第3話 重なる病魔

 明典はウメにも病名を告げた。

 こういう時は依然として女の方がしっかりしている。ましてや明典にとっては母親だ。

 ウメは、自分が悲しい顔をすると明典が悲しむことを知っていたので、息子にそんな思いをさせたくないと思い、多少は自分もショックを受けたが、それを隠して接した。


「なぁに、あんたがそんなしょげてても、私の病気が治るわけじゃなかろうに。あんたは未来ちゃんが落ち込まないようにサポートしてやんなきゃだぁ」

 そう言ってウメは、弱々しい手で明典の腕をパシンと叩いた。


 ウメの年齢からして、手術に耐えられないかもしれないということと、今は元気に過ごしているということで、延命治療はしないことにした。

 これはウメも納得でのことだ。


「そうだな。母さんは後悔しないように生きてくれな。なんか必要なものあったら言って」

「ありがとねぇ」


 ウメには、もうやり残したことなど思い浮かばなかった。息子夫婦と、可愛い孫の未来が健康で楽しく幸せに生きてくれることだけを祈る。



 そうしてウメも病院での生活に慣れ、同じ病気で入院している同年代の友達もでき、体調は安定していて、ここは老人ホームなのかと見間違えるほどに毎日楽しく生活していたところに、慌ただしく明典がウメを探してやってきた。


「母さんっ……!」


 明典は、ここが病院だということを忘れて走って来たようだ。息を切らしてウメを見つけると、叫んだ。


 一瞬その場がシーンと静まり返る。

 ウメの友達の患者も、何事かと目を丸くして明典を見やった。


「ちょっと明典。静かにしなさいよまったく……本当にこの子は……あ、息子です、騒々しいったらもう……」

「父さんが倒れて、さっきこの病院に運ばれた!」

 ウメを囲う患者達に明典のことを紹介しようとしたウメに畳みかけるように、明典が言った。


「え……?」

「俺の家に来てた時だったからすぐ救急車呼んだけど! ホント、家に1人でいる時じゃなくてよかったよ……!」


 ウメの伴侶はんりょである政明まさあき、つまり明典の父親は、普段から人一倍健康に気を使うタイプの人間だったため、突然倒れたと聞かされたウメも、最初はまったく理解ができなかった。


「それで、お父さんは……」

「今手術してる。母さん一旦病室戻ろう?」

「そうだねぇ……」

 ウメは身体を重そうに持ち上げ、

「それじゃちょっと、今日は失礼しますね」

とそこに集まっていた患者達に告げ、ゆっくりと歩き始める。

 明典は何も言わずに手を貸し、ウメの病室に戻った。


 ウメが手すり代わりにしてつかんでいる明典の手にかかる体重は、まるで子供のように軽かった。


 ──母さん……どんどん痩せてるな……。


 母が少しずつ弱っていくのを覚悟したはずだったが、やはり目の当たりにすると明典の目からは涙が出そうになる。

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