第92話 ミヨガダンジョンヘ ※ガルド視点
イベントが終わった。結果としては上々だろう。パーティメンバーも同様に上位に食い込んでおり、なかなかに上機嫌なやつまでいる。まあ、そいつは獲得したポイントで欲しいアイテムを交換できたからだろう。
イベントが終わったことで本来なら俺たちは次のエリアへ向かう予定となっていた。しかし、今向かっているエリアは第2エリアだ。
自慢ではないが普段から最前線を張っている俺たちだが、どうして初心者エリアと言われている場所へ向かっているかといえば、少し前に見つかったダンジョンを調べてみるためだ。どうやらそのダンジョン、各階層をクリアするごとに出現する報酬箱、通称宝箱から武具が出ると報告が上がっているのだ。
大半のプレイヤー達と同じように俺たちも最初のうちはガセ情報として扱っていたのだが、どうも本当らしいことが最近判明した。
だから俺たちはこうして第2エリアへ戻っているというわけだ。他にも同じようなことをしているプレイヤーもいるだろうが、ダンジョンに関しては同時に入ったところで渋滞を起こすこそはないので気にする必要はないだろう。
少し前に実装された街間の転移装置を要いて第2エリアの主要都市まで移動した。ここからミヨガダンジョンまで走っていけば30分もかからないだろう。
そうして俺たちは久しぶりに第2エリアのフィールドに足を踏み入れた。
ミヨガダンジョンは新緑のダンジョンへ向かうルートの途中にある。何故か少しだけ道をそれ森の中に入る必要があるらしいが、運営は隠しダンジョン扱いにでもするつもりだったのだろうか。
そんなことを考えながら平原を抜け、森の中に入る。そしてウロボロスから買った情報をもとに進み、目的の場所に到着した。
まだダンジョンの入り口は確認できていない。この場所に立って森の中を確認すれば見つかる、ウロボロスから買った情報にはそう書かれていたからだ。
「あったか?」
「んーーあ、あれかな?」
メンバーの1人が森の奥を指差しながらそう言った。それを聞いて俺を含めた他のメンバーが指の先を見つめる。
「確かにあるな」
「他のプレイヤーはいないようだが」
「近づいたら別空間とかそういうタイプか?」
「とりあえず行くぞ」
そう言って俺は先に森の中に入っていく。距離としてはせいぜい20メートルほどか。道からはそうな晴れた位置にあるわけではないようだな。
さほど距離も離れていなかったのですぐにダンジョンの前に到着した。
鑑定の結果は『ミヨガダンジョン。推奨レベル:不明、階層数:不明 未クリアダンジョン』
どうやらここであっていたようだな。
「ここが武具の出るダンジョンねぇ」
メンバーの1人である六星がそう訝しげに声を漏らす。
「そうだけど、出ること自体は確実って結論は出ていたでしょう? ウロボロスにも本当に出るのかの確認は取ったのだし」
「つってもなぁ」
「まあ、六星はついさっきポイントで交換した武器を使っているから興味ないのかもしれないけど、他のメンバーは他のアイテムを交換したから武器は新調していないのよ?」
「それはわかっている。だからついて来たんだからな」
眉唾ではないにしても興味のない初期エリア付近のダンジョンに挑むのは、普段から最前線を張っている俺たちにとってさして興味のないコンテンツなのは理解している。
ただ、こう言った情報は自身の目をもって確認した方がいいのは今までの経験から実感じている。ゆえに今回はこうしてきているのだ。
「さて入る——」
「きゃーー!! ガルドーー!!」
いざダンジョンに入ろうとしたところで横から絶叫に近い声で俺のアバターネームが呼ばれ、不用意にそちらを向いてしまった。
その向いた先、視線の先には小柄な少女、小学生くらいの子供が楽しむアニメに出てくるような格好をした存在が、こちらに向かって森の中を走って来ていた。
「なんだ?」
「初心者にありがちな過激なファン?」
「いや……違うな」
ファンという部分を否定したいわけではない。明らかに今近づいて来ているプレイヤーは上級者であることに気づいたのだ。
常に絶叫しながら近づいて来ているから気づき難いが足音がほとんどしていない。そう動き慣れた足捌き、というよりはむしろこちらがこれに気づくか気づかないか、反応を楽しんでいるやつのそれな気がする。
「はろーガルドー! 時間いぃー?」
「ああ」
「え?」
突然近づいてきた変なプレイヤーの要求を即座に受け入れた俺に他のメンバーが驚きの声を上げた。何か変な表情で俺のことを見ている六星の姿が視界のはしにあるが今は無視しよう。
「やったー!」
「それでなんだ?」
「私はキュリアって言うんだけどー、第一回目のPVP大会1位のガルドー、フレンドになろー」
「ふむ、まあいいだろう」
「うにゅぅ? 意外とあっさりくれるんだぁ?」
「基本的にはせん」
「あやや? ということはー、もしかしてこのプリティーなキュリアが好みなんだー?」
「止めておくか?」
「あわわ! 冗談ー、冗談だからー。やめてー」
少し早まったかもしれない。そう思いつつもフレンド登録一覧を開き、フレンドの登録を済ませる。
「やたー。ありがとーガルドー」
両手をあげて喜ぶキュリアと名乗ったプレイヤーを尻目に、今登録したプレイヤーの確認をする。
フレンドに登録したプレイヤーについては一部だが情報を確認することができる。まあリアルの性別、レベルと職業、称号くらいだがな。それに非表示設定にしていればフレンドに登録したとしてもリアル性別以外は見ることはできないがな。
アバターネームは名乗った通りだな。レベルは俺たちと同じか。だいぶ高いな。おそらく俺たちと同じようにここを確認しに来たのだろう。
そして称号だが、第1回PVP大会ベスト16と。なかなかの実力者と見ていいんだろうな。
「ベスト16か」
「あーそれ装備品の性能差で負けちゃったんだぁ。それ以外だったら負けるようなことはなかったんだけどねぇ」
「六星より上じゃん」
「ぐぬぅっ!?」
六星が露骨に落ち込んだな。だいぶ前の話だと言うのにいまだに引きずっているのか。俺のせいでベスト32だったからな。真剣勝負であった故に致し方なしではあったが。
「やっぱソロだと難しぃかなー」
「そいつ次第だろう」
「そかー」
こいつの中ではすでに区切りがついているのだろう。大して気にしているような雰囲気はないな。
「ま、フレンド登録できたしー、今回はこれでじゃあねだよー。邪魔をしたいわけじゃないしねー」
「そうか」
「うゆー。じゃねー!!」
キュリアはそういうと来た時と同じように足音を殺しながら森の中に帰っていった。すぐにこの場を離れると言うことはすでにこのダンジョンには挑んだあとなのだろう。
「ガルドの好みはああ言うのかぁー」
嬉々とした声色で六星が声をかけてきた。おそらくあの時の恨みをここで晴らそうとしているのだろう。
「違う。それにこれを見てみろ」
そう言って俺はキュリアのフレンド情報を他のメンバーに見せる。
「キュリアちゃんの情報ねぇ」
「どれどれ」
「ふぅ……え゛!?」
他のメンバーもキュリアのリアル性別のところの記載に気づいたのだろう。
「あれが?」
「剛のものだったのか」
「これって俺たちが知ってよかったことなのか?」
「お前たちがいる場で登録したってことはいいってことだろう」
俺はリアルなんてどうでもいいと言う考えなのでどうとも感じることはないが、他のメンバーはキュリアのリアル性別は男だったことに驚き慄いていた。
ダンジョンに入る前に多少の衝撃を受けた俺たちだったが、この後、予定通りミヨガダンジョンヘの挑戦を開始した。
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