第18話 納得できない勝利
上から落ちて来た岩に潰されたゴブリンタンクがポリゴンになって消えていく。その光景を目の前に俺は困惑を隠せなかった。
「何だよこれ」
助かったことは確かに助かった。初デスも回避できたから、ありがたい事には違いない。しかしだ。
何だろうか、横やりを入れられた気分と言えばいいのだろうか。結果的に助かったのは俺だし、横やりを入れられたのはゴブリンではあるがどうも納得できない感じはする。
ああ、いや、とりあえず残りのゴブリンを倒そう。納得できないとはいえ、このまま何もしないで負けるのは嫌だからな。
岩陰から出て来たところを狙われる可能性があるから、勢いよく飛び出し横に駆け抜ける。その際に残りのゴブリンたちの動向を確認する。
弓ゴブリンは弓矢をつがえた状態でこちらを見ていた。ゴブリンメイジに関しては岩が落ちて来た前と変わらない感じだな。
ゴブリンたちに向かって距離を詰める。弓ゴブリンもゴブリンメイジも近接戦闘向きではない以上、極力距離を詰めて戦った方が楽だ。
距離を一気に詰めて弓ゴブリンの内の1匹を速攻で殴り倒す。そこから補助魔術を放とうと粗末な杖を掲げているゴブリンメイジに向かってライトショットを放つ。ゴブリンメイジは魔術耐性が高いため、光魔術1発では倒せない。なので、行動をキャンセルされたことの反動で動けなくなっているところへ、距離を詰めて追撃を与えることでポリゴンに変える。
その間に弓ゴブリンが放った弓矢が飛んできたので身を捻って出来るだけ躱す。残念なことに1発食らってしまったが、まだ大丈夫な範囲か。
既に先ほどまでの戦いでHPは総量の3割を下回ってしまっているが、それでも近距離の弓矢でのダメージであれば後10発程度なら堪えることは可能だ。
ゴブリンメイジとは異なりダメージを与えられる手段を持っている弓ゴブリンを先に倒したいところだが、既に速度バフが付いているようなので後回しにし、ゴブリンメイジを倒す。
「はっ!」
「ぎゃが」
突き出した拳が弓ゴブリンにダメージを与え、ようやく最後の弓ゴブリンを倒した。
ゴブリンメイジを先に倒し、残っている弓ゴブリンに掛かっている速度バフが切れるまで逃げていたこともあり、ゴブリンメイジを倒してから割と時間が掛かってしまった。
「終わったぁ」
アバターである以上疲れることは無いが、長いこと戦っていたこともあり精神的に疲れてしまい、地面に座り込んだ。
今回のモンスターハウスで出て来たゴブリンの数は倒している間に数えられただけでも60以上は居た。
勝った。いや勝ちを拾った、か。先ほどの落石が無ければ確実に負けていたから、達成感が薄い。
負けるよりはましだ。そうだとは思うがモヤっとした感じが残る。あの岩が落ちて来たのが俺の持っているスキルの影響だとしてもあまり喜べない。
ステータスボードを開きスキル欄から落石を起こしたと思われるスキルを確認する。前に確認した時はスキル効果が不明になっていたが、スキルが発動したのなら効果が掛かれている可能性がある。
『幸運の流れ星:このスキルの取得者が危機的状況に陥るなどの特殊な状況に居る場合、一定確率でその状況を打破する何かが起きる』
予想通り説明が追加されているな。
あぁまあ、要するに自分に都合のいいことが起きるかもしれないスキルか。いや、ご都合主義スキルと言って良いかもしれない。
しかし、一定確率か。毎度発動する訳ではないと。確かに必ず発動するスキルとなればぶっ壊れ一直線だから当たり前だろうけどさ。一定確率ってのもおそらく1%かそれ以下だろうから持っていても意味が無い可能性もあるんじゃないか? 今回は運よく発動しただけだろうし。
「ん?」
視界の端で何かが光っているような気がしたので、そこに視線を向ける。
光の元は先ほどゴブリンタンクを圧殺した岩だった。それが時間経過によるものなのか、戦闘が終わったからなのかはわからないが徐々にポリゴンになって消えていくところだった。
そして俺が気付いてから数秒もしない内に岩はポリゴンになって消えた。しかし、そこには消えずに残っている岩の欠片のような物が見えた。
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