第2話 妻の秘密①



 24と、他の令嬢が嫁ぐよりも遅い年齢で、我が侯爵家に嫁いで来たとはいえ、妻は多額の持参金と共にやって来た。

 何も、怯える必要などないはずなのに……。

 俺がため息を吐くたびに、彼女は身体を固くする。

 何かが、彼女の過去にあったんだろうか?

 噂話には余り興味がないので、真剣に聞いたことなどなかったが、過去、そのような話を聞いたような気もする。

 どこでだったか思い出そうとしているうちに、馬車は王宮へと着いた。


 無敵艦隊と恐れられた隣国スペルドの艦隊を破った国王ジョージは、国力増強のため、個人の能力を高く評価されており、我が国では、王に能力があると認められれば、次男、三男にも、王宮での高級官僚への道が開かれていた。

 学校で歴史が得意だった俺は、本来であれば教師になるはずだったが、王宮の、歴史書などの書籍と共に、様々な書類を整理する部署で働いていた。

 「歴史に学ばないものは、滅びる」をモットーに国を治め、歴史を重んじる王は、歴史の研究や、新しい歴史書や神話の編纂にも熱心だった。

 歴史というものは、現在進行形で動くものでもあるので、俺達の仕事は多忙を極め、時には地方などへの出張もあった。まさに、長男ではなく、次男、三男にふさわしい仕事だった。何より、身軽であることが求められる仕事でもあるので、既婚者の数は少なく、恋人や妻が出来ても、職場でからかわれることも少なかった。

 いつものように、帰宅時間が来るまで、黙々と書類に向かっていたところ、ドアの外で何やら話す声がして、

「アルベルト、治安部から、話があるそうだ」

 丸眼鏡に、さっぱりと整えられた黒髪の上司バーナードから、俺は部屋の外へ出るように促された。

 ひとまず、王宮の広い廊下へ出ると近衛兵になったエドワードがいた。

「よう!」

 と人懐こい笑みを浮かべると、エドワードは軽く俺を促すように右手を上げた。

「ちょっといいか?……奥方のことで聞きたいことがあるんだが」

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