第98話 プレイヤー:メイド
「ミヨさん。噂はかねがね聞いています。可愛いテイムモンスターを連れているとか。本人もかわいいとかいろいろと、いろいろとね」
おかしいな。さっきまで俺に一切興味なさそうな態度だったのにここに来てこの反応とか。このプレイヤーの内面がよくわからん。
「ああ、私のプレイヤーネームはメイドです。今後ともよろしくお願いします」
「え、あ、はい」
圧が凄いんだけど。いや待て。プレイヤーネームがメイドなのか? 職業でメイドがあるかどうかはわからんが普通それをネームにはしないだろ。
「メイド……? えっと、さんを付けた方が良いか? というかそれがプレイヤーネームなのか? あまり使うようなものでは無いと思うが」
「間違いではなりませんし、名前は呼び捨てで結構です。いえ、呼び捨てにしてください」
相手のプレイヤーネームを否定したい訳ではないが、今までその名詞をネームとして使っている奴は見たこと無い。単純に俺が見たこと無かっただけかもしれないが。
それと、呼び捨てしてもらうことを懇願されるとか初めての経験何だが。何と言うかす凄く嫌な予感がする。そう思ってイケシルバーの方を確認すると、イケシルバーは露骨に視線を逸らした。
おいイケシルバー。お前都合が悪くなると視線を逸らすのやめろ。お前が連れて来たんだろうが。
「私は貴方に会いたかった。この前公開された第2回目のイベントPVを見てからずっと」
「は?」
メイドが言っている第2回目のイベントPVは半日くらい前に運営が公開した物だろうが、貴方今までそんな態度一切出していなかっただろ。会ってからここまでの1時間分思い返してもずっとそっけない態度だったはずだが、感情を隠すのが得意なタイプなのか。それとも単にいい感じに言っているだけなのか。
「それで貴方の装備なのですが」
俺が碌な返事をしていないのに、何故か話が進む。マイペースか?
ああいや、おそらくこいつは自分の言いたいことを全部言ってからじゃないと他人の話をほとんど聞けないタイプだ。それも本人が自覚している感じの。だから今まで話に入って来なかったのかもしれない。
「好きでその防具を装備しているのですか?」
「いや、他に良いやつが無いからこれを装備しているだけだな」
最近、課金ガチャの出が悪いんだよな。いや、良いのは出ているんだがテイマーだと装備出来ないのが多いんだよ。そういう物の大半はダンジョンの褒賞として使っているけど、本命のテイマー装備がマジで出て来ない。
てか、もしかしたらガチャから出る装備でテイマーが使える装備の数が少ないのかもしれない。武器なら魔法職と併用できるんだが、防具は装備制限が掛かっている物が多いんだよ。
「それは良かったです」
「良かった?」
「変にこだわりがあると話が進め辛くなるので」
「ん?」
「私、これでも一応裁縫師なんです」
ああうん。それは貴方の装備を見れば何となくわかります。と言うか、一応とか付けているけど絶対にそれは嘘だろ。
「今私が装備している服も自分で作った物で、この方の着ている装備も私が作った物です」
メイドが着ている装備はわかるが、イケシルバーの装備もこいつが作った物だったのか。
確認のためにイケシルバーの方を見ると、今度は視線をそらさずに深く頷いていた。執事服とスーツの中間のようなデザインだからプレイヤーメイドの物だとは思っていたが、メイドが作った物だったのか。
……今更だが、どうしてメイドはそのネームなのにゴスロリの服を着ているんだ? ネームからしてメイド服を着ていそうな感じなんだが。
「という訳で、とりあえずお近づきの印としてこれを差し上げます」
何がという訳でなのかわからないが、メイドはそう言うとインベントリから何やら黒い物を取り出し、俺に渡してきた。割と強引に渡されたそれは、つばの広い三角帽子……俗に言う魔女帽子だった。
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