第88話 GMによる排除

 

 ああ、そう言えば少し前ののアプデでGMコールのプロセス変わったんだっけか。前はGMが要件を聞いてから動いていたが、今は先にログを確認してから来てくれるようになったんだよな。どうしても音声対応だと嫌がらせとかをして来ている相手がGMコールに気付いて逃げたり、キレたりするから妥当な変更だと思う。


「てめぇなにすんだよ!」

「ん?」


 いや、なにもしていないんだが……あー、もしかして今のセクシャルガードの反応を俺が何かしたと思っている? まさかセクシャルガードについて何も知らない……なんて無いと思うんだが、頭に血が上り過ぎて一時的に忘れているのか?


「まさかこんな所でもチート技能を使ってくるとはな! すぐにGMコールしてやるから逃げんじゃねぇぞゴミテイマー!」


 いや、GMコールは俺がもうしているんだが……

 それにしてもGM来るの遅いな。前は割と早い段階で来てくれたんだが、もしかしてGMの対処は必要ないって判断されたのか? 


 そう思いウィンドウを確認してみたが『現在現場に向かっています……』の文字が表示されていた。


 対処が必要ないと判断されていなかったことは良かったが、何故来ない? しかも現場に向かっているってどういうことだ?

 そう思い周囲を見渡すと、その理由に気付いた。


 ああ、周囲に他のプレイヤーが多いし、こいつが騒いだことで野次馬も集まってきているせいで周囲にプレイヤーが沢山いるからか。これのせいで近くにGMが転移してこられる場所が無かったんだろうな。


「あ? 何だこれ。GMコール出来ないんだが……あ!? もしやてめぇさっき俺に何かやったんだな!?」


 えぇ……マジかよこいつ。頭大丈夫か?

 普通に日常生活が送れているかどうか心配になるレベルで思考回路がおかしい。普通に考えても1プレイヤーでしかない俺がそんな事出来る訳ないだろうに。


 周囲にいるプレイヤーの中には未だに騒いでいるやつを憐れんでいるような視線を向けているのもちらほら居るようだ。


「あーはいはい。すいませーん。GMですー。通してくださーい」


 ようやくGMが到着したようだがまだ姿は見えない。どうやら人垣の奥に居るようだ。そして、プレイヤーをかき分けるように小柄な女性が現れた。頭上にGMと表示されている事からして俺が呼んだGM何だろうけど前に見た人と見た目が全然違うな。前はクールと言うか仕事人間感があったけど、今回の人は人懐っこい感じがする。


「なんだよ。GM来たじゃん。もしかして俺、無意識の内にコールしてたのかぁ! いやぁ、俺ってすげぇなぁ!」

「いえ、私を呼んだ方はこちらの方です。貴方ではありません」

「は?」


 叫んでいた男が自画自賛しているところにGMはありのままの事を告げた。それを聞いた男は呆気にとられたような表情をしてGMを見る。

 人懐っこいと思ったが、結構ズバズバ言うタイプなんだな。いやGM何だから当然か。


「到着が遅れてしまい申し訳ありません。すでにログの確認は済んでいます。セクシャルガードの発動、及び、会話ログに誹謗中傷発言も確認されています。これよりプレイヤー:アクシアの隔離処置を行います」

「はぁ? いや待てよ! 俺はこいつがチートしているのを問い詰めに来ただけだ! 何で俺が隔離されなきゃならないんだよ!」

「プレイヤー:アクシア。貴方の言うチート行為は根拠のない物です。さらに、貴方が掲示板に書き込んだ内容も確認済みです」

「だから何だよ。どう考えてもこいつがイベントで稼いだポイントはおかしいだろ! テイマーで俺よりもポイントが稼げるわけねぇんだ! そう考えてもチートだろうが!」

「イベント中は普段以上に不正行為の監視をしていますのでそれはあり得ませんし、この方のログも確認しています。私たちが確認した結果、この方は一切不正行為をしていませんし、悪質プレイヤーと協力関係でもありませんでした。そのため、イベント時に獲得したポイントは全てこの方の実力によるものです」

「んな訳ね――」


 叫んでいる途中で男が消えた。おそらくこれ以上話を聞いても無駄だとGMが判断したのだろう。


「プレイヤー:アクシアを隔離処置しました。他に被害は無いようなので私も元の業務に戻ります。悪質なプレイヤーに絡まれたなどの状況に陥った場合はすぐさまGMコールをお願いします。質問などはGMコールでは対応できませんので、ヘルプページ下部にある問い合わせへお願いします」


 周囲にいたプレイヤーたちにGMが会釈をする。そして最後に俺の方を向いて少しだけ真面目な表情を浮かべた。


「到着が遅れたこと再度お詫び申し上げます」

「いえ、あれはしょうがないでしょう。こんな状況ですし」

「ですが、本来ならもっと迅速に対応しなければならないのです。周囲の状況で到着が遅れるのは良くないのです。今後何らかの対策を考えなければなりません」

「まあ、そうかもしれませんけど、必要以上にしっかり対処していただきましたから」


 GMの仕事は悪質プレイヤーの隔離と処理であって情報の開示は含んでいないはずだ。なので俺がチート行為をしていない、という話は本来しなくてもいい事だ。それなのにしっかりと調べた上で、一切そんなことはしていないと断言してくれたことは凄く有り難い。あのプレイヤーが言ったことを俺が否定したところで、話を聞いていた他のプレイヤーに良いようには取られることはそうそうないだろうしな。


「確かにあれは私個人の判断です。ですが、到着が遅れたことで防げた部分もあります。それのお詫びも兼ねているので」


 ああ、そういう理由もあるのか。だが、それでもやってくれないGMも居そうだからなぁ。


「ともかく、GMコールありがとうございました」


 GMはそう言って軽く会釈して来る。それに合わせて俺も軽く会釈する。


「それと、頑張ってくださいね。でわでわー」


 何故か軽くウィンクしながらGMがそう最後に言い残し、シュンっといった感じのエフェクトを薄ら残し転移していった。


 最後の頑張ってどういうことだ? GMが1人のプレイヤーを贔屓にするとは思えないし、何か意味が……あ。

 GMの言葉の意味を考えながら視線を前に向けたところで、GMが言った意味が少し理解できた。


 俺の視線の先、いや、他のプレイヤーの視線の先に俺が映っている。

 変なプレイヤーに絡まれていたプレイヤー。

 GMを呼んだプレイヤー。

 俺の頭上に表示されている名前を見てイベントのランキングの上位に載っていたプレイヤーであることに気付いた。

 そう言った感じの好奇の眼差しを周囲に居るプレイヤーが俺に向けているのだ。


 この周囲に居るプレイヤーたちから凄く注目されているという、かなり居たたまれない状況に気付いた俺はすぐにこの場から離れようと考え、目的地であった目の前にあるギルドには寄らず、さっさと第4エリアに移動することを決めたのだった。

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