第89話 対応と卵

  

 イベント翌日。俺は第4エリアの町に居る。


 第3エリアの町にあるギルド前で絡まれた後、さっさと第4エリアに移動してギルドで依頼を受けた。まだ一部依頼は達成していないがそう時間はかからないはずだ。


 イベント後の調整のため深夜帯にメンテナンスがあり、その中で一部のプレイヤーについてアカウント停止や一時的にログイン不可の措置を行ったことが公表された。

 今までのアップデートやメンテナンスの際にも同じように処分対象のプレイヤー名が公表されることが有ったのでおかしなことではない。


 処分対象の中にはギルド前で俺に突っかかってきた奴のプレイヤーネームらしきものもあった。処分内容は2週間のログイン停止のみだったが、そもそもあの時の話からして、掲示板での言動と他プレイヤーに対してありもしない言いがかりを吹聴したくらいなので、こんなものだろう。むしろあれでこの処分となると、やや重めの処分が下された感じもする。これはもしかしたら、人身御供と言うか見せしめに使われた可能性はあるだろうな。処分の理由も明確に記載されているしな。

 処分内容には記載されていなかったがおそらく掲示板への書き込みも停止させられているだろうから、これ以上変なことには発展しないだろう。


 どうも他に同じような事をしたプレイヤーも居たようだ。同じ場所に複数のプレイヤー名があることからしてランキングの結果が気に入らない、と思う奴が多かったのかもしれないな。


 これについて掲示板では、イベント中妨害していたプレイヤーが処分対象のプレイヤーに入っていない事への不満を出している奴らも居たが、あいつらについてはイベント中にペナルティが課せられていたし、別にあれがNG行為として注意事項に載っていた訳ではないのでおかしい事ではないだろう。さすがに特定のプレイヤーに粘着して妨害していた奴は処分されているようだったが。


 まあ、すでに終わったことだしこれに関してはもういいだろう。



 受けていた依頼をすべて消化した後、少し休憩する。

 ここはデジタル上の世界なので肉体的に疲労することはないが、どうしても精神的な疲労は感じる。なので、FSOの中とはいえたまにこうやって休憩することもあるのだ。


 空腹を回復させるために先ほど買った焼きそばパンを齧る。ファンタジーな世界観のゲームで焼きそばパンはどうかと思うが、見たことの無いような変な食材で作った料理を食べてみたいというチャレンジ精神はないし、ハズレた時の事を考えたら下手に手を出すことは躊躇う。

 そんな感じの考えで買った焼きそばパンだが、どうも中に入っている具材に違和感があるのだが気にしないことにしておく。見たら食えなくなりそうだし、味自体は悪くはないのだ。


 シュラたちも一緒に買ったパンを食べているが、スライム、植物、蜘蛛、猫と全く違う種族が同じパンを食べていることに違和感を覚える。ゲームだからそんな物なのだろうが、むしろ食べ物を気にしなくていい分、楽と言えば楽か。


 食べ終わったのでインベントリに入っているモンスターの卵を確認する。

 卵から孵るタイミングがいまいちわからないが、最初に説明文を読んだ時に『孵るにはもう少しかかる』的なことが書かれていたのでまだ少し時間が掛かるだろうか。孵るまでの時間の説明的にポケ〇ン的な感じがするので、歩数によって卵が孵る可能性が高い。

 確認したところ、モンスターの卵の状態が『もうすぐ生まれる(スタンバイ)』になっていた。


「もうすぐ!? いや、スタンバイって何だよ!?」


 想像以上に生まれそうになっているのが早い。本当に歩数で卵は孵るのかもしれない。しかし、スタンバイと記載されているのは何だろうか? 


「あ、もしかしてインベントリから取り出さないと生まれないのか?」


 たしかにインベントリの中には生きた状態の物は入れられないのだから、入れた状態では卵から孵ることはできないだろう。そう考えればスタンバイの意味は通じる。


「です?」


 俺が驚いて声を上げたことでシュラたちが寄ってきた。


「ああ、すまん。……いや、ちょっと待てよ?」


 丁度いいかもしれない。シュラたちにも卵から仲間が生まれて来る瞬間に立ち会ってもらうことにしよう。


「どう…したの」

「ああ、ちょうどモンスターの卵が孵りそうなんだ。お前たちも見るか?」

「しゅ?」

「にゃ?」


 卵からモンスターが孵るという事が理解できないのか、単に言葉の意味が分からないだけなのかはわからないが、わからないといった感じの反応しか返ってこなかった。

 ……まあ、いいか。どの道仲間になるんだ。生まれて来る瞬間を見ていてくれた方がより仲間意識を持ってくれるだろう。


 そう判断して俺はインベントリの中から卵を取り出した。

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