。

 ……脳内発言だからセーフです。


 では手を掲げて攻撃しようじゃないですか。


「あ、シャーロット嬢はこれを付けてやってくれ」


 大きめで重い腕輪を両腕にはめられてしまいました。

 少々の眩暈とピリピリくる感覚があります。

 とても嫌な感じです。


「あの、これは一体?」

「それはな、一個で攻撃力を百分の一に抑える、所謂、リミッターだ」

「二個で二百分の一?」

「いいや?百分の一の百分の一だ。つまり一万分の一」

「これではわたくしの最大出力を見せする事ができませんわ」

「何を言っている、九年前のお前の攻撃でどれくらいの範囲が焼け野原になったと思っているんだ?」

「王都が一、二個入る程度でしかありません、そんな非難を浴びる謂れはありませんわ」

「十分酷いわ!ここは王都のど真ん中だっていう事を忘れないでくれ、なのに一体どこを爆心地にするつもりだ?周りは農家の方々が暮らしているんだぞ」

「ぐぬぬ、仕方がありません、このまま攻撃して差し上げますわ!」


 深く大きなため息が出てしまいます。

 これでは、予定が大きく狂ってしまいそうです。

 ですがハンデという物を背負うのも実力ある者の性と言えましょう。

 少し手法を変える事にしました。

 人差し指で目標を指さし、詠唱を始めた。


『元素の章十二節、我の求めに答えし水の精霊よ、指先に集い圧をもって凝縮し、弾丸を形成せよ』


 威力が制限されているよりは、周りに被害が出ない事を考える事にした。

 指先に水の球体が形成され、一気に凝縮した。

 小指の先よりも小さい極小の弾となった水の弾が出来上がる。


『元素の章十九節略唱、風の力を弾に込めよ、制動の章一節略唱、目標を貫き、破壊せよ!』


 導線を確定させ、圧縮した水の弾丸を飛ばす。

 鈍い低音のような衝撃波が周りの生徒に尻もちをつかせるほどに驚かせた。

 それと同時に、弾が突き抜けたカカシからは少し煙の様な物が立ち上がる。

 周りからは歓声が上がり、拍手する生徒から「すごい」「かっこいい」と褒める声を掛けられた。


 派手さこそありませんが、これでわたくしの恐ろしさがわかった事でしょう。

 出来る事をやりきった感を込めて振り向きルーカス様を見た瞬間。

 メキメキメキという擬音が背後から聞こえだした。


 メキメキ?

 音の方を見ると、遠くに見える国旗を掲げていた金属製のポールが倒れたのが見えた。

 それと同時に先生が頭を軽く小突いてきた。


「おいおい、誰が壁を突き抜ける様な魔法を打てと言った」

「えーと?何の事でございましょう?経年劣化ではありませんこと?あのようなポールはちゃんと耐久力のある物で作るべきですわ。あ、もしかするとポールを建てる為の公金を誰かが横領したのではありませんか?間違いなくわたくしのせいではありませんよ?攻撃力が一万分の一になっているのでしょう?壁を突き破る事が出来る訳ありません」

「まぁいい、腕輪を見せて見ろ」


 腕輪を見せようと両腕を突き出すと、鈍く輝く金属だった物が黒く変色している事に気が付いた。


「これはどういうことでしょう?」

「これはもう駄目だな。外すぞ」

「さっさと外してくださいな、重くて敵いませんわ」

「熱っ」


 ジュッという音と共に教師の手が赤黒くなっているのが見えた。


「大丈夫ですか?」

「それ、滅茶苦茶熱いぞ、いてぇ、酷いヤケドをした。シャーロット嬢は大丈夫なのか?」

「ええ、わたくし物理無効になるアーティファクトを身に着けているので、こういうのは大丈夫です」


 自分で腕輪を外し教師に渡そうとすると、教師は受け取りを拒否した。


「いや、まだ熱いままだろ?魔法で冷やす事は出来ないのか?」


 わたくしへの枷をどうしてわたくしが後処理しないといけないのでしょう?

 面倒そうに地面に腕輪を置いて、水を召喚して浴びせかけた。

 すると、異常なまでの水蒸気が辺り一帯を覆いつくし、『ぺきっ』という異音が鳴った。


「まさか!」

「あらあらうふふ…腕輪、壊れてしまいましたね。残念ですわ」


 ついうっかり口角が上がってしまいます。

 熱くなった物を急激に冷やせばどうなるかなんて常識ですわ。


「おい、これ、製造に研究所がどれだけ頑張ったと思っているんだよ!」

「そんな事、わたくしの知った事ではありません。そもそも生徒に枷をつける事自体、意味がわかりませんわ。それにその腕輪、何を目的に作られたのでしょうね?わたくしの無力化ですか?腕輪自体から禁呪の様な物を感じましたし、装着者に毒を注入する機構もあります、自分から外せれない様にもなっていましたね」

「いや、自分で外したじゃないか!そんな構造にはなっていない!」


 焦るような表情で、わたくしの意見を否定する。

 必死過ぎる言い分が面白おかしくて吹き出してしまいそうですわ。


「わかりました、では次からは、一旦、先生に装着して頂くという事でよろしいですね?問題ないですよね?何でしたら、今この場で壊れた腕輪を復元魔法で修理して、装着して頂く事もできますが、いかがいたしましょうか?」

「しなくていい!復元しなくていいから!」

「まぁまぁ、そう言わず。おや?ここに、既に復元済みの腕輪がありますね?これを先生の腕に…」

「今日の実技はこれまで、解散!」


 そう言って、ダッシュで校舎に逃げ込もうとする先生。

 当然ですがわたくしも追いかけます。


「ついてくるなー!」

「せんせ~?折角復元したのですから、動作確認しましょうよ~」

「いやああああああああああああああ」

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