第9話 プレイヤー:イケシルバー

 

「それで話を聞きたいのじゃが、いいじゃろうか?」

「っ、ま…まあ、少しだけなら」


 笑うのを我慢するために了承してしまったが、嫌になったら逃げればいいよな。たぶん、逃げても追いかけて来るようなタイプではなさそうだし。それに情報系クランを作るのであれば情報提供をすること自体はやぶさかではないからな。


「それは良かったですぞ。しかし、ここで話すのは邪魔になる故、端の方へ移動しますぞ」

「ん? ああ、そっか。そうだな」


 そういえば、まだギルドの前だったな。他にも同じようにギルド前に留まっているプレイヤーはいるけど、ギルドに入ろうとしているプレイヤーにとっては邪魔な存在になっているようだ。


 フルダイブ型のゲームだから、他のVRゲームとは違ってプレイヤー同士のアバターが重なったりはしない。まあ、フルダイブ型じゃなくても重ならないように設定されているゲームはあるけどな。


 ギルド前に居るプレイヤーの大半は俺を含めてチュートリアルを終えたやつばかりだろうから、チュートリアルを終えてギルドの外に転移される場所は変えた方が良いと思うけどな。おそらく他のプレイヤーもこれが気になったと言うか邪魔だと思った奴らが既に要望を送っているだろうが、俺も後で送っておくか。


「こちらですぞ」


 今いる位置からそう離れていない場所へ、イケシルバーによって誘導される。


「では、貴方の種族について聞きたいのじゃが、その前にフレンド登録お願いできますかな?」

「…何故、フレンド登録する必要が?」


 おっとぉ? もしかしてこれが目的だったのか? 真っ先にフレンド登録を求めるのは不自然過ぎじゃないか?


「あっと、説明を先にすべきでしたな。簡単に言うと、現在種族関係の話は荒れている故、他のプレイヤーに聞こえる状態で話すのは危険なのじゃよ」

「あー、確かにそうだな」


 俺もログインして直ぐに絡まれたからな。あの時より時間が経っているならもっと荒れていても可笑しくない。

 という事は、フレンド登録自体は互いのためでもあるが、どちらかと言うと俺のためか? 最初に絡んで来た男みたいな遠慮どころか相手のことを一切考えていないプレイヤーが寄って来るのを防ぐために、ってことだろうからな。


「どうじゃ?」

「理由に納得できたから構わない。フレンドの申請はどっちから送るんだ?」

「良かったですぞ。それと、儂が言い出したのだから申請はこちらから送るぞい。ああ、話が終わったらフレンド一覧から儂のネームを消しても構わぬからの。これはあくまでここで話をするためにした事じゃからな。まあ、消すならこの場で消してくれるとありがたいがの」

「何故だ?」

「…消しても構わないとは言ったけど、フレンド欄からいつの間にか名前が消えていることに気付いた時、とても悲しかったから」

「え?」


 何か今、似非じじい口調じゃなかったのだけど、素の口調か? こんな口調のじじいなんて普通居ないだろうから、ロールプレイかキャラ作りに一環なのだろうとは思ってはいたが。


「ふほほ、何でもないですぞ。ほれ、申請を送りましたぞい」


 まあいいか。既に目の前に申請に対して許可するかどうかのウィンドウが出ているので許可する、のボタンを押してフレンド登録を済ます。するとフレンドの欄の一番上にイケシルバーのネームが表示された。


 ……こう思うのは悪いと思うが、最初にフレンド登録した相手のネームがイケシルバーってちょっと嫌だな。まあ、他に登録するような奴は居ないし、今後どうするかはわからないが。


「了承ありがとうですぞい。では、会話の方はフレンドチャットの方で行うつもりじゃが、よろしいですかの?」

「ああ、大丈夫だ」

「では、フレンドチャットを開きますぞい」


 イケシルバーがそう言うと同時にフレンドチャット用のウィンドウが表示された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る