3章プロローグ

第91話 イケシルバーと霊泉

 

 イベントが終わった翌日。ウロボロスのメンバーたちは往々に各自が担当しているイベントに関する情報を集めていた。

 大半は報酬で獲得できる今まで無かったアイテムの性能の確認などだが、一部の必要ポイントが高かったアイテムの確認に難航している状況だ。


「霊泉、モンスターの卵の方はどうじゃった?」

「説明通り生まれてくるモンスターはランダムだと思います。ただ、獲得した人が少ないので確実、とは言えません」

「じゃろうなぁ」


 テイマーはプレイヤー全体の職の中でも最も数が少ない。その上、イベントに参加しなかったテイマーも多く、参加したテイマーの中でもモンスターの卵を獲得できるほどポイントを稼げた者は少なかった。


「それにランダムなのは確かなのでしょうけれど、各々で埋めれてきたモンスターのことを考えると、各プレイヤーごとにランダム選出のテーブルが違う気もします。私の卵から生まれたのはカースドウェポンのカポちゃんでしたが、他のプレイヤーでは似たようなモンスターが生まれたと言う話は聞きません。これはランダムテーブルそのものが、そのプレイヤーの趣向やすでにテイムしているモンスターに合わせてある可能性があると言うことです」

「ふぅむ」

「今まで聞いた限り、期待外のモンスターが生まれたという話を聞かないことからも、その可能性は高いと思います」


 ランダムであればハズレは存在する物だ。その中で期待外のモンスターが生まれていないとなれば何かしら他の要素があってもおかしくはない。


「確かにの。あ、そういえばモンスターの卵から生まれてきたモンスターは全て一度進化した後の姿というのは本当かのう?」

「今のところ全ての子がそうですね」


 霊泉がイケシルバーの問いに何を見ることもなく即座に答えた。サンプルが少ないから、ということもあるが今回のイベント交換アイテムのテイマージャンルに関して、全て把握しているからこそできる部分もあるのだ。伊達にウロボロス内のテイマー担当たちを率いているわけではない。


「ミヨ殿もおそらくモンスターの卵を獲得しているじゃろうしどうだったかの確認はしてみたいのぅ」

「あ、ミヨさんからはすでに連絡をもらっています。いくつか確認したいこともあるからと近いうちにこちらへ来るそうです」

「ぬぅ? なぜ其方へ先に連絡が行っておるのだ?」


 ウロボロスの中ではミヨと一番親交があると自負していたイケシルバーが腑に落ちないといった風に聞いた。


「イケシルバーさんがログアウト中のことでしたから、テイマー関連ということで私のところに連絡をよこしたようです」


 最近、リアル事情によってログインが不規則化していたイケシルバーにとってこう言った事態は度々遭遇していた。ミヨの連絡もそういう経緯で霊泉へ送られていた。


「なるほど、のぉ……」


 そう言って少しイケシルバーは黙り込んだ。その様子を確認しながらも霊泉は池シルバーのことを大して気に留めるような態度を示すことなく、淡々と自分に当てられた作業を進めていた。


「のぅ」

「ん? なんですか?」

「ミヨ殿の確認したいと言っていたことはどんなことかの?」

「あー、ええと、一つは蘇生薬についてですね。テイムモンスターにも効くのかって」

「蘇生薬は今確認中じゃったな?」

「はい。一応NPCにも効果があるとわかっているのでおそらくテイムモンスターにも効果はあるでしょう。まだ試してはいないので確実ではないですけれど」

「テイムモンスターに対しての確認が少し難航しているんじゃったか?」

「意図して殺すわけですからね。進んでやるテイマーはウロボロスにはいません。復活するという確証があるわけでもありませんから。ただ、現在外部からテイマーを探しているので、多少の報酬をつければ誰かしら志願してくれるとは思いますけど」

「そうか。それで1つは、ということは他にもあったということじゃな?」

「そうでうね。テイムモンスターを成長させるために魔法特化型のモンスターの素材はないか、と聞かれました。これに関しれはすでに持っている情報をいくつか提供しておきました。支払いは次に新しくテイムしたモンスターを見せるときに足りなかった場合に払うとのことです」

「了解じゃて。しかし、その質問からしてミヨ殿が手に入れたモンスターの卵からは魔法型のモンスターが生まれたということかの」

「そうでしょうね。それにミヨさんのテイムしているモンスターたちはSTRよりもINTの方が高いという子はいましたが、特化型の子はいませんでしたからね。それに戦闘方法になれば全員物理攻撃型でしたし」

「そうだったのぅ。そうなれば、先にお主が言っていたことの信憑性は高そうじゃな」

「でしょう? そもそも3000ポイントもかけて獲得した卵から運用が難しい子が生まれてきたら運営に凸してもおかしくないと思いますし」


 半数近いプレイヤーが獲得できたポイントとはいえその大半を使って手に入れた卵から全く使えないモンスターが生まれればその卵には3000ポイントの価値はないということになる。運、といえばそれまでだが、それでも現在のゲーム事情、世界事情から確実な不平等が生まれてしまうのは避けるべきことである。

 そのためにそのような感じの選別方法を組み込んでいてもおかしくはない。


「まあ、ミヨ殿の話はこちらに来てからでもいいだろうの」

「ですね」


 そうしてイケシルバーは本来いるべき場所へ戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る