前語り ぬぐぁあぁぁぁっ?! の後 下

 

『ぐぬぅ、ぐぬぅぅ』


 アンゴーラが何やら唸っているが、額の宝石に触ってもプレイヤーメイドダンジョンについての説明が表示されなかったから、別の場所を触らないといけないのだろう。


 そう思ってアンゴーラの頭に触れる。しかし、余程目の前に表示されていると思われるウィンドウに集中しているのか、アンゴーラは俺が触れたことに気付いていないようで、ほとんど反応しなかった。



 ≪プレイヤーメイドダンジョン(以下:PMダンジョン)

 インスタントダンジョンを乗っ取ることで発生するダンジョン。

 プレイヤーだけではなく、NPCも挑みにくる場合がある。インスタントダンジョン同様、このダンジョン内で死亡(HPを全損)した場合、プレイヤーのみならずNPCもダンジョンの入り口に飛ばされ、リタイア扱いとなりプレイヤーの場合デスペナルティーは発生せず、NPCも実際に死ぬことは無い。ただし、例外はある。

 ダンジョンの名称は、ダンジョンマスターになったプレイヤーが決めることが出来る。名称を設定していない場合は、PMダンジョンと表示される。


 ・ダンジョンポイント

 ダンジョンポイントを消費することで、ダンジョンを成長させることが出来る。ダンジョンポイントについては下記参照。

 ダンジョンポイントを消費することで、ダンジョンの構成を変えることが可能。また、出現させるモンスターやトラップ、ギミックなども追加・変更できる。


 ・ダンジョンコア:〇〇

 ダンジョンコア:〇〇は、PMダンジョンを管理するための補助AIです。補助AIを介してダンジョンの操作を行うことが出来ます。補助AIとしての性能は、ダンジョンの成長によって向上していきますので、最初は補助AIの指示通りにダンジョンを成長させることをお勧めします。


 また、ダンジョンに関する質問等も補助AIに尋ねることが出来ます。

 この機能を使用するには、補助AIの額についている宝石に触れることで、制限を解除する必要があります。

 ※ダンジョンコア:〇〇は元のダンジョンコアの状態に戻すことが可能です。ただし、それを行った場合、補助AIとしての機能を使用することが出来なくなり、ダンジョンコアと融合していた存在は居なくなります。また、元の状態に戻すことは出来ませんので、注意してください。


 ・ダンジョンポイント

 ダンジョン管理スキルを介して使用できるポイント。獲得方法は、ダンジョンに挑んで来た者を撃退する・アイテムなどを消費する・Fsを変換する、など。


 さらに詳しい説明はヘルプを参照してください≫



 アンゴーラの頭に触れたことで開かれたウィンドウに表示されている説明を読む。


 ふーん、なるほど。とりあえずダンジョンポイントを溜めて、ダンジョンを大きくしていけばいいのか。

 額の宝石は質問機能を有効にするための物か。……いや、何で最初から有効になっていないんだよ。運営、ちょっと不親切じゃないか?


 と言うか、アンゴーラはリストラ可能なのかよ。それに居なくなるってことは、存在が消滅するってことか? それとも、単にダンジョンから出て行くだけなのか。


 まあ、あの話し方が嫌いってやつもいるだろうし、性格?も合う合わないがあるからな。仕方ない事かな。他のダンジョンで出て来る補助AIが全て同じって訳じゃないだろうし、絶対に合わない補助AIもいるだろうからな。

 ただ、パッと説明を読んだ感じ、補助AIの機能を無くすのは相当その補助AIと性格なり何なりが合わないと感じない限り、デメリットの方が大きいからしないだろうけどさ。


 これ、補助AIを使ってダンジョンを管理するらしいから、アンゴーラに話しを聞かないと先に進まないよな? アンゴーラにも似たようなアナウンスが出ているっぽいし、さっさと聞くか。


「アンゴーラ」

『うぬぬ……ぅぐう?』


 いまだにぷらてあの腕の中で唸っていたアンゴーラが、俺に声を掛けられたことで目の前に出ているらしいウィンドウからこちらに意識を戻したようだ。


『ぬ、な……なんじゃ』

「ダンジョンの運営について聞きたいんだが、アンゴーラも凡そ把握できているだろ?」

『な……なんのことじゃ』


 アンゴーラが俺から視線を逸らす。

 この反応からしても大体は把握しているようだな。ただ、リストラが可能である以上、いくらデメリットがあるからって、こういった下手な対応はリストラされやすくなると思うんだけど。


 まあ、ダンジョンマスターだったのにいきなりダンジョンコアになって、さらに補助AIになったことで混乱しているから、その辺りに考えが及んでいないってことだろう。いや、リストラされる可能性をアンゴーラが知らないだけの可能性もあるのか。


「アンゴーラ、お前は補助AIがダンジョンコアの状態に戻される可能性があることを知っているか?」

『ぬ? 補助AIではなくなるってことじゃろ? 妾としてはその方がよ……はっ!?』

「ちゃんと把握できているじゃん。ああ、いや、そこじゃないな。えっと、俺の方の説明だと、ダンジョンコアに戻したら融合していた存在は居なくなります。って書いてあるんだよ。これって、最悪アンゴーラ死ぬんじゃないか?」

『え?』


 まったくその可能性を考えていなかったと言わんばかりに、アンゴーラは抜けたような声を上げた。

 うーん。補助AIについてはしっかり把握できているようだが、アンゴーラと俺で補助AIについての説明が若干違うようだな。まあ、プレイヤーと補助AIで受ける説明が違うのは、当然と言えば当然ではあるけどさ。


『妾、死ぬの? 妾は補助AIから解放される、って説明じゃったんじゃが』

「いや、あくまでも俺の予想だからな。ただ、死ぬことがなかったとして、補助AIから解放されるってことは、要するにただのウサギに戻るってことじゃないのか? 少なくとも、ここのダンジョンコアは俺の物になっているから、アンゴーラはダンジョンマスターには戻れないだろ」

『ぬあ!? そうじゃった!』


 補助AIから解放されたら、ダンジョンマスターに戻るつもりだったのか。

 と言うかこれ、アンゴーラを補助AIにして、上手くダンジョンを弄れるようになるのか? ダンジョンが成長すれば補助AIとしての性能が上がるって書いてあるけど、それでも不安なんだが。

 とりあえずダンジョンを弄ってみないとわからないな。ちゃんと成長するかもしれないし。


「なあ、このままだと時間がもったいないし、そろそろダンジョンを弄ってみたいんだけど。もし、アンゴーラがどうしても補助AIが嫌だというなら解放しても良いぞ?」


 正直、さっさとダンジョンを弄りたい。いくら俺に時間があろうと、安全装置としてのログイン制限があるので、ずっとログインし続けることは出来ない。だから、切りの良い所まで進めておきたい。


『ぐぬぬ……』


 早く決めて欲しいところだけど、アンゴーラに残された選択肢は補助AIであり続けるだけだと思うんだよな。最悪、死ぬ可能性があるし、良くてもただのウサギに戻るだけなんだから。まあ、元の飼い主に復讐するのは補助AIだと難しいだろうけど。

 ん? ああいや、別に今決める必要は無いよな?


「ああいや、すまん。別に今すぐ結論を出す必要は無いんだよな。辞めようと思えばいつでも辞められるんだし」

『……まあ、そうじゃな。解放されたとしてどうなるかはわからぬし、少しの間、様子見でも良いか?』


 補助AIの質問機能で聞けばわかるかもしれないけど、これ以上時間をかけたくないし、ある程度ダンジョンを弄った後に教えてやればいいよな? もしかしたら、教える前にアンゴーラ自身が調べて気付くかもしれないけどさ。


「どうするんだ。今決めないのなら、ダンジョンの操作をしてみたいんだけど」

『ふむ……まあ、どうするかは後で考えるとしよう。それでここのダンジョンの操作じゃな。えーと、ほれ。これを見るのじゃ』


 アンゴーラがそう言うと同時に前足を動かし、何かを投げるような動作をすると、俺の前に新しいウィンドウが開かれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る